Scene009
その日、天気予報が当たらなかった。
けれど、決して天気予報が悪いわけではないのだ。
異常気象。
この国では台風はよく来るのだが、それを差し引いても、のっぴきならない程度の暴風雨や、集中豪雨に伴う雷。それらの被害がここ数日、いや、もとを辿ればここ数年だろう、かなり大きくなっている。
具体的に言おう――台風での被害なんて、せいぜい屋根の瓦が飛んだり、大きくても電柱が倒れたりする程度のものだった。もちろん、それでも無視できない程度の威力だ。けれど、今やその威力はそれすら霞んで見える。
町が一つ、倒壊したのだ。
『とてつもない……言葉には、とても言い表すことのできない被害です……』
朝のニュース。俺は食パンをかじりながら、その惨状をモニター越しに見ていた。
実況しているアナウンサーは表情を歪め、台風一過を経た町に立っていた。
――死傷者、不明。
もはや、手のつけようがなかった。手をつけようとも思えなかった。
確か、あれは三ヶ月くらい前だったか。とある田舎町を襲った大震災。津波が来なかったのが幸いだったけれど、その時もおよそ町は町と呼べるほどに機能していなかった。
その時と似ていた。
俺は息を飲んだ。食欲も失せる。
そして、不運というのは重なるものである。
『ひとまず暴風雨の恐れはありませんが、気象庁によりますと、本日も――町は猛暑日になる模様ですので、体調管理を……』
ここ最近、被害を大きくしているのは何も台風だけではない。
日照りも、集中豪雨に伴う雷も、季節外れの寒波も、頻度を増し、威力を上げている。この間は夏なのに豹が降った。
特に日照りは深刻で、最高気温が四十度を超える日が二、三日続く時もあった。今日も四十度近くまで上がる予報が出ている。
……正直、災害っていうのは、他人事だと思って、画面越しに無感情で眺めるだけだった。しかし、ここまで来ると、来るところまで来た、というのだろうか。よもや他人事で済ませる程、鈍感ではなくなってきた。
これがいつ、自分の町にやってくるか。心配で眠れないといえば大袈裟だが、夢にテレビ画面の映像が現れると、素直に怖い。
なんだか気分が沈んでしまうから、テレビの電源を切った。静かな家の中にアブラゼミの鳴き声が漏れてきた。アイスカフェオレを飲み干して、部屋のアナログ時計を仰ぎ見ると、もう午前十時になろうとしていた。いつもの集合時間は十時半だから、少し急がないと行けない。
鞄に勉強道具を押し込み、家を出た。自転車に跨って、漕ぎ出す。最初の信号待ちのときに、そういえば夕方に雨が降るとか降らないとか言っていた気がしたけれど……。
まあ、いいや。
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