パフェうまかった


 魔王が安直な偽名を名乗ってから少したった魔王城近くの村の酒場。


 そこで魔王は先ほど出会った女勇者と食事をしていた。


「ねぇマオちゃん! ここのお肉おいしいよ!」


「……お、おう(なんでこんなことになってしまったんじゃろうか……)」


 流れ流され女勇者の押しに負けて連れてこられた魔王は適当に相槌を打ち、女勇者の暴食を見つめる。


 ついでに女勇者、ここに来てから一人でいろいろな肉が山のように盛られている皿を四皿食べている。


 どんだけ食うんだよ……それ全部国の経費になるんだぞ……?


「……食べないの? おいしいよ?」


 女勇者はおかしな人を見る顔で魔王を見た。


 おかしいのはあなたですよ?


 いまの時間は午後四時半。


 おやつの時間は少し過ぎ、夕飯には早すぎるそんな時間帯。


 普通の人はこの時間こんなに食わない。


「われ……わたしは遠慮しておくのじゃ……です……(それにしてもこの女勇者、どれだけ食べるんじゃ……さっきおやつも食べたけどこの時間もなんとなくお腹減るよねぇとか変なことをいっていたが、もしや毎日これほど食っておるのか?)」


 女勇者を警戒してか変なしゃべり方になっている魔王もその暴食には舌を巻いている。


 というか女勇者おやつもしっかり食べてるの?


 胃袋が異常すぎる……。


 なんでそんな食べているのに太ってないどころかスタイルいいんだ……?


「……(やはりあの胸か? あの胸にすべての脂肪が吸収されているのか!?)」


 魔王の視線は女勇者の胸に熱く注がれている。


 他人との交流が全然ないぼっちな魔王だって一応女だ。


 自分の胸が地平線のように真っ平らであることやちんちくりんと言われても仕方ないほどの低い身長など、自分のスタイルがいいほうではないことを気にはしている。


 気にはしていたが、他に比較対象もいなかったため『まあ大丈夫であろう』と楽観視していた。


 そんな矢先の女勇者との出会いである。


 女勇者と魔王、二人とも年齢は同じ十五歳。


 しかし、身長、女勇者のほうが十センチ以上高く、胸、男性が思わず振り向いてしまうほどある女勇者に比べ、魔王はないといっても過言ではなく、胴回り、引き締まりくびれのある女勇者に最近太ったかもしれないと不安な魔王、美脚な女勇者と普通な魔王。


 こうなるともう魔王が勝てるのは髪の長さしかない。


 まあ魔王が悪いわけではない。


 女勇者の発育がいいというだけだ。


 まあほら、これから成長するかもしれないし、もし成長しなかったとしても貧乳低身長が好きなそうだっているし、ね?


「そっか……私の仲間もあんまり食べてくれないんだよね。なんでかな? あっ! おばちゃん同じのもう二つ!」


 食べ過ぎだからです。


 というか本当にどんだけ食うの!?


「私の監視してる人はなぜか食事のたびに青い顔してるし……」


 あなたの食べる量が多すぎて手持ちが心配なんだよ。


 一緒についていってる監視官は勇者パーティーの財布係をやっているとは聞いていたが、ここの監視官は大変そうだなぁ。


 だからあんなに嫌味な性格してんのかな?


 ついでに監視官がついていない場合は店側が国に申請を出して金を請求することになっている。


「そういえばマオさんってここの人? あ! ありがとうございます!」


「……え? ……そうじゃ……です……(……すごい! 見る見るうちに肉がなくなっていく……!)」


「宿屋ってどこにあるか知ってる? おばちゃーんパフェちょうだい!」


 この村唯一の宿屋がこの店の目の前にありますよ?


 気づいてなかったの?


 でもそれよりもまだ食うの?


「……あー……はい……あそこに……(……いつの間に肉が消えたんじゃ……? あれがすべて胸に……)」


 魔王は宿屋を指さしながら答えた。


 だが魔王の目線は目の前で消えていった肉と女勇者の胸に釘付けだ。


「え? 本当? うわぁ気付かなかったぁ……」


「……(やはり我もあれほど食べたほうがいいんじゃろうか? だが、しかし……うーん……)」


 やめとけ魔王。


 普通は太るだけだから。


 女勇者が異常なだけだから。


「いやーよかったよかった。今日ね、魔王城にいったけど扉の前に立て札がたってて『買い物に行っているので、魔王は不在です。ご用の方はまた後日おこしください』ってすごい丁寧に書かれててね。じゃあ仕方ないかってすぐに帰ったんだけどなぜか途中で仲間とはぐれちゃって」


 おかしいよねといいながら女勇者は笑った。


 この村から魔王城って確かほぼ一直線だから本当におかしいよ?


 どうすればはぐれるの……?


 それにしてもよくその立て札だけで帰ろうと思ったな。


 普通は罠を警戒するもんじゃないか?


「……ほう、なるほど……(立て札は有効なんじゃな。掃除中や食事中にでも立てておけばゆっくりとできそうじゃ)」


 魔王なんだからそんな手を考えずに掃除とかやってくれる部下を見つける努力をしろよ!


 あと、たぶん立て札で帰るのは女勇者一行だけだからな?


 それこそあのぼっちは普通にズカズカ入っていくからな?


「すいません! ここに勇者様はいませんか!」


 そんな話をしていると、革の鎧を身にまとい、剣を腰に差した男が入ってきた。


 話の流れ的にどう考えても女勇者の仲間である。


 装備的には戦士だろうか?


「あ! 戦士! こっちこっち!」


 女勇者が手招きをして戦士を呼んだ。


「おお! 勇者様!」


 戦士は女勇者に近づくと、


「よくも置き去りにしてくれましたね?」


 笑顔で女勇者のほっぺを引っ張り恨みを込めてそういった。


「いひゃいいひゃいいひゃいいひゃいいひゃい! べふにおひひゃりひひたわけじゃないよ! だかりゃはなひて!」


 女勇者は涙目になりながら抗議した。


「……まあいいでしょう。それより他の仲間も待っています。すぐに行きますよ」


 戦士はほっぺたから指を話したと思ったら今度は耳を引っ張り出した。


「イタイイタイイタイイタイ! 行くから! ちゃんと行くから! はなしてぇぇええ!」


「あなたは離すと勝手にどこかに行ってしまうでしょうが! まったく、俺たちが立て札の意味について考えている間に勝手に変えるなんて何を考えているですか!?」


「いや、だっていないって書いてあるならいないんでしょ? じゃあ帰ったっていいじゃん!」


「よくありません! あれが何かの罠の可能性だってあったのになんだってそう不用心で自分勝手に動くんですか!?」


 どうやら女勇者のパーティーにも警戒心が強いやつはいるらしい。


 まあ魔王はそこまで考えていないんだが。


「マオさーん。ごめんねー。また会ったらよろしくー。会計はこっちで払っとくからー」


「まーたあなたはこんなに食べて! 監視官さんの胃がまたダメになっちゃうでしょうが!」


 戦士は説教をしながら女勇者を連れていった。


 なんというか……あの戦士、戦士というよりおかんだな。


 うん。


 ついでに、戦士が来てから一回もしゃべってない魔王はというと……。


「……パフェ……うまいな……」


 と勇者が食べ損ねたパフェを堪能して帰ったそうな。


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