報告
王国にある城のとある一室。
自分以外誰もいない部屋の中で俺は頭を抱えていた。
「はあ……どうするかなぁ……」
勇者が王国に向かうと宣言してから一日。
あの勇者のことだ、今日中には王国につくだろう。
下手したらそのまま城まで来て俺のことを見つけるかもしれない。
「ああ……本当にどうしよう……」
俺はもう一度つぶやいた。
お察しの通り、俺があの勇者の担当監視官だ。
あの勇者が勇者になった五年前、つまりあの勇者が十一歳のときから毎日監視している。
昔も金にがめついところはあったが、なんであそこまで金に執着していたわけではなった。
別に金に困っているわけでもないし、散財癖があるわけでもないのにいったいなぜああなってしまったのか。
監視していた俺にもわからない。
まあそれよりもあの勇者が俺をしめに来るのが問題だ。
勇者にかかれば俺なんて一撃で仕留められるだろう。
というか攻撃の余波だけでやられそうではある。
いまから逃げても追いつかれそうだし、できれば穏便に済ませたい。
それと俺が頭を抱えているのにはもう一つ理由がある。
それは今日が経過報告をする日なのだ。
俺たち監視官は年に二回、王様に対し、勇者の活躍を報告しなければならない。
だが、だがだ。
勇者と魔王の戦いの内容を赤裸々に王様に報告することなんてできるはずがない。
あの勇者でも魔王を倒せませんとか、魔王を倒しても魔物は止まらないとか、どこにいるかもわからない魔物の中の貴族をすべて倒さないといけないとか、なんて報告すればいいんだ?
この話だけでも信じてもらえるとは思えないし、勇者と魔王が手を組んで詐欺まがいのことを画策しているなんて言えるわけがない!
しかもその勇者はこの世界一強い勇者だ。
それこそすべての勇者が束になったとしても勝てるかわからないぐらい規格外存在なのだ。
もし勇者が勇者の権利をはく奪されたとしたら……考えただけでも恐ろしい。
「山田さん。謁見の時間です」
「あっはい」
ついに呼ばれてしまった。
俺は最後のあがきで考え続けたが、王様の前で膝をついているいまなおいい案は浮かばなかった。
「よく来てくれた山田よ。頭をあげよ」
俺の前で玉座に座っている王様が声を出した。
今日の王の間には俺と王様しかいない。
いつもなら監視官の報告のときにはたくさんの衛兵や貴族の方々がいるのだが、俺のときは別だ。
なぜなら俺にはとある弱点があり、大勢の人間がいると報告ができないためだ。
「はっ」
ヤバいヤバいヤバい!
どうするどうするどうする!?
俺は頭をフルで回転させながらそれをおくびにも出さずに顔をあげた。
「さて、報告をはじめてもらう前にこれは知っているか?」
王様は手元にあるベルをチンチンと鳴らしながら言った。
「はい」
あれは言うなれば嘘発見器である。
三か月前に監視官と勇者が長年に渡り嘘の報告をしていたことが発覚したために導入された代物で、あれの前で嘘をつくとチンチンと鳴るのだ。
これが導入されたことでこの三ヶ月、首になった監視官と資格をはく奪された勇者が結構いた。
あれがなければ嘘と本当を織り交ぜてまるで真実のように語りつくせるのだがなあ……。
「まあ勇者と会わずにずっと部屋で監視しているおぬしには不要なものだとは思うがな」
そう思うなら使わないでくれるとありがたいんですが……。
「では、あの勇者はどうしている?」
「いまは魔王の城に最も近い村にいると思われます」
「おお! ついにあそこにたどり着いたか! して、魔王とはもう戦ったのか?」
「はい。しかし魔王と勇者の力は拮抗しておりまして決着はついておりません」
嘘は言っていない。
拮抗しているのは本当だし、戦ったのも本当だ。
ただし、まともに戦ったのは一回だけだけど。
「なんと! あの勇者と拮抗する力を持つというのか!?」
「はい。あの様子だとあの勇者以外では話にならないかもしれません」
というか人間があのバリアを砕けるとは思えない。
「なるほどの。しかし、他の勇者もそろそろ魔王の城につくという報告を受けた。昨日報告に来たものから明後日に魔王城につくといっていたな」
昨日報告っていうとあの勇者の中の勇者って言われているやつの担当だったっけ。
あいつ苦手なんだよなぁ。
俺がぼっち勇者の担当しているせいか妙に突っかかって来るし、この前なんか『絶対失脚させてやる! 次のトップはこの俺だ!』って言ってたし。
ついでに監視官のトップは俺ということになっている。
いつも監視官の事務所的な部屋にいるので、選ばれてしまった。
あれ? そうなるとヤバいんじゃないか?
もし今日貴族のこととかを報告せずにいると数日後にはそれを知ったあいつが俺を引きずり下ろすためにすぐさま王様に報告、報告義務を怠った俺は監視官をクビになる。
それで路頭に迷うとかならまだいいが、俺の場合は下手をしたら前線に送られて、さらに下手をしたら勇者の一人にされるかもしれない。
それはさすがに遠慮したい。
「これで魔王もお終いじゃな。あの勇者が一人で倒せなかったとしても他の勇者が集結するのならば話は別じゃ。皆で協力すれば必ず魔王も倒せよう」
ぼっち勇者に協力は無理です。
何度か対面しているはずだがなんで王様はあいつが協調性のないぼっちだと気づかないのだろうか?
「……」
絶対無理だと思っている俺は肯定も否定もせず、無言で通す。
「魔王を倒したあかつきには勇者と娘を結婚させよう! そうじゃ! それがいい!」
……昔からそうだが、なんでこの人はぼっち勇者と娘を結婚させたがっているのだろうか?
確かに姫様は勇者という存在が好きだし、何度かこっそり俺のところに来てはそういう話を聞きたがる。
清楚で可愛く、誰に対しても明るく話しかける姫様ならぼっち勇者も心を開くかもしれないとは思う。
だが、こういう親が娘の結婚先を決めるっていう貴族の感じはどうも俺には理解できない。
「そうなると山田には感謝しなくてはな! 勇者を見つけたのはおぬし何じゃからの!」
そう、実はあのぼっち勇者を見つけたのは俺である。
俺には『見る』という能力があり、条件を満たせば見たいものを見れるのだ。
それこそ失せもの探しから最強の勇者探し、その気になれば心を見たり、少し先の未来を見ることもできる。
その力のおかげで勇者に同行することもなく、監視ができるのだ。
まあ条件の都合で魔物の貴族とかは無理そうだが。
「あのとき死にかけのおぬしを拾ったのはわしの最大の功績かも知れぬの!」
そんな笑えないことを大声で笑う王様。
先ほど王様が言った通り、俺は付近の山の中で倒れていたらしい。
王様には記憶喪失といっているが、俺はこの世界からすると異世界から来た人間だ。
高校の入学式の日になぜか逆痴漢にあい服を剥かれ、路地裏で服を着ているときに半裸の状態でなぜかいるはずのない猪にはねられ意識を失い、気が付くと『見る』能力を持ってこの世界に来ていたのだ。
まあこの世界に来てもう六年になるため帰る気はなくなったが。
俺はこのまま監視官としてぐだぐだ生きていたい。
それにしてもこの雰囲気じゃ報告どころじゃないな。
どうするか……。
「王様、失礼します!」
その言葉と共に誰かが入ってきた。
「ん? おい待て! いまはいるのは……!」
入ってきたのは衛兵がなぜか四人と先ほど話に出た姫様だ。
それを確認した俺は……。
「あ……ああ、あ……」
声がうまく出なくなり、体が動かなくなり……
「は、早く部屋から出ていけ! 早く!」
「あ……」
俺は気絶した。
先ほど俺の弱点のせいでこの部屋に王様以外誰もいないといったが、これが弱点だ。
半裸の状態で猪にはねられた瞬間をいろいろな人に見られたせいか、俺は極度の視線恐怖症になってしまった。
一人二人なら大丈夫なのだが、三人に見つめられると気絶する。
勇者や魔王をぼっちといっていたが、実は俺もぼっちだったりするのであった。
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