第三節
ぼっち勇者vs戦士
ここは魔王城に最も近い村の近くの森の中。
俺が女勇者と話し始めてすぐのころ。
魔物狩りもある程度終わり、森の中で昼寝でもしようとした勇者のところに戦士が現れた。
「あなたは、孤高の勇者……」
「……(……この人……誰? 知らない人に話しかけられちゃったよ……どうしよう……)」
今日の戦士は昨日の重装備と違い革の鎧を着た軽装備だったので、勇者には昨日の戦士といま目の前にいる人物が結びつかなかった。
まあそれは仕方ないが、たぶんそうじゃなかったとしても勇者は戦士のことをわからなかっただろう。
「ああ、昨日とは恰好が違いますしわからないですよね。私は昨日あなたに助けられた戦士です」
戦士は柔和な笑みを浮かべてそういった。
なんというか、この戦士いいところのお坊ちゃんっぽいんだよね。
話し方とか所作とか。
まあだから何だというわけではないんだけど。
「……(……ああ、あの邪魔って言っちゃった……いや、別あれは言いたくて言ったわけじゃなくて、なんというか、その……流れって言うか……その……すいませんでした!)」
おーい心の中でいっても相手には伝わらないんだよ?
頑張って口で言って!
ほら! ほら!
「……別に助けたわけじゃない」
ちがーう!
そうじゃない!
そうじゃないでしょ!
「……(やっちったぁあああ! なんで俺はこうなのかなぁ……なんかテンパるとこう、憎まれ口を叩いちゃうというか……なんというか……あーやっちまったぁ……)」
まあ反省しているならいい。
といっても毎回反省して毎回どうにもなってないから意味ないけどね。
「いえ、あなたがどう思っていても自分が助けられたことには変わりはありません」
なにこの人?
神父かなにか?
あなた本当は戦士じゃなくて僧侶なんじゃないですか?
おたくの僧侶と職業間違えたんじゃないですか?
おたくのところの特攻僧侶を僧侶とは俺は認めない。
「……あ、え……? (……なにこの人……こんな俺相手に普通に話し続けてくれるとか神かなにかか?)」
勇者が戦士のやさしさに触れ、心を開こうとしている!?
というか崇めだしそうな勢いなんだが……。
「この前はありがとうございました。あなたのおかげでパーティー全員生還することができました。本当にありがとうございました」
おお! 真面目で誠実!
やっとこの世界でまともな人間を見ることができるのか!?
女勇者はまじめではあったがまともじゃなかったからなぁ……。
「……(……)」
ヤバい。
優しくされすぎて勇者の頭の中が真っ白になってしまった。
これじゃあ目覚めたとき本当に戦士を崇めだすかもしれない!
「さて、この前のお礼も言ったことですし、本題に移りますか」
ん? 本題?
あー嫌な予感がするぅ。
「死ね」
戦士は目つきを変え、勇者に斬りかかった。
「……(……)」
しかし勇者はいまだに戻ってこない。
が、
戦士の剣は勇者の首をはねることなく、そのまま押し当てるだけとなった。
こっわ!
この人当たり前のように首を狙ってきたよ!?
「は?」
戦士は思わず間抜けな声を出してしまう。
普通に考えればわかることだが、魔王の魔法すら無傷でやり過ごす勇者の体をただの人間の戦士に傷つけられるはずがない。
「……ん? (あれ? どうして神が俺に斬りかかってるんだ?)」
神になっちゃったよ……。
「……あんた、本当に人間か?」
まあそう思うよね?
体固すぎるってレベルじゃないもん。
「……いいだろう。本気でやってやる」
おいおい、もう諦めなって。
さっきの攻撃だって本気で殺しにかかってたんだから結果は変わらないどころかいろいろと自信なくなっちゃうよ?
という俺の心配は聞こえるはずもなく、戦士は少し下がり技を繰り出す。
「光芒一閃!」
魔王との戦いで編み出した戦士の技、『紫電一閃』が進化した『光芒一閃』。
一瞬の光としか認識できないほど鋭く素早く切り裂く、剣の最奥に手を届くかもしれないほど洗練された剣技だ。
「……(速いし、鋭い、けど……)」
だがしかし、どんなに素早い技だとしても見切られていては意味がない。
どんなに鋭い技だとしても掴まれてしまえば意味がない。
そして、呆けていない勇者がそれらをできないわけがない。
戦士の技は体に触れることなく、当たり前のように掴まれた。
俗にいう真剣白刃取りである。
しかも勇者は人差し指と中指の立った指の指だけで軽々ととって見せた。
「……な、に……?」
戦士は驚きを隠せなかった。
確かに『光芒一閃』は魔王のバリアを切り裂くことはできなかった。
だが、それは女勇者の一撃ですらヒビもはいらなかったバリアが相手だったからだ。
どんなに防御が高くても、生身で武器すら持ってない孤高の勇者に止めることなどできるはずはないと思っていた。
なのにこれはどうだ?
完全に見切られ、二本の指だけで威力を殺された。
自分の中で最高で最強の技を軽々と止められた。
戦士の自信と誇りはいま、もろくも崩れ去った。
「……いい技だけど、使い手があんたじゃ話にならないな」
勇者は戦士の剣をいつの間にやら手にし、先ほど戦士がしていたのと同じ構えとった。
「……光芒一閃」
そして勇者は一度見ただけの『光芒一閃』を近くにあった大木にむかって放ってみせた。
しかしそれは『光芒一閃』であって『光芒一閃』ではない技だった。
一瞬の光すら認識できず、いつの間にやらすべてが終わっていた。
大木は着られたことにも気付かずにいまだそびえたつ。
しかし勇者がチョンと触ると二つに分かれ、倒れだす。
「……これがあんたの技だ」
ぼっち勇者は人間最強だ。
だがそれは人間の中で一番攻撃力があるとか一番防御力があるとかそういう基準で最強と呼ばれているわけではない。
勇者が最強と呼ばれる理由、それは一度見た技をすべて覚えてしまうことだった。
その上、元の使い手よりその技を高次元で使うこともできる。
魔王のバリアを一度貫いたのも指先だけに魔王のバリアと同じバリアを張り、貫いたのだ。
ただしこんな勇者も弱点はある。
それは魔法などを使うときに必要な魔力が並しかないため、バリアも指先に少ししか出せないし、『コキュートス』や『ブラックホール』などの魔力を大量に消費するものが使えないというものだ。
といってもそれ以外が強すぎるので何の問題もないのだが。
「なんで……なんでだ! なんでお前はそんなに強い! そんなんじゃ俺はお前を殺せないじゃないか!」
うん、こっちとしてはなんで勇者のことを殺そうとしているんだって感じなんだが。
「……さあ?」
勇者はそっけなく答えた。
ついでに先ほどから勇者がまともにしゃべっているかと思いますが、別に変なものを食べたとか、別人に変わったとか、そういうことじゃありません。
戦士が思っているよりも強くて戦闘に集中しているためこうなっているだけです。
心配しないでください。
こいつはちゃんとぼっち勇者です。
「……よくわかんないけど殺したいなら何度も来れば?」
「……なに?」
急になにをいいだしてんのこの勇者。
お、お前マジか……。
『本気でケンカをすれば仲良くなれるって聞いたことがある』って今の状況は違うだろ……。
でも、先頭に集中してる上体だとしても友達作るために頑張ったお前は少しは成長できたんじゃないかと思うよ。うん。
「……暇な時はここにいるから何度も来な。じゃあな」
そういって勇者は去っていった。
「くそっ!」
戦士は自分の弱さにいら立ち、地面を殴った。
それにしてもなんでこいつは勇者を殺そうとしているんだろうか?
「絶対に……絶対に殺してやる! あいつがいなければ勇者は俺に……! 俺だって昔から……!」
おう……色恋沙汰かぁ……。
まさか戦士が女勇者のこと好きなんてなぁ……。
女勇者が振り向かないからって勇者を殺そうとするなんて……うわぁ……こいつヤバァい。
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