はじまらない


 午後二時少し過ぎの魔王城の魔王の間。


 決着がつかなかった戦いから一日たち、またもや二人は向かい合う。


 かたや魔王は玉座に座り、かたや勇者は地べたに座る。


「さて、今日も来たが、どうする? いちおう戦う?」


 人類存亡をかけた戦いをいちおうでやろうとしないでくれますか?


「戦っても昨日と同じことになりそうじゃしな……やめとくかの」


 魔王も魔王で宿敵たる勇者相手にそれはどうなの?


「……そもそもなんで戦わなくちゃいけないんだろうな」


 勇者がその疑問を持つのはダメでしょ。


 戦わなくちゃいけない理由とかいろいろあるから勇者やってるんじゃないの?


「……そうじゃの。確かに戦う必要性を感じないの」


 魔王は魔王であるでしょ?


 あるから世界中で魔物が暴れたりしてるんでしょ?


「そもそも勇者よ。なんで我らは戦わなくちゃいけんのじゃ?」


 知っとけよ!


 なんで魔物の王であるあんたが知らないんだよ!


「それはあれだ。えーと、確か……」


 勇者なんだからパッと言えるだろ!?


 なんであんた勇者やってるんだよ!?


「魔王のせいで世界中の魔物が暴れているから魔王をやっつけて世界を平和にしようって感じだったと思う」


 なんで自信なさげにいうかなあ!?


 別に間違ってないよ!?


 簡単に言うとそういうことだよ!?


「我のせいって言われても我、何もしてないんじゃが……」


「ああそうなの?」


 おいこら勇者!


 重要なところを簡単に流そうとするな!


 人類にとって重要すぎるほど重要な部分だぞ!


「あー、たぶんあれじゃ。先代の魔王が何か言ったんじゃないかの? 我は三年前の先代が病死してから即位したからのう。よく知らんのじゃ。残されていたのは勇者がやって来たときの口上とこの城だけじゃった」


 他にも残すものあっただろ!?


「じゃあなに? 魔王ってなんちゃって魔王なの?」


「なんちゃってって何じゃ!? 我はちゃんと魔王じゃよ!? 先代と唯一血がつながっている先代のかわいいかわいい姪っ子じゃぞ!?」


「自分で可愛いって言うとか……」


「小声でいっても聞こえてるぞ勇者! このぉお『ブラックホール』!」


『ブラックホール』


 その名の通り、ブラックホールを発生させ、相手を吸い込み押しつぶす魔法である。


 もちろん食らったらどんな生物でも普通は死ぬ。


「無傷無傷ぅう」


 しかしもちろん勇者は無傷。


 それどころか変な顔と変な動きで煽って見せた。


「このぉお!」


 魔王は地団太を踏む。


 死の危険を感じる魔法を使うくせに子供のケンカとあまり変わらない。


「そんな性格だから仲間がいないんじゃバーカ!」


 魔王はちょっと涙目だ。


 この魔王、精神的に弱すぎる。


「ち、違うわ! 自分から話しかけられないだ! その気になればちゃんと作れる!」


 こっちはこっちで変な見栄を張りだした。


 あなたその気になっても話しかけられないでしょうが。


「それに一時期いたことありますから!」


 一ヵ月もしないで解散したけどな。


 そいつは戦士で勇者と比べたらかわいそうだが、ある程度の力を持っていた。


 だが勇者の強さに恐れをなし、基本話しかけても無視され、少し話すようになったと思ったらいつも一言多いせいでイライラを募らせ、手紙を置いて去っていったのだった。


 つまりコミュニケーション不足が原因である。


「それを言うなら魔王だって部下の一人もいないじゃないか! いないから自分で掃除したり、寝坊したり、俺が来てもわからなかったりするんだろ!?」


「わ、我は魔王なのだからいないわけないじゃろ!? なんせ魔物を統べる王だからな! ただちょっと城を出たきり誰も帰ってこないだけじゃ!」


 二年ぐらい。


 という言葉はさすが言えなかった。


 ついでに魔王の部下は強すぎる魔王の力を恐れたことと、魔王が部下の顔を見て毎回怖がってしまい、まともに話せなかったこと、たまに魔法を失敗して部下を巻き込むことのせいで愛想をつかして出て行ってしまった。


 いまはそれぞれ違うところいきいきと働いている。


「お前はどうせ愛想つかされたんだよ」


「いーやそれはおぬしじゃろ?」


 いやいやどっちもです。


「うっせぇ魔王ぼっち


 勇者がボソッと言った。


「おぬしいま魔王に対してぼっちって言ったな!? ぼっちじゃないし! 我の直属の部下はいないが、魔王の下には貴族たちがいるのだぞ!? 新年とかちゃんと年賀状が届くんじゃぞ!? ぼっちなわけないじゃろ!?」


「直属の部下がいないって白状したな! それに本当にちゃんとした部下なら年賀状じゃなく新年のあいさつに来るんじゃないか? 王様とかだいたいそんな感じだったぞ」


「いや、ちが……」


 ついに魔王は何も言えなくなった。


「うぅぅぅううううう! もう帰れ! ばかばーか!」


 魔王はそういいながらいろいろな魔法を放つ。


「わかった! 帰るから魔法やめろ! 痛くもかゆくもないがうざってぇんだよ! じゃあな! また明日同じ時間に来るからな!」


 そういって勇者は本当に帰ってしまった。







 ぼっち対ぼっちの戦いくちげんかは勇者の勝利に終わった。


 というかそんなことしてないでこれからどうするの?


 そういう話をするんじゃなかったの?


 ねぇどうするの!?

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