第17話

『良人。今日は晴れてよかったね。』

『ああ、そうだね。珠姫の仕事も、無事みつかったし。よかった、よかった。』

あの時、車を運転していたのは、賢人ではなく良人。

大事な話があると言われ、何となく、検討はついていた。


『さあ、降りて降りて。ここ、いい景色なんだ。』

『もしかして、ここが目的?』

『一つ目はそう。』

山と曲がりくねった道、青空でさえ、私の気持ちをウキウキさせていた。

『うーん。気持ちいい!』

『どう?気に入った?』

『うん!でも、もうちょっと、何かあったらなぁ。』

私は、わざと良人に意地悪を言った。

『贅沢だな。何かって、何?』

『そうだなー。虹とか。』

『虹?さすがに、自然現象は“はい“って、用意できないでしょ。』


そして、その後。

良人が私の前で膝間付いた時も、

『これ……婚約指輪。』

私は両手で顔を押さえながら、待ち望んだ言葉に、感激していた。

『……受け取ってくれますか?』

『もちろん!』

私は良人に抱きつき、その後唇を重ね、私達は最高のプロポーズの思い出に、酔いしれていた。

『珠姫。もう少し上に行ってみようか。』

『うん。こんなに天気がいんですもの。頂上からの眺めは、相当綺麗なはずよ。』

私と良人は、再び車に乗ると、丘の頂上を目指して、車を走らせた。

『気持ちいいねぇ。』

『うん。』


雲行きが怪しくなったのは、曲がりくねった道の向こうに、トラックを見つけた時だ。

『なんだ?あのトラック。危ないな。』

『本当だ。フラフラしている。』

対向斜線をはみ出しながら、こちらへ向かってくるトラックに、警戒心を強めていた。

『こっちへ来なきゃいいんだけど……』

良人がそう言って、車のスピードを遅くした時だ。

トラックの運転手が、ハンドルに覆い被さっているのが、はっきり見えた。


『危ない!良人!!』

そしてトラックは、真っ直ぐに、私達の車に向かってくる。

慌てた良人は、その場に車を停めた。

『珠姫!車の外に出ろ!』

シートベルトを外して、急いで助手席のドアを開けた。

『良人!』

振り返った良人は、シートベルトが外れなくて、焦っている。

『良人!落ち着いて!』

『いいから、早く逃げろ!珠姫!』

その時目の前に、トラックが突っ込んでくるのが、見えた。

『きゃああああ!』

『珠姫!!!』

良人に抱えられ、車ごとガードレールに叩きつけられるのが分かった。


しばらくして、目が覚めた私を襲う、全身の痛み。

目の前には、頭から血を流す良人。

フロント部分と、椅子の間に挟まっている自分の下半身。

『うっ……うわああああああ!!』


何もかもが嘘だと思いたくて、私はそのまま眠りについた気がする。

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