もうヤダ……助けて……
前回の戦いから二日後。
本当に俺のところに女勇者がきた。
「はじめまして! 今日はお忙しいところありがとうございます!」
あれ? まともだ……。
この世界に来て脳筋
侍女さんとかとも話したりするけどあの人たちもどこかおかしいからなぁ……。
「いえいえご丁寧にどうも。別にやることもなかったですし……」
ついでにいまぼっち勇者は近隣の魔物を狩って金稼ぎ中である。
そんなもの見ていても楽しくもないし、報告する必要があるなにかが起こるとは思えない。
ぼっち勇者の魔物狩りはどんな相手でも出会った瞬間一撃で仕留めるので、リピート映像を見ている気分になって眠くなるんだよね。
寝にくい夜とかに最適だ。
「いやー監視官さんが優しそうな人でよかったです。うちの監視官さんは目つきが悪くて顔が青くて誰かに対して恨み言を言っているような人だったので……」
目つきが悪いのは生まれつきだろうけど顔が青いのはたぶんあなたのせいですよ?
だって年々青くなっていってるもん。
あと恨み言は俺にかなぁ……。
それにしてもこの女勇者、魔王と村で話していたときと雰囲気がだいぶ違うな。
あのときは明るく元気で笑顔を絶やさない勇者らしい女の子って感じだったけど、いまは明るく元気ではあるんだけど、なんというか、普通で真面目な女性? って感じかな。
あのときよりも静かで敬語を使っているからかな?
「そういえばお仲間さんは?」
まあ全員に来られたら話をするどころじゃなったけどな。
あと二人増えたらまた俺気絶しちゃうよ。
「魔王城の近くの村でおのおの修行中です。力不足を感じたらしく」
真面目!
なんて真面目なんだ……。
これだよ!
これが勇者パーティーだよ!
……ん?
そうなるともしかしたらぼっち勇者と遭遇してるかもな。
あーそれはさすがに後で確認しないとな。
俺の『見る』力は過去を見ることもできるのだ。
「監視官さんは王様に謁見してくるだとかでそれが終わったら来るそうです」
来なくていいよ。
だってあの人いつも嫌味しか言わないんだもん。
「それにしても他の人の担当の監視官さんに会うのってこんなに手続きが必要なんですね? 昨日来たのに今日になってしまいました」
女勇者はあははと静かに笑いそういった。
たぶん手続きのほとんどがこの城に入る手続きだろうけどね?
あと、王様に謁見する手続き。
あの
また姫様に怒られるぞ。
それにしても本当に真面目だなぁ。
だってちゃんと手続きをしたんだよ?
うちの勇者なんて何も考えず門番のところに行ったからね?
あっ勇者といえば……。
「そういえばうちの勇者とどこかで会ったことがあるんですか?」
そうそう勇者は忘れているみたいだけど何度か『お久しぶり』って言ってたんだよな。
「聞きたいですか!?」
「お、おう……」
先ほどまでの感じはどこへやら、元気いっぱい目をキラキラさせてそういった。
あーでも確かこの子まだ十五歳だしなぁ。
こっちのほうが年相応って感じがするなぁ。
「勇者さんにあったのは私がまだ九歳で勇者ではなかったころ……」
そんな感じで女勇者は語りだした。
ある日のこと。
私たちの村の近くの森に大きな大きな魔物が住み着いてしまいました。
村の大人たちはすぐにギルドに討伐を依頼。
しかしそんなことを知らない私たち子どもは大人に『森に近づいてはいけない』と言い付けられているのにかかわらず、いつも森の近くで遊んでしまいました。
そして事件は起こります。
私たちが遊んでいると大きな大きな魔物が現れ、襲い掛かってきました。
私たちは必死に逃げましたがそこはやはり子供。
私はすぐに捕まりそうになってしまいました。
そこに現れたのが勇者さんです!
勇者さんは魔物を殴り飛ばし、仕留めてしまいました!
その姿たるやもうすごいの一言です!
あたしはそんな勇者さんに憧れ、自分を鍛えだし!
勇者さんがいま勇者として活躍してると聞き、勇者に志願!
いつか勇者さんに会えることを信じて勇者さんの行き先を調べつくし!
勇者さんと同じようなルートで進み、そこに行くために強くなり!
そして!
そしてようやくこの前勇者さんに再会できたというわけです!
「どうです!? 運命的でしょ?」
いや、作為的だよ?
なんだよ調べつくしたとか同じルートを通ったとか、少し怖いぞ?
この子あれか?
無自覚なストーカーか?
くそっ!
まともな子だと思ったのに!
「あははははは」
俺はついつい乾いた笑みを浮かべてしまった。
同意もしたくないし、それはやめたほうがいいとか言うと地雷っぽい。
俺にとれる選択肢は乾いた笑みしかなかったのだ。
たぶんこの子は助けられたことでぼっち勇者に惚れてしまったのだろう。
最勇の勇者という名前は最も勇者らしい勇者という意味らしいが、最も勇者を愛している勇者とも言えるわけだ。
ぼっち勇者もよかったじゃないか、好いてくれる人間がいて。
たとえそれが無自覚ストーカーであったとしても。
「えーと、とりあえず勇者の話は置いといて、何の用で俺のところに? 確か魔王のこととかなんとか……」
たぶん勇者の話を終わらせなければ永遠と話し続けるだろう。
しかもぼっち勇者の人柄も何も知らない女勇者のことだ、妄想でどんなカッコいい勇者になっているかわかったもんじゃない。
本人を知ってる身からすれば気持ち悪くてしょうがないことになるだろう。
「ああ、それですか。それは勇者さんと話すための嘘です」
「え?」
あっこれヤバい。
なんでか知らないけどこの感じ、ヤバいことにしかならないと俺の中のなにか警報を鳴らしている。
「ちょっとトイレに……」
といって逃げようと扉に向かい、手をかけるが、俺が扉を開けるより早く女勇者は俺の手をはたき、俺を引っ張って椅子に座らせた。
「監視官さん。勇者さんのこといろいろ教えてください」
女勇者は明るく元気な笑顔でそういったが、俺にはそれが怖くて怖くて仕方がなかったのだった。
「ふはーははは! やま、だ……? ……やまだぁぁぁああああ!」
あれから二時間、俺は女勇者にいろいろ情報をしゃべってしまった。
といっても魔王のことや魔物の貴族のことではない。
ぼっち勇者の身長体重出身地、趣味や嗜好やその他もろもろ。
俺の知らないことも『見る』力でいろいろ調べさせられた。
なんで俺の力のこと知ってるんだよ……知ってるのはそれこそ
しかもそれだけじゃない。
私の考えた最高の『孤高の勇者』みたいな感じで延々と妄想を聞かされた。
なんだよ……口には出さないけどただ他人が怖いだけとか、話すのが苦手なシャイだとか、その通りだよ!
ところどころ美化されてたけど大筋はそんな感じだよ!
すごいなストーカーただの妄想では終わらないってか!
「おい! おい! 俺のライバルがそんなことでどうする!」
俺が座って放心していると誰かが俺を揺らしている。
まさか女勇者!?
まだ何か知りたいことがあるのか!?
「この前見たときはそんあやつれてなかっただろ!? 顔も真っ青だ! いったい何があった!? おい! おい!」
いや違う……?
こいつ男だ。
目つきが悪い顔のくせに無駄にイケメンで口の悪い男だ。
なんか見たことあるな……。
あっ女勇者の監視官じゃないか。
顔色がいいから誰かわからなかったわ。
……そういえばこいつは俺の力のことを……。
「お前のせいかぁぁああああああ!」
「おお! 急に元気が出たじゃないかライバルよ!」
「うれしそうな顔をするな楽しそうな顔をするなお前のせいで俺がどんな目にあったことかぁぁあああ!」
「お? 何のことかわからんが聞いて驚け! 王様より監視室の室長補佐になった! お前に一歩近づいたぞ! その上、経費をあげてくれるらしいから私はもううれしくてうれしくて!」
「知るかぁぁあああ! そんなことよりお前んとこの女勇者どうなってるんだよ!?」
「どうなっているとは? というよりもうちの勇者はどこにいったんだ? 見当たらないんだが……」
「帰った!」
俺が放心状態の間にな!
しかもすごいほくほく顔で!
なんか元気を吸われた気がするわ!
「なに!? それでは俺も行かなくてはならないではないか! くぅうもう少し自慢をしたいのだが……」
後半なんて言ったか聞こえなかったのだがなんか悔しそうだな。
「しょうがない! 今度会った時は覚えていろ! 俺が必ず室長の椅子を奪ってやる! そのあかつきにはおいしいものでもおごってもらおうか! はーはっはっはっ!」
そういって女勇者の監視官は走り去っていった。
……あいつ何だったんだ?
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