第12話 アスカのツキのない1日①
この日アスカはご近所のとある老人の家に顔を出していた。
その老人は生前の祖母とお茶飲み友達であり、この地域では有名な元大地主にして元事業家もある。
「こういった感じで良かったかな?」
「おお。問題ないぞ」
今アスカは広い庭で刀を用いた演舞を披露し、その老人はビデオカメラに収めていた。
老人は今でこそ趣味人な一面があるが、元々地主という立場から様々な事業を展開したりしていた。今日はアスカ達の暮らす地域の紹介映像を作るための撮影だった。
「それじゃ、お預かりした刀お返しします」
そう言ってアスカは撮影のために借りていた老人貯蔵の真剣を手渡す。
「それにしてもいつ見てもアスカちゃんの太刀筋は由枝さんと瓜二つだねぇ」
「そんなに似てるんですか?」
ちなみに由枝というのはアスカの祖母の名前だ。
また、アスカと弟のレイジに武術の技を教えたのは父であり二人とも祖母が実際に稽古や指導しているところは見たことがない。
「特に最後の返しから三手目までの動作はそっくりだったよ」
「なんか…そう言ってもらえるとお婆ちゃんも喜ぶと思います」
そう褒められるとアスカも悪い気はしない。
その後、応接間に移動するとご近所さん数名と弟のレイジが談笑していた。
「すみませんね、お待たせして」
「いえいえ。自治会で決まったことに協力いただいてこちらもありがたいですよ」
応接間には自治会長も顔を出しており堅苦しい空気もなく和やかだった。
「…で、周防のじいちゃんにちょっと相談があるんだけどさ」
そう言ってレイジが話を切り出す。
「今度約束してたパルクールの動画撮ってもらう件だけどさ、気をつけないと迷惑行為になるからある程度広くて持ち込めるマットとかを保管できる場所ないかな?」
「ああ、この前そういったものを撮る約束だったね。ふむ…」
そう言って老人は考え込む。大地主・事業主としては既に子供や孫、信頼できる人間に任せており以前より権力はないものの、今でもなんでもないことや地域の取り組みの相談役として訪れる人は今も多い。
「あとで土地管理している娘と不動産屋に相談してみようかね。ある程度内容は決めてるのかい?」
「会長さんにも今オレたちが考えているトリックとかルートは一応なんとか図面にしたりして見てもらったよ」
そう言って自治会長が周防の老人に予定しているパルクールのトリックやその順番となるルート設計図を見せる。
「ふむ…詳しくはないが、この設計図のこことここは以前のスケートボードの設備と同じような資材でも大丈夫なのかい?」
「あーどうだろう?ちょっと聞いてみる」
そう言ってレイジは設計図を作ってもらった人物に連絡を取る。
レイジもアスカも体を動かすのが好きで、スケートボードなどのアクティブスポーツにも強い。
また時折道場で実際に初歩的なパルクールのテクニックの練習をしていたり両親の許可の元その練習場所として開放をしている。
そういった面では二人の体幹は同年代と比べてもかなり高い方で、それが結果的に他の愛好家達と親交を持つようになっている。
特にレイジは大会には出ないものの、14歳にして上級者向けのスケートトリックを簡単にこなせてしまうほどである。
「いつもこういったことで迷惑かけてごめんなさい」
「アスカちゃんが謝る必要ないよ。こうやってきちんと許可を得て実施しようとしているんだから。それに、ただ遊ばせてる土地にマンションとか立てるだけにはしたくないからね。有効活用してくれることはこちらとしてもありがたいよ」
そう言って周防の老人はにっこりと笑う。
「じゃあ長引きそうなのでこの辺でお暇します」
「ああ、それならちょっと渡す物があるんだった」
と老人は奥の台所へ向かい程なくしてアスカに手土産を渡す。
「あ、これ…流月堂のみたらし団子」
「お盆も近いからね。由枝さんのお供えも兼ねてもらっていいかな?」
「はい!…じゃあレイジ、あたし先に帰ってるから」
「ん?あー分かった」
相手とやりとり中だったレイジの生返事を聞きつつアスカはその場を後にした。
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