第49話『茜色の約束』
鷺沼は沙織さんと一緒に体育館を後にして、ホモ・ラブリンスのメンバーも後に続いていった。その際、うちのクラスの授業を担当している教師も混ざっていたことに驚いた。世の中、誰がどんな行動をしているのか、本当に予想外のことばかりである。
そして、私は由貴、梓と3人で体育館を後にする。外を出ると空は綺麗な茜色になっており、斜陽が眩しい。
ホモ・ラブリンスとは決着を付けたんだけれど、私達三人を包み込む空気はまだまだ重いもので。そんな風になってしまっているのは、俯いた表情をして、時折ため息をついている梓が原因だろう。
校門を出て、私や梓の家の方向に向かって歩く。
う~ん、梓に何て声をかければいいのやら。
由貴も同じことを考えているのか、時々、彼と眼が合う。
「……ごめんね、真央ちゃん、岡本君。本当に……」
その言葉が梓から放たれたのは突然のことだった。
私と由貴は立ち止まって梓の方を見ると、彼女は今にも泣きそうな表情をしていた。
「私がありもしない噂を流したり、動画を撮影したりしなければ、二人が辛い目に遭うことはなかったのに。本当に……ごめんなさい」
震えた声で謝ると、梓は深く頭を下げた。
確かに、梓が動画の一件を遂行しなければ、小田桐とのことで由貴は色々ととまどうことはなかっただろうし、私も謹慎処分を受けるようなことはなかったかもしれない。
「もう気にしないでよ、香坂さん。小田桐君に迫られたりしたとかあったけれど、それも過ぎたことだし――」
「梓の言うとおり、あの一件がなければ、由貴や私はこれまで通りの生活を送れていたかもしれないよ」
「真央……」
「私と付き合いたい一心でやったことだろうけれど、由貴を巻き込んだってことは……梓にとっては由貴と私が付き合う可能性があるって考えたんだよね。だから、私達を引き離すようなことをした」
由貴の嫌いな暴力を小田桐に振るって、その動画を由貴に見せることで私が最低な人間だと思わせる。こうして由貴と私の距離を広げる。
「……由貴や私、小田桐がどんな気持ちになるのか考えなかったの?」
「ごめんなさい……」
「真央、香坂さんも反省しているんだし許そうよ」
「……私は梓を許さないなんて一言も言ってないよ。ただ、梓の気持ちを確かめたかっただけさ。きつい言い方をして、ごめんね」
私への強い恋心を抱いていたこと。『ばらゆり』に逆らったときの報復に恐れていたことなどで動画の一件を遂行したのは分かっている。
「『ばらゆり』から計画の内容を聞いたとき、梓も相当迷ったんだよね。たくさんの人を巻き込んで、傷つけてしまうことだから」
「……うん。たくさん迷った。でも、『ばらゆり』の指示に従わないとどうなるかは他の人から聞いていたから、言うことを聞くしかなかった」
「……そう、だったんだな」
男達に襲われた、という実例があるとやっぱり恐れの方が勝ってしまうよな。
「……私、最低だよね。2人を引き離して、私が真央ちゃんと付き合おうとしたんだから。『ばらゆり』の思惑通り、真央ちゃんに嫌われるべきなの……」
「……そう思う方がよっぽど許せないよ、梓。梓を助けたとき、約束しただろ。私達は何があっても、一生の友達……いや、親友だって。梓を1人にはしないって」
梓をいじめっ子から助けて、友達になったとき。私と梓の間で約束を交わしたんだ。何があってもずっと親友であり続けて、1人にはさせないと。
梓はその言葉を守るように、ずっと私の側にいるようになった。その中で彼女に私への恋心が生まれ、育まれてきたということか。
「……じゃあ、私とこれからもずっと親友でいてくれるの?」
「もちろんだ。仮にそんな約束がなくても、私と梓はずっと親友だ。だから、もう私に嫌われるとか離れるとか言わないでくれ」
私は梓の頭を優しく撫でる。
すると、涙を流していた梓はにっこりとした笑顔を見せる。それは私達が友達になったときの笑顔とそっくりだった。梓には今の私がどう見えているんだろうな。
「……ありがとう、真央ちゃん。ずっと親友だよ」
そして、ようやく梓の笑顔がいつもの笑顔に戻った。女の子として憧れてしまうくらいのとっても可愛らしい笑顔に。
「良かったね、香坂さん」
「……うん!」
しっかし、由貴の笑顔も梓に引けを取らないくらいに可愛いな。未だに彼が男の子であることが信じられないくらい。
「そうだよね。ちゃんと約束していたんだから、真っ直ぐに真央ちゃんへ好きな想いを伝えれば良かった。ホモ・ラブリンスに入会すれば、きっと真央ちゃんと付き合えるいい方法が見つかるかも、って思ったから……」
「そうだったのか」
「噂としては色々と聞いていたんだけれどね。それでも、真央ちゃんと付き合いたいと思っていたからね」
でも、それも『ばらゆり』の作戦通りだったんだよな。梓に対して復讐するための。ただ、梓が入会しようと思わせないといけないわけで。それだけ、鷺沼が育ててきたホモ・ラブリンスというグループの影響力は凄かったんだと思う。
「じゃあ、私は先に帰るね。真央ちゃん、岡本君」
「えっ、どうして……」
「だって、私がいるとお邪魔かなと思って。体育館で色々とあったんだから」
「……あっ」
そうだった。
そうだった!
私もそうだけれど、由貴も私のことを好きだって言っていた! それを思い出したら急に全身が熱くなってきた。汗を描き始めたから寒くもなってきた。
「……あ、あははっ……」
夕陽に照らされているからかもしれないけれど、由貴の顔が真っ赤っかだ! でも、それが物凄く可愛い!
「じゃあ、明日と明後日はお休みだから、月曜日にまた学校でね!」
梓は手を振って、私達に気を遣うように急いで走り去ってしまったのであった。
そういえば、今日は金曜日だったんだっけ。もしかしたら、今夜……由貴と2人きりで過ごすことができる可能性もあ、あるってこと?
「真央」
「は、はいっ!」
び、びっくりしちゃった。
「……これから、どうしよっか? 真央はどうしたいかな、って……」
由貴は私のことをジロジロと見ながらはにかんでいる。恥ずかしそうにしている由貴も本当に可愛いなぁ。
「……とりあえず、一緒に私の家に帰ろうか」
「うん」
そして、私は由貴と手を繋いで、私の家に向かって歩き始める。
これからどうしたいかなんて決まっている。ずっと、2人きりで由貴と一緒にいたい。それだけだよ。
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