幕間
七罪会議
甘木遊楽は《大罪セブン》の一員だ。《大罪セブン》とは天空集住地における諮問機関であり、その性質上、天空集住地にて実質的に権力を握っている組織である。
今日はそんな《大罪セブン》が一堂に会する七罪会議の日であった。
何かしらの案件があるとこうやって七罪会議の場が設けられるのだ。
「だるいー」
遊楽はそんなことをぼやきながら円状に設置された席の一つに着く。
「あらあら、今回の議題はあなたの持ち込んだものでなくて?」
遊楽の隣に一人の女性が座る。金髪にウェーブをかけ、豪奢なアクセサリを至る所に着けている女性だった。
「マモンか」遊楽は女性の方へ目を遣る。「だるいもんはだるいんだよねー。どんな案件でも」
「少しは責任というものを感じたらいかがですか?」
「責任なんてどうでもよくない? そんなのは私以外の人が負えばいいことだし」
「どこまでも堕落していますわね」
「怠惰なだけだよ、私は」
二人が話している間にも次々と《大罪セブン》の面々が着席する。
そして最後の一人、ルシファーの悪魔憑きである二十代後半の男性が席に着く。この男性はルシファー憑きということもあり《大罪セブン》におけるトップであり、この議会においても議長の役割を担っている。
席に着いたのは六人の男性女性。皆が《大罪セブン》。七席あるうちの六席が埋まった状態だ。
これですべて。全員が揃った。
六人で《大罪セブン》。七罪会議の始まりだ。
「さて」とルシファーの悪魔憑きの男が言う。「会議を始めようと思う。甘木くん、例の案件の進捗はどうなっているのかな?」
名指しされた遊楽はけだるそうに答える。
「まあ、いろいろあったけどおおむね良好といった感じですかねー。エレキシュガルはちゃんと保護しますよ。彼らが」
「では、同時進行のもう片方はどうかな?」
「こちらも良好かと思いますよ。それなりに鬱憤も溜まっているだろうし」
「ふむ。そうか。我々もいつまでも六人で《大罪セブン》を名乗るわけにもいかんからな。この機会に七人目の覚醒を促そうと策を打ったが、上手くいきそうで何よりだ」
「これを持ちかけたのは私ですけどねー」と遊楽が言った。
「わかっている。感謝しているよ」とルシファーの悪魔憑きが言った。
「あの」と言ったのは遊楽の隣に座るマモンの悪魔憑きの女性だった。「その人が本当に七人目だという保証はどこにもないわけでしょう。これで失敗したら誰が責任を取るのですか?」
マモンの悪魔憑きに追従するように数人が「それは確かに」「誰が責任者かははっきりさせておくべきだ」などと言った。
少しざわめく。しかしそれを遮るように遊楽が言う。
「心配いらないですよ。あの人は七人目です。私はずっとあの人に目をかけていました。これで間違っていたら、私は腹切りしてもいいですよー。なんつって」
「なんて古典的な責任の取り方ですの。でも、そう言うってことはつまり遊楽さん、あなたが失敗の際の責任を取るということで?」
マモンの悪魔憑きがそう言って、遊楽の方を見る。
遊楽は答える。
「そうですね。もし、あの人が七人目でなかったら、仕方ないので私が何かしらの責任を負ってあげましょう。更迭なり何なりあなた方の好きなように扱っていただいて構いません」
「まあまあ、そうカッカせず。これでダメならダメで別にいい。七人目は確かに必要だが、すぐに必要というわけではない。ただ七人目を得られる機会があったから、今回はその機会に乗じただけのことだ」
ルシファーの悪魔憑きがそう言った。彼は続ける。
「それはそうと甘木くん。地上で活動している彼らはあまり迷惑をかけていないかな?」
「迷惑とは?」
「地上に迷惑をかけていないか、ということだよ。悪魔憑きが、それも天空集住地の悪魔憑きが地上で暴れられると地上の人たちは天空集住地を敵として問題視するではないか。あまりにも度が過ぎると戦争という事態にもなりかねない。戦争は避けたい。これは統治者の御老人も同じ意見だ」
「地上と天空集住地はもともと敵対者なのだから、そこまで慎重になる必要はないのでは?」
「それもそうだが、争いなんてするよりしない方がいいだろ。戦争は勝てば金になるけれど、負ければ逆に金をしゃぶりつくされる。高いリスクを選んでもろくな目には遭わない」
遊楽の対面に座る男性がそこで口を挟む。
「それはつまり我々天空集住地は地上と戦争をしても負けるということですか?」
「そうは言っていない」
「そうですわ」とルシファーの悪魔憑きの言葉を継ぐ形でマモンの悪魔憑きが言う。
「お金稼ぎは賢くしなくては。いくら地上とは言え、戦争をすればこちらが負ける可能性も少なくはない。戦争は上手くいけばいっぱい稼げますけど、下手をすればそれまでなのです。負けるリスクのある賭け事をするなんて愚の骨頂。バカのすることですわ」
「だからそれでは我々が……」
「もしかして、あなたは天空集住地と地上が戦争をすれば一〇〇%で天空集住地が勝つと思っているのですか? もしそうだとしたら、それはとても傲慢だ。傲慢はあなたの役割ではないでしょう」
マモンの悪魔憑きが対面にいる男性に視線を送る。男性は苦虫を噛み潰したような顔をして何も答えなかった。
「あまり口論をするな」とルシファーの悪魔憑きが言う。「今回の会議は案件の進捗を確かめるためだけのものだ。とりあえず、案件は良好に進んでいる。そういうことでよかったな。甘木くん?」
「はい。この案件は私主導のもの。ですので、私に任せていただければこの先も首尾よく進められると思います」
「そうか。では任せたよ、甘木くん」
直後のことだ。遊楽のスマートフォンが振動した。
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