第27話『クーデター-中編-』
――ホモ・ラブリンスのメンバーになったんだな、花音。
あの日の告白と、こうして私に抱きついている、今。この十日ほどで彼女の行動が変わった原因として一番考えられるのは、ホモ・ラブリンスに入ったことだ。
「さあ、どうなんだ。答えてくれないかな」
花音に答えを迫ると、彼女はふっ、と笑った。
「……ホモ・ラブリンスのメンバーだとしたら、何なの? 私が誰かに命令されていたとしても、私のすることは変わらない!」
「こんなことをされる相手が嫌がるとは思わないのかっ! それに、私はどんなことをされても花音とは付き合わないし、由貴のことが好きな気持ちは変わらない」
「そ、そんなことを言ってると――」
「花音がそこまで強気なのは、協力者が私達の様子を撮影しているからなんだろう?」
「その通り。今の映像があれば――」
「私が1人きりだと思ったら大間違いだ」
「えっ……?」
どういうこと、と花音は目を見開いている。
「あたし達がいるからさ!」
「この子が撮影した映像は消しておいたよ」
亜紀と桃花が女子生徒のことを捕らえていた。
そう、私は1人で学校を後にしてはいなかった。沙織さんのこともあって、私から少し離れたところに、亜紀と桃花がついてきてもらうように頼んだのだ。
「土曜日にホモ・ラブリンスのメンバーに襲われかけたんだ。そんな私が何も対策をせずに学校から出ると思ったかな」
「そんなっ……!」
「……ホモ・ラブリンスのメンバーが再び私を襲ってくるなら、必ず複数人で行なうはず。だから、こっちも複数人で対策したまでだよ」
まあ、より多い人数の方が心強いけれど、少数の方が色々と対策案が立てやすいと思ったから、亜紀と桃花に少し離れたところで護衛して欲しいとお願いした。
「私はただ、『ばらゆり』様のアドバイス通りに従っただけなのに……!」
「へえ、やっぱり命令したのは『ばらゆり』だったのか」
しかし、仮に土曜日のことも『ばらゆり』が命令したのであれば、花音にこんな命令をすることに違和感がある。
「どうしたの、真央。考え込んじゃって」
「……いや、一度失敗したことと同じような計画を、『ばらゆり』が命令するのかなと思ってさ」
「確かに、土曜日の時は私と小田桐君で真央を助けたんだもんね」
「ああ。時間を置いてからならまだしも、2日しか経っていない……まだ、私の警戒が強いこんな日にまた私を襲おうことを命令したんだろう」
土曜日の計画だって、カラオケボックスという密室空間が舞台で、襲おうとする事前準備として私にお酒入りのコーラを飲ませたくらいだ。それを考えると、今回の計画は穴が多すぎる。
「今日の私は酔っていない。協力者は1人だけ。土曜日の計画の二番煎じに思えた。まあ、私と花音の動画を撮って由貴に見せる、っていう脅迫というのが土曜日とは違うポイントだけれど」
「でも、その動画も、成宮さんとあたしで簡単に消去することができた」
「ああ。協力者が1人だけだったからね。ただ、土曜日のことを考えると……2人に掴まれたその女の子以外にも、あと2、3人くらい動画を撮る人間がいてもおかしくなかったんだけれどな……」
「だから、真央は難しそうな顔をしていたのね」
「うん、亜紀」
まあ、これは仮にどちらも『ばらゆり』が命令したとなら、という話だけれど。でも、それで間違いないと思う。
命令したのが『ばらゆり』であるとして、共通していることは複数人で計画を遂行しようとしたこと。違うことは土曜日の計画は用意周到であり、今日の計画には準備が足りなかったこと。
「でも、『ばらゆり』がこの計画を立てたのなら、そこには絶対に何か理由があるはずだ」
土曜日の計画の結果を踏まえた上で、今日のような計画を立ててしまうその理由。
私の知っているホモ・ラブリンスの情報から考えれば、私を恋人にするというのが一番あり得そうな理由だ。でも、2人が私と付き合いたい気持ちを叶えるなら、私を襲うなんていう形を取るだろうか。もっと、穏やかな方法を考えられたはずだ。同性愛を支援しているんだから。
「こんなことをしなくても、真央なら好きな気持ちに向き合ってくれるのに。まあ、真央には岡本君、っていう意中の人がいるから、私は振られちゃったけれど」
「えっ、成宮さんって真央のことが好きだったの!?」
予想外のことだったのか、亜紀は驚いた表情をする。
「うん、そうだよ」
「……ああ、でも何だか納得した。2人のことをスマホで撮影しているこの子を見る眼が物凄く恐かったから。真央のことが好きだったからなんだね」
「……だって、汚いことをしてるんだよ。そんな子に優しい目つきで見るわけがないじゃん。まあ、真央を抱きしめている高畑さんの方がもっと嫌だったけれどね」
桃花は可愛らしい笑顔をしながらも、とても低いトーンでそう言った。私が襲われそうになると途端に恐い態度を見せるよな、桃花って。それも、私のことが好きだからなんだろうけれど。ヤンデレっていうのかな、こういうの。
「そういえば、天野さんって真央とどういう関係?」
「え、えっと……好きな人がいるけれど、告白できないっていう同じ悩みを抱えた友達かな」
桃花の迫力も所為もあるだろうけれど、苦笑いをしながらそう紹介されると私達がとても残念な女の子にしか聞こえないな。
「うん、それならOK」
満足げな表情で桃花は頷いているけれどどこのお父さんだよ。
「そ、それで、これからどうする? 真央」
話題を変えたいのか慌てた様子で亜紀は私に問う。
「……とりあえず、花音を私の家に連れて行こう。それで、私に告白した後から今日のことまで洗いざらい聞くんだ。そうしたら、きっと土曜日のことについてもそうだし、ホモ・ラブリンスの本当の姿について分かるかもしれない」
同性愛を応援するグループなんて外見だけだろう。ホモ・ラブリンス……いったい、どんな目的で活動をしているのか、私は知らなければいけない。何せ、この団体のメンバーに二度襲われかけたんだからな。
「この女の子についてはどうする? あたしは彼女も連れて行った方が……」
「……彼女はスマホで動画を撮っただけだ。そのデータも消去しているんだろう?」
「うん、私が消したよ」
桃花が「消した」と言うとちょっと恐いな。
「ありがとう、桃花。じゃあ、彼女は解放しよう」
「でも、いいの? 彼女を野放しにして……」
「……そんなことはしないよ」
協力者も土曜日と同じような女の子を選んだとしたなら、きっとこの女の子も。
「もう、二度とこんなことはするなよ。約束だ」
私は協力者の女の子のすぐ目の前まで歩き、そっと彼女の額に唇を触れさせる。
すると、女の子は顔を真っ赤にし、
「な、なんて羨ましいことを! 真央、私の額にもキスして!」
その直後に、桃花が女の子の首を強く掴みながらそう言った。
「く、苦しいっ……!」
亜紀に拘束されている状態だったので、女の子は必死に体を揺らすなどして、必死に抵抗するが、首を掴む強さは更に強くなったように見えた。
「……しょ、しょうがないな」
このままでは女の子が死んでしまいそうなので、桃花の額にもキスをする。
「うへへっ、真央にキスされた……」
桃花は女の子の首から手を離し、嬉しさのあまりかその場で飛び跳ねている。まあ、桃花にはたくさん助けられたからな。このくらいのお礼はしないと。
「私は別にいいから。その……小田桐君にして欲しいし」
「……分かってるよ」
亜紀ならそう言うだろうと思っていた。その気持ちは分かる。私も口づけは好きな人……由貴にして欲しいから。それだけは譲れない。
「じゃあ、花音を連れて4人で私の家に行くか……」
でも……その前にある人物に言っておかないと。
「ばらゆり! どこかで私のことを見ているんだろっ! 絶対に……お前の思い通りにさせないからな!」
姿が見えず、正体の分からない相手に向かって、私はそう宣言した。ホモ・ラブリンスの思う通りになってたまるか。
そして、私は桃花、亜紀、花音を連れて家に帰るのであった。
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