第3話
悪魔憑きにとってこの世界は生きにくい。聖なるものがいっぱいあって、教会に入るなんて簡単なことも躊躇われる。
だから物事は簡単には進まない。一難去って、また一難とはまさにこのこと。
神父は言った。
南に三キロ。そこに聖ジョージ教会があり、そこに灰ヶ峰椿姫がいる。
しかし聖ジョージ教会は言わずもがな教会で、俺たち悪魔憑きにとっては天敵だ。
「教会だなー」なんて俺は呟いてみる。
「教会だねー」と夢果も呟いてみる。
目の前には教会。聖ジョージ教会だ。その両脇には教会とは打って変わって現代的な建物――ビルが建っている。不釣り合いにも程がある。
「さて、どうする?」
「車があればね」
まあ車があればそれで教会に突っ込んでさっきみたいになんとかなるだろう。周りを見回してみる。車はある。道路を走っているし、路上に駐車してあるものもある。
けれど……。
路駐の車を見て回る。だが一つもキーが差しっぱなしの車がない。
「盗める車はないな」
「夜刀、ピッキングできる?」
「お前、一度でも俺がピッキングしているところ見たことあるか?」
「ないね」
「つまりそういうことだ」
ピッキングで車のドアをこじ開けることなどまずできない。
さてどうしよう。また無理くりに突入でもしてやろうか。けれど、今度は《熱心者のシモン》ことローズ=デュランと対峙をする。無理に突撃しても返り討ちに遭うんじゃないかな。さすがにさっきの神父のときみたいにはいかないだろう。
――と、刹那。
シュッと空から弾丸のような黒い影が降ってきて、それは目の前にある聖ジョージ教会の屋根を突き破る。
黒い影が教会の屋根を突き破ることで轟くは凄まじい破壊の旋律。爆風が吹きすさび、教会の扉は強引に開かれる。当然ながら教会の屋根はその原型をとどめていなくて、これでは雨も陽光も防げない。
半壊したと言っていいだろう。教会は一瞬で廃墟となり、それはもう教会とは言えない。
俺は振り返り空を見上げた。俺の背後にもビルが建っているのだが、その屋上の方に人影を見る。距離があるので顔は見えない。人影が見えたのは一瞬で、それはすぐに引っ込んだ。
誰だ? と首を傾げていると、隣の夢果が言う。
「何か知らないけど、これで何とかなったね」
夢果の声でハッとなり、俺は彼女の方を向いて「うん」と頷いた。
そうだ。教会に入れない云々と悩んでいたが、何故だか知らないが教会は破壊され、これで問題は取り除かれた。
今は灰ヶ峰椿姫を助けることだけを考えろ。目の前には当の灰ヶ峰がいる。ならば、今はそのために何をするかを考えろ。
さて。
俺は気を引き締める。
戦いだ。戦いが始まるのだ。
俺は一歩踏み出し、また一歩踏み出す。
俺たちは教会に近づいていた。
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