やばいやつら
俺のところに女勇者が来たり、ぼっち勇者が戦士と戦った日と同じ日。
魔王は村に来ていた。
「絶対に明日は目にものを見せてくれる。ふふふふふふふ」
どうやら明日の食材を買いに来たらしい。
この前買ったものでもいろいろと作れそうなものなのだが、勇者をうならせるものを作るためには鮮度が高い食材が必要だと判断したのだろう。
明日の料理にかける魔王の本気がうかがえる。
……誰か魔王が勇者に最高の手料理を振舞おうとしている事実に面と向かっておかしいと突っ込んでくれる人はいないだろうか?
「お嬢ちゃん! 珍しいね! この前来たばかりじゃないか!」
「おお! 本当だ! 今度はうちの野菜を買っていってくれよ! 安くするぜ?」
この前と同じおっちゃんたちが現れた!
「……(ここで必要なのはトマトにジャガイモ、ポロネギ、玉ねぎじゃな……)」
魔王はおっちゃんたちを無視して一番いい状態の野菜たちを選んでいく。
「おお! さすがよく見てるねぇ……俺たちも見習いたいぐらいの目利きだ……」
「ああ! それに俺のところとお前のところ、ちゃんとどちらも見てくれる!」
それはただ単によりいいものを買いたいだけで、おっちゃんたちに配慮しているわけではない
「おっちゃん! いいのある?」
そこに見覚えのある二人がやってきた。
「ん? あんたは確か……」
「ほらあれだよ! 最勇さんのところの……」
女勇者の仲間、魔法使いと武道家だ。
二人とも戦いのときの個性的な服装ではなく、どこにでもいそうなごく一般的な服装をしていた。
「そうそう! よく覚えててくれてうれしいよ!」
そういった魔法使いは背が低く、見た目は小学生にしか見えない。
しかし聞いた話だが、女勇者のパーティーの中で二番目に年齢が高いそうだ。
ついでに一番は戦士だ。
「私たち最勇の中の影薄いせいかよく忘れられるんだよねぇ」
魔法使いはうんうんとうなずきながら少し悲しいことを言った。
まあ女勇者はさることながら女勇者につきしたがうように一緒にいる戦士も覚えられやすいだろう。
僧侶も僧侶でなんとなく濃そうだもんなぁ……。
でもまあ影が薄い度合いでいったら魔法使いよりもその後ろでたたずんでいる武道家のほうが薄そうだ。
魔王城で着ていたなぜか袖がギザギザになっていた服を着ていなければ、『あれ? いつの間にいたの』って言われても仕方がないぐらいの影の薄さだ。
顔の印象が薄いせいか、鍛え上げられている腕や足が隠れているせいか、無口なせいかはわからないがとにかく影が薄い。
武道家というよりも暗殺者や忍者っぽい。
「これで」
「はいはい! 今日も一番いいの持ってくねぇ! さすが!」
「うちのみずみずしいトマトに目を付け釣るとはさすがだね! 分かってるぅ!」
魔王はそういっておっちゃんに会計を頼むと同時に魔法使いや武道家がいることに気付いた。
(こいつら確か……誰じゃっけ……? 確か最近見たような……)
うん、この前殺しかけた人だよ?
確かに魔法使いはあのときよりも幼く見えるし、武道家は……うん、しょうがないかな。
戦いのときは絶対、あの服に目がいってただろうしね。
でも、魔法使いぐらいは覚えとこうぜ?
「あれ!? もしかしてマオさんじゃない!? ねぇねぇ! ほら! マオさんマオさん!」
「……ああ」
魔法使いは武道家の袖の裾を引っ張ってそういった。
……なんというか休日のお父さんと一緒に来てテンション高い子供に見えてきた。
「……その呼び方は……(女勇者の関係者か! そうなると魔法使いに……誰じゃ? この前の戦いでは見た覚えがないのう……監視官というやつか?)」
うん、そう思うのは仕方ないけど武道家ね?
「あ! やっぱりそうなんだ! この前はうちの勇者がごめんね? 悪い子じゃないんだよ? ただちょっと強引なところがあるから……」
悪い子じゃない、か。
ぼっち勇者が関わらなければそうなんだろうね……。
「いや、われ……わたしも楽しかったのじゃ……です」
魔王は女勇者のときっと同じように警戒しているのか変な口調になりつつ、ぎこちない笑顔を浮かべた。
別にいつも通りの口調でもいいと思うのだが……。
「そう? それなら良かった! あっ! そうだ! この後時間ある? 一緒にお茶でもどう?」
魔法使いはいいことを思いついたというように手を叩き、魔王をお茶に誘った。
なんていうか魔王をお茶に誘うって言葉だけ見ると普通におかしいよね。
「え!? えーと……まだ買い物が……」
魔王は目を泳がせ、少しそわそわしている。
別に本当のことなんだから挙動不審になることはないでしょ……。
「そうなの? んーじゃあ、終わったらで!」
「いや、でも……」
「もちろん、おねぇさんのおごりだよ?」
「えっと……」
「じゃあうちの勇者と一緒にいったっていう酒場で待ってるね! 待ってるからね! 来ないと次会ったとき買い物の邪魔しまくるからね!」
そういって魔法使いは走っていってしまった。
なんて強引な人だろうか。
たぶん魔王の対応を見て押したらいけると思われたのだろう。
というか最後ただの脅しだよね。
「えー……」
魔王はしばし呆然とし、助けをもともるために武道家に視線を向けた。
しかし武道家はもういなかった。
「ん? そこにいたあんちゃんなら二人が話してる間に買い物して行っちまったぜ?」
……なんと逃げ足が速い二人だろうか?
というかいつの間に魔法使いの後ろから動いていたんだ?
一切気付かなかった……。
やっぱり武道家じゃなくてもっとあう職があるよ……。
あれから一時間。
すこし悩んだが、買い物が終わった魔王は酒場に向かっていた。
いわく、『約束をしたのだから行くのが王としての責務なのではないか』だそうだ。
約束をしたわけではないのだが、まあ魔王がそう思っているならいいのではないだろうか?
「あ! マオちゃんこっちこっち!」
魔法使いはパフェを食べながら魔王を呼んだ。
魔法使いが座るテーブルには、他にも武道家と僧侶が座り、武道家はお茶を、僧侶はコーヒーを飲んでいる。
「……」
魔王が近づくと武道家はぺこりと頭をさげ、
「おお! あなたがマオさんですか!? いや、聞いていた通りお美しい方だ! 特にその小さなお胸! 魔法使い殿ほどぺったんこではありませんが、それでも素晴らしい! ただ、できれば五年前に出会いたかった!」
僧侶はペラペラとしゃべりだした。
うん、こいつ何言ってんだ?
「……変態じゃ」
これには魔王も思ったことを口に出してしまった。
「あっこいつは気にしないでただちょっと子供好きをこじらせただけの変態だから」
魔法使いが少しマイルドにフォローした。
が、
「何をおっしゃりますか! 子供だけじゃありません! あなたのような年齢はあれなのに子供にしか見えないような女性も大好きですよ! ちょっと私のこと踏んでくれませんか!?」
何が気に障ったのか、
「死ねよ」
「おっふ……」
魔法使いの冷ややかな言葉と目線すらも恍惚の笑みを浮かべて喜んでしまう
お前僧侶だろ!?
なんでロリコンなんだよ!?
なんでドМなんだよ!?
欲にまみれすぎだろ!?
「もっと……もっと……」
「やめろぉぉおお! 近づくなぁあああ!」
僧侶は椅子から降り、床を這うように魔法使いに近づいていく。
もうなんかホラーだよ。
自分に回復魔法すればダメージ受けるんじゃない?
「……無視したほうがいい。何か頼む?」
そのアブノーマルな光景を引いた様子で見ていた魔王に武道家が話しかけてきた。
「えっと……」
魔王と武道家が話している間にも事態は少しづつ進行している。
ついに僧侶は魔法使いの足元にたどり着き、足にまとわりつきだした。
魔王だって気にしたくはないが、自分の隣でこんなことが起こっていれば嫌でも目がいってしまう。
「離せぇえええ!」
「あっ! ああ! いい! さすが! あんっ!」
「……パフェでいい?」
魔法使いが
嫌な慣れだなぁ……。
「あ……はい」
魔王はかろうじて答えるが視線は魔法使いと僧侶に注がれている。
よく見ると僧侶は魔法使いに蹴られながらも自分を回復することで魔法使いの足にしがみつき続けているようだ。
「すいません」
「はい、ご注文……すいません、店内ですので……」
注文を取りに来た店員も引きながら僧侶に注意するが、僧侶がやめることはなかった。
「これお願いします」
そして武道家は武道家でマイペースに注文し、魔王はここに来たことを後悔するのであった。
ついでにあのカオスな状態は魔王がパフェを食べ終わるだいたい一時間後まで続くのだが、とりわけ見ることもないので割愛する。
とりあえず今日のあれこれで女勇者のパーティーは
……こいつら思ったよりヤバいな。
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