Scene003


 ――この日の晩、地方で大地震があった。

 震源地周辺の被害は甚大じんだいで、揺れは遠く離れた都市にまで及んだ。

 震度7。マグニチュード8。

 地震の値として表すことのできる最大の数である。つまり、実際にはそれよりも幾分、否、随分大きいものになっているはずだ。

 日が落ちてすぐという時間帯は、果たして幸か不幸か。

 夕ご飯時をまるで狙いすましたかのような一撃は、火を使って調理をしていた家庭を飲み込んだ、というのは不幸だっただろう。住民のインタビューでも挙げられていたが、映像を見れば――それは正に火を見るより明らかで――比喩抜きに、町は火の海に沈んでいた。けれど、幸いなのは多くの家庭が帰宅を完了していて、家族から近隣の住民までが協力して避難することができたことだろう。町の損害に比べて、死傷者数が少ないことが、それを顕著に現していた。

 ただ、やはり被害の方は無視できないほどに甚大であった。倒壊した家屋の処理と広範囲の火事、さらに都市部よりも木造の家が多いことも重なって、日が昇る頃には町は灰の砂漠と化していた。

 朝のニュースには朦朧もうろうとした意識の中で、しかし、生きていることが何よりだったと不毛な取材に答えていた。

 俺たちの住む地域も少しだけ揺れたが、概ね被害は出なかった。

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