決定
午後二時少し過ぎの魔王城の魔王の間。
勇者がここに来るようになって五日目となった。
だがちゃんと戦ったのは三日目だけ。
どうしてこうなった……。
「勇者よ。今日も来たか」
「ああ、正直、もういいんじゃないかって思ったけど来るって言った手前一応な」
いいんじゃないかって思うんじゃないよ!
何度も言うが、これは人類の未来がかかってるんだよ!?
「といってもどうするのじゃ?」
「どうするか……」
勇者と魔王は腕を組んで『うーん』とうなりながら考える。
「……そういえば勇者よ。なぜおぬしは勇者なのだ?」
何も思いつかなかった魔王が聞いてきた。
何も思いつかなかったというよりもポーズだけで何も考えてなかったが正しいが。
「急になんだよ」
同じく関係ないことを考えていた勇者が答える。
「いや、なりゆきとはいえ昨日は我が魔王になった原因を教えたのじゃから勇者が勇者になった理由を聞いてもおかしくないじゃろ?」
おかしくはないがおかしい。
二人とも思い出して、君たちは敵対してるはずなんだよ?
「といってもなぁ……魔王みたいに先代の勇者と血がつながってたわけでもないし、両親が魔物に殺された復讐とかでもないし、特に楽しくもないぞ?」
「いいんじゃよ。ただの暇つぶしじゃし」
暇じゃねぇだろ。
ちゃんと考えて!
人間と魔物の未来をちゃんと考えて!
「まあ暇つぶしだしな。いっか」
よくねぇよ!
「えーと、賞金稼ぎしてたら王様に呼び出されて勇者の一人に選ばれた。以上」
「みじか!? それだけか!?」
「それだけ」
もう少し詳しく言うと一人でどんな魔物も倒してしまうという賞金稼ぎも噂を聞きつけた王様がその賞金稼ぎにドラゴン退治を依頼、見事達成し、勇者に選ばれたというわけだ。
「勇者になれば宿代タダだし、倒した魔物の数だけ結構な額もらえるし、いいことづくめだったからな。ただそのかわり監視がつくし、魔王との戦いを諦めたら資格をはく奪される」
「……もしかして資格をはく奪されたくないから毎日来るのか?」
「もちろん」
うわっ勇者いい笑顔!
賞金稼ぎなんてやってたやつの顔とはおもえない!
まあ賞金稼ぎなら誰とも話さなくてよさそうって理由でやっていたのだけども。
「というか、監視っていまもついておるのか?」
「さあ? 他の勇者は定期的に監視者の人と会って報告してるって話は聞いたことはあるけど俺はあったことないんだよなぁ」
会わなくても仕事は出来るし、できれば会いたくないからね。
「ほう。どうしてじゃろうな?」
「さあ?」
二人して首を傾げる。
「まあよいか」
「そうだな」
いいのかそれで。
「さて、一応いまの状況を整理してみるかの」
魔王は暇なためそんな提案をした。
「そうだな」
勇者は暇なため提案を承諾した。
「まず大前提に勇者と魔王は戦わなくてはいけない」
「だが我を倒しても世界中の魔物が止まるわけではない」
「だけど監視のことを考えると戦っておかなくちゃ俺は勇者じゃなくなる」
「我は一応魔王として勇者を待っておったが、正直別に戦いたいわけではない」
「じゃあ俺がやめればいいってことだが、俺がやめても他の勇者がここに来るだけだな」
「他の勇者って何じゃ?」
「勇者は俺のほかに何百人もいる。まあその中で最強が俺なんだが」
そういって勇者はドヤ顔をした。
まあどんなに強くっても知らない人に話しかけられてきょどる勇者はかっこ悪いけどな。
「マジか……いやじゃのう……他のやつらは仲間がいるんじゃろ? いやじゃわー仲良いところ見せつけられるとかただの地獄じゃわー」
嫌なところそこ?
「俺だったその気になれば……」
「無理じゃろ」
無理だよ。
「くっ……」
悔しそうにするなら話しかけられるようになっとこうね。
「次じゃ。我が勇者を倒してもメリットはない」
「まあ敵が減るって考えればメリットではあるんじゃないか?」
「ああじゃあそれで」
それでって、適当すぎるだろ……。
「そういやいま魔物たちを先導してるのは誰なんだ?」
「それぞれの貴族じゃな。といってもやつらは臆病じゃから自分の居場所がばれることどころか自分たちの存在を人間から隠してるようじゃがな」
「そうなると、お前はそいつらの隠れ蓑ってところか」
魔王がいることですべての元凶を魔王とし、自分たちは表舞台に出ない。
それが貴族ってことか。
「そうじゃ! おぬしのところの王様に魔王は何も知らないいたいけな少女だといって来い!」
「……む、無茶いうなよ」
「お、おぬしまさか王様とちゃんと話せないから無理とか言うんじゃないじゃろうな」
「いや、うまくは話せないがさすがに違う」
でもうまくは話せないんだな。
「基本的に国の方針として魔物は根絶するって考えだからな。そんなこと報告しても意味はないだろうな。それどころか貴族の情報を一番持っているってことでさらに狙われるんじゃないか?」
まあそうなるだろうね。
「いやじゃーそれはいやじゃーかといって貴族のやつらの情報を売ったら貴族どもに攻められるー面倒じゃー」
面倒で済ませられるのがさすが魔王ってところだな。
「かといって人間的にも魔物的にも和平なんて結べるはずないしな……あっ、いっそ魔王死ぬ?」
「我死ぬの!?」
「あれだよ、魔王が死んだってことにしてここからいなくなれば万事解決だろ」
「いやじゃ! この城の手入れにどれほど手間暇かけてると思ってるんじゃ! それにいつか帰ってくる部下に申し訳が立たんじゃろ!?」
帰ってこないよ。
みんな楽しくやってるよ。
「えーとじゃああれだ。ずっと戦い続ける」
「どういうことじゃ?」
「だからそのままの意味だよ。どうせ俺たちが戦っても勝敗つかないし、いっそのこと毎日戦ってるってことにすれば魔王としても勇者としても問題ない」
確かに問題ないけど、あなた一応監視されてるってこと忘れないでね?
「じゃがおぬしに何のメリットがある?」
「何言ってるんだ俺は勇者だぞ? みんなが幸せになる方法を考えているだけじゃないか」
すべてが棒読み。
本音が一つもなくて気持ち悪い。
なんでこいつ勇者なんだろう……。
「本音は?」
「魔王と戦い続けてれば金が入る。存在が広まってない貴族を倒しても金は入らない。貴族の存在を報告してもそいつが本当に貴族か確証がないと金がもらえなさそうだし、そういうのはまじめなバカにやらせとけばいい」
何度も言おう。
なんでこいつが勇者なの?
「なるほど。で、監視はどうするのじゃ?」
ちっ! 魔王は忘れてなかったか!
「明日に王国に行ってしめてくる」
ヒィィイイイイ!
何言ってるのこの勇者!?
「だから、次は明々後日のいつもの時間に来る」
「そうか。いい報告を待っておるぞ」
こうして勇者は魔王と手を組み、帰っていった。
俺の心に恐怖を残して……。
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