第50話『SweetNight』
由貴の柔らかな手を繋いだまま、彼と一緒に家へと帰る。
リビングに通して、由貴をソファーに座らせる。
「……お茶でも淹れて、一服しようか」
「ううん、別にいいよ。それよりも、真央もこっちに来て」
由貴はソファーの端の方によって、ここに座ってと言わんばかりに、トントンとソファーを軽く叩いた。
私は由貴の言うとおりに、彼の隣に腰を下ろした。
計らずともお互いの気持ちを知ってしまったからか、こうして二人きりでいることがとてもドキドキする。心臓の鼓動が今までにないくらいに激しい。由貴にも聞こえちゃっているような気がする。
何か話した方がいいかもしれないけれど、由貴と二人きりならこのまま静かな時間を過ごしたいな、とも思う。
由貴の方に視線を向けると、既に彼は私の方をしっかりと見つめていた。視線が合うと由貴は頬を赤くさせた。私の頬も熱くなっているから、きっと彼と同じように赤くなっているんだろう。
そして、由貴は右手を私の左手の上に置いた。その瞬間に彼から優しい温もりが伝わってくる。
「……僕、真央に助けられてばっかりだね」
由貴は儚げな笑みを浮かべていた。
「今回のこともそうだし、出会ったときもそうだった。僕が道に迷っていたところを真央に助けてもらった。僕、いつも周りに頼って生きてきて、誰かを助けることができたことが全然なくて。本当に情けないな……」
「そんなことない!」
そんなことあるか。情けないわけがない、と強く否定したいがために大きな声が出てしまった。
由貴の方に体を向けて、両手でぎゅっ、と由貴の右手を握る。
「由貴は私のことを何度も助けてくれたんだ。由貴がいなかったら、私はこんなにも楽しい高校生活は送れなかったかもしれない。今回のことだって、鷺沼に決断を迫られたとき、由貴の言葉で私は自分自身を強く持つことできたんだ。その時の由貴はとても男らしくて、格好良かったよ。頼れる存在だって思ったよ。私の中で、由貴はずっと私の心の中心に在り続けていたんだ」
「真央……」
もう、既にお互いの気持ちは分かってしまっている。けれど、大切な気持ちだからこそ、自分の口で、言葉で、ちゃんと伝えたい。
「私は由貴のことが好きだ。私と……付き合ってください」
好きだという気持ち。
これからもずっと由貴と一緒にいたいという気持ち。
出会ってからずっと抱いていた気持ちを、やっと自分の口で言うことができた。分かりきっているのに、由貴からの答えを聞くことにドキドキしてしまっている。
「……僕も真央のことが好きです。宜しく……お願いします」
由貴は顔を真っ赤にし、にっこりとした笑顔を浮かべながらそう言った。
私達はついに恋人同士になったんだ。本当に嬉しい。嬉しさのあまり、由貴のことを思い切り抱きしめる。華奢な彼の体を私の中に埋めてしまうくらいに。
「あうっ、真央……」
「私、由貴のことを絶対に幸せにするから」
「……僕も真央のことを幸せにするよ」
そして、お互いの顔を見つめ合う。気付けば互いの温かな吐息が口元にかかるほどに、由貴の顔がすぐ目の前にあった。
恋人同士がこんな状況になっていたら、もうすることは1つしかない。
「……由貴」
「うんっ……」
由貴の頬に手を添えて、彼と口づけをする。
2、3秒ほどだけれどとても長く感じて。彼の唇はとても柔らかくて。匂いも女の子らしいとっても甘いもので。
「ねえ、真央。もっと、して」
「……私も同じこと考えてた。今度は由貴からしてよ」
「……うん」
目を閉じて、由貴の唇を待っていると、程なくして唇に柔らかい感触。
でも、今回はそれだけでは終わらない。ちょっとざらっとしたものが唇に触れていて。それが舌だと分かったから、すぐに私の口に招き入れた。
くちゃ、くちゃ……と厭らしい音が耳に心地よく響く。その音の中にどうしても漏れてしまう私達の声が混ざり合う。
「……真央、可愛いね」
「由貴も可愛いよ」
「……ふふっ」
由貴は唇を光らせながら、可愛らしく笑った。
「僕、真央に何度も可愛いって言われていたから、ホモ・ラブリンスに女の子にされてもいいかな、ってちょっと思ってたんだ」
「えっ……」
「一度、ワンピース姿でバイト先のコンビニに行ったことがあったでしょ。それも、真央に可愛いって言われたかったからだよ。魅力的って言ってくれて嬉しかったな」
あの時のワンピース姿は女の子に混ざっても、絶対に一番可愛いと断言できる。そのくらいに可愛くて魅力的だったんだ。
「……確かに由貴の可愛さは立派な魅力だし、そういうところにも正直、惚れてる。女の子だとしても付き合うと思う。でも、由貴はかっこいいし、その……男の子のままであってほしいと思ったんだ。だって、そうじゃないと由貴との子供を……あっ」
な、何を言ってしまっているんだ私はっ! 男の子であってほしいことに一つに由貴との子供を産みたい気持ちはもちろんあるけれど、それをこの場で言ってどうするんだよ!
「あ、あのな……今、言ったことは……」
「つ、作りたい?」
「えっ……」
由貴は恥ずかしそうな表情をして、私のことをちらちらと見ながら、
「今はその、お互いに学生だし、結婚もしてないから駄目だけれど、大人になって……結婚したら子供……作っていこうね。僕も真央との子供が欲しいし。それで……いいかな?」
「うん、約束だよ」
さりげなくプロポーズされたってことでいいんだよね。結婚っていう言葉も出たし。
何だろう、この雰囲気。由貴が可愛いっていうのがもちろんあると思うんだけれど、何だか私が男で由貴が女のような気がしてきた。
子供を作る約束はしたけれど、こういう話をしてしまった以上、由貴とその……し、したい気持ちは生まれてしまうわけで。
でも、私達は高校生同士だ。今はまだ舌を絡ませる口づけで我慢しよう。ゆっくりと過程を踏んでいって、それで……その、いつか、その……し、しようかな。それでいいんじゃないか。急ぐことはない。食べたいと思っても、獣になるな。女のままでいるんだ。
「……由貴」
「なあに?」
「絶対に……絶対に結婚しよう。絶対だから」
「あははっ、何回絶対って言ってるの。男の子に二言はないんだよ。結婚しよう、真央」
「……うんっ」
良かった、私の勘違いじゃなかったんだ。
まだお互いに結婚できる年齢じゃないけれど、結婚しようって決めたら……あまりにも嬉しすぎて、由貴のことがもっと欲しくなってきちゃった。
「由貴が……食べたい……」
「えっ?」
「な、なんでもない!」
私、由貴に対して性欲強すぎるだろ! これで何度目だろうか。由貴と一線を越えるのは段階を踏んでからって決めたんだ。
「ただ、その由貴と一緒に夕ご飯を食べたいなと思って。あと、由貴さえ良ければ泊まっていって欲しい……かな」
「……いいの? 僕は別に構わないけれど……」
「私達は恋人同士なんだ。彼女の家に泊まっていいと思う。それに、せっかく恋人同士になったのに、由貴が帰っちゃうのは何だか寂しいというか……」
由貴に出会うまでは1人でも全然平気だったのに、由貴と出会ってからは一人でいることがちょっと嫌になってきている。また会えると思えば別に大丈夫なんだけれど、恋人の由貴だけは違う。どんな時でも側にいたいんだ。
「ふふっ」
「な、何だよ」
「真央に甘えられるのが凄く嬉しくて。一緒にいていいなら、僕はずっと真央の側にいたいな。じゃあ、真央のお言葉に甘えて、泊まらせてもらうね」
そう言うと、由貴は不意打ちで口づけをしてきた。無邪気に笑っている様子が本当に可愛い。こんなに可愛い男の子を彼氏に持っているのは私ぐらいだろう。
その後、私が作った夕ご飯を一緒に食べた。一緒にテレビを見た。私の部屋に行って好きな音楽の話をした。
そして、一緒にお風呂は……入らなかった。互いに一糸纏わぬ姿を見せるのはさすがにできなかった。由貴、私の順番で入った。
そんなことをしていたら午後10時過ぎになっていた。早めだけれど、今日はもう寝ることに。もちろん、私のベッドで。
「由貴、狭くない? 大丈夫かな」
「大丈夫だよ。むしろ、このくらいがちょうどいいっていうか」
「……実は私も同じことを思ってた」
シングルベッドよりはちょっと大きめだったので、由貴と私が一緒に横になっても大丈夫な大きさではある。ただ、ギリギリが故にどこかしら体が触れてしまう状況。まあ、相手が由貴なのでそこは嬉しい。
「……真央に腕枕して貰うなんて。僕と真央の立場が逆転しているような……」
「まあ、こういうのもありだと思うけどな」
私は由貴を腕枕することができて凄く幸せだ! しかも、自分のベッドで。これをすることが一つの夢だったんだ……!
「真央が凄く嬉しそうだから、これでいいのかも」
「……そういうことにしておいてくれ」
一つの夢を叶えた私はこれから由貴と一緒に寝て、夢を見るわけだけど。
「……何だかこうしていると、ドキドキしてくるね」
「そ、そうだね」
「……寝られるかな、今夜……」
「……口づけしたら、寝られるかな」
「口づけって目覚めるためにすることじゃないの……? それに、口づけしたらきっと今以上にドキドキしちゃう気がする」
多分、私もドキドキしちゃって……それこそ、眠れない夜になりそう。別に明日も休みだし、由貴となら眠れない夜を過ごしたっていいけれど。
「でも、してみよっか。僕、真央と口づけしたいし……」
「……うん」
すると、由貴の方から口づけをしてきた。
やっぱり、さっきよりもドキドキする。ただ、不思議と眠気が吹っ飛んでしまうことはなくて、むしろ口づけしたことで安堵の気持ちが生まれる。
「ドキドキするけど、何だか安心感があるね。このまま眠れそうな気がしてきた」
「由貴も? 私も同じ感じ」
「……じゃあ、もう寝ちゃおっか」
「今日は色々とあったもんね」
「うん……」
「じゃあ、おやすみ。由貴」
「うん、おやすみ。真央」
そして、由貴はゆっくりを目を閉じ、程なくして可愛らしい寝息が聞こえてきた。ホモ・ラブリンスに拘束されたりして色々とあったから、疲れが溜まっていたのかな。
付き合って間もない中、初めて一緒に夜を過ごすとなると、色々と……しちゃうカップルもいるようだけれど、そこら辺はゆっくりとステップを踏んでいけばいいか。私達は私達らしく、ね。
「おやすみ。大好きだよ、由貴」
そう囁いて、由貴の額にキスをすると、
「ふえっ」
と、由貴が声を発するものの、目覚めることはなかった。今の声は反射的に出たのかな。それとも、夢の中で私に同じようなことをされていたりして。
由貴と一緒に寝られることを嬉しく思いながら、私も眠りにつくのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます