第13話『想う人と憎む人』
どこからか視線を感じる。
誰かに見張られているような気がする。ただ、現在進行形で誰かから嫌がらせを受けているから、私の思い込みという可能性もあり得る。いずれにせよ、息苦しいのは確かだった。
「何だか、今日は恐い表情をしているわね。それが、入学直後に噂されていた『暴力女』の顔なのかしら」
一時間目が終わってすぐ、赤髪のセミロングの女子生徒が私に向かってそう言ってきた。確か、こいつはクラス委員の
「そんなに恐い顔をしてたか?」
「……ちょっとね。でも、凜々しいと思っている人の方が多いみたいよ。実際に私もそう思ったくらいだし」
「随分と評価してくれるじゃないか」
前だったら絶対に、この恐い顔が噂のネタの1つになっていただろう。それが凜々しいと言われるんだから驚きだよ。眼鏡を外し、髪をストレートにしたことが私に対する印象の変化に大きく影響したようだ。私はただ、由貴にそうした方がいいな、って言われたからその通りにしただけなんだけれど。
「真央ちゃん、誰かから嫌がらせを受けているの」
気付けば、梓が私のすぐ側に立っていた。
「嫌がらせ?」
「うん。今朝も、机の中に画鋲が入っていて、それが真央ちゃんの指に刺さっちゃって」
「……ああ、だから香坂さん、安藤さんの指を咥えてたんだ」
「……あ、あれは応急処置だもん」
そう言いながら、梓は頬を赤く染める。
彼女は応急処置と言っていたけれど、梓に指を舐めてもらってからは一切血が出なくなった。最善のことを梓はしてくれたんだ。
「私が怪我をしたら、梓はいつも的確な治療をしてくれるんだ。本当に私にとって最高のパートナーだよ」
「パ、パートナー!?」
梓は甲高い声を上げると、頬だけだった赤みがどんどんと顔全体へと広がる。パートナーという言葉が大げさだったのかな。でも、この言葉が1番当てはまるんだよなぁ。
「だって、そうだろ。梓を助けたあの日から、梓はずっと私と一緒だっただろ。思い返せば梓とは二人三脚で歩いてきたのかもね」
梓は私がいないと駄目みたいなところがあるけれど、逆に……私も梓がいないと駄目だったときがあった。そう考えれば、梓とここまで一緒に歩いてきたんだな、と思う。
「なるほどね。入学当初から2人は一緒にいるんだな、っていう印象があったけれど、本当にお似合いの2人ね」
「もう、鷺沼さんったら……そう言われると照れちゃうよ」
どうして梓が照れているのか私には分からないけれど。私とお似合いと言われたのが嬉しかったりするのかな。
「2人の邪魔をしちゃいけないから、私はここで」
鷺沼は何故か意地悪な笑みを浮かべて、他の女子生徒の所に行ってしまった。別に、私にとっては邪魔じゃなかったんだけどなぁ。鷺沼は何を思ったのか。
「それにしてもさ、梓。どうしたんだよ、さっきからそんなに照れて」
「……だって、お似合いって言われたんだよ、私達」
「お似合いって、私と梓のコンビがってことだろ?」
素直にそう口にすると、梓の顔の赤みがさぁっ、と消えていった。
「……う、うん。そうだね……」
梓はどこか寂しそうな表情をして、何かをごまかすかのように笑った。何だろう、コンビっていう言い方が悪かったのかな。
「私と梓は最高の親友同士だと思っているから。私達は一緒にいることが自然なんだっていう意味で、鷺沼はお似合いって言ってたんじゃないかな……」
「……そうだよね。一緒にいることが自然なんだよね」
「ああ、そうだ。梓が1番の女子だと思ってるよ」
「……うんっ!」
そして、梓はいつも通りの笑顔を見せてくれた。きっと、梓は私との関係を今一度確かめ合いたかったのだろう。今までも、これからも、ずっと一緒にいる親友であると。
こんなに私のことを想ってくれている人がいるのも事実であれば、私のことを憎み、嫌がらせをする人がいるのもまた事実。
私に嫌がらせをするのは誰なのか。私を憎む理由は何なのか。2時間目以降の授業もそればかりを考えていて、あまり集中できなかったのであった。
このまま、いつまでも黙って嫌がらせを受け続けるわけにはいかない。
こちらから迎撃するのも一つの手だけれど、誰が嫌がらせしたのか分からないので、手紙とかで呼び出すということもできない。
昼休みになったので、これからどうしていくかを考えるために、校舎を出て、特別教室の集まっている特別棟近くにある人気の殆どないベンチまで一人で行った。
「どうするべきかね……」
知らない人間に対してこれからどうするか。それはとても難しいことだし、考えるとかなり疲れることだ。
でも、そうなるのはその人間を目で見ようとするから。
目で見えないんだったら、体で感じればいい。人間には五感がある。視覚以外にも感覚はまだまだあるんだ。こういうときこそ、精神を研ぎ澄ませろ。
――ガシッ。
作戦、成功だ。
「……やっぱり、私が1人になるのを狙ってたんだな」
そして、私もこの時を狙っていた。誰か分からないのなら、その相手が現れるような環境をこちらから作ってしまえばいいと。
音や空気の流れに集中した結果、後ろから迫り来る手を掴むことができた。この手の高さからして、私の首を絞めて、私のことを苦しめようとしていたのだろう。殺すことも考えているかも。
「誰かといるときは画鋲を使って私を傷つけ、私が1人になったら直接手を下す。理由は知らないけど、相当私のことを恨んでいるみたいだな」
私は逃がさないように、手を力強く握った。
「さあ、その面を拝ませてもらおうかっ!」
振り返るとそこには、驚いた様子で私のことを見ている金髪ロングヘアの女子生徒がいたのであった。
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