第13話 アスカのツキのない1日②
家に帰り着くなり猛暑の暑さもまだある中、アスカは一度室内に籠もった熱気を流すため窓を開けつつ仏壇に先ほど周防のお爺さんからいただいた団子を供える。
そのまま冷房をつけたいのをぐっとこらえて水出し緑茶を作る。これは元々祖母が贔屓にしていたお茶屋から教えてもらった家庭でも出来る本格的な冷たくおいしい緑茶の淹れ方だ。
水出し緑茶ができあがる間近に仏壇に備えだ団子を下げる。そしてテーブルの上に取り皿とコップに注いだ水出し緑茶に開封したみたらし団子。家族分少し多めに入っているのを確認し、そのうちの一本を取り皿に取り分ける。
「さてと…いただきま――」
瞬間何かにぶつかり崩れる音がし、慌ててスマートフォンを手に洗濯物干し用のサンダルを履いて外に出る。
「嘘でしょ……」
家の周囲を囲っている壁の一部が強い衝撃で崩れており、奥に乗用車が見える。はっきりと言えるのは車単独の衝突事故だということ。
「と、とりあえず、状況写真と向こうの確に…ってちょっと!?」
ぶつかった車がそのままバックをし始める。
「逃げる気ね」
すぐさま追いかけスマートフォンのカメラアプリで車のナンバーが見えるように調整して撮影する。するとそのまま車が止まる。
「……なんかいやな予感」
この時のアスカの予感は外れた方がマシだと思った。再び急発進して車がアスカに接近する。
危険を承知でアスカはそのままパルクールの要領でぶつかる直前にボンネットへ転がる。しかし勢いのついた車はそのままアスカの家の壁を再び壊し、庭に乗り上げ停止する。その衝撃でアスカの体は庭先に投げ出され背中から落ち転がる。
「ちょっと!?大丈夫!?」
壁にぶつかる音に駆けつけたお隣さん達が悲惨な状況に慌てふためく。
「おい逃げるぞ」
車に乗っていたアスカより少し年上の男達が逃げようとする。
「させ…るか!」
逃げようとする一人をアスカは痛む体を押して強引に足払いをかけ、転倒させる。そのままぐっと頭を押さえつけさらに左手を踏みつけて動きを封じる。
「おばさん!警察!!」
アスカの言葉に我に返ったお隣さんは慌てて警察と救急に電話をかけはじめた。
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「…うわぁ」
それから10分後、騒がしくなってきたこともあり打ち合わせの途中でレイジは自宅方向だと周りから指摘され、急ぎ戻ると物々しい雰囲気になっていた。
「レイジ、こっちこっち」
救急車の担架に腰掛けていたアスカがレイジに気づき呼び寄せる。
「姉貴、これどうなってるの?」
「とりあえず詳しいことはあとで。あたしは今からちょっと病院に行かないといけないから」
「ええ…それじゃ連絡どっちに入れる?」
「父さんはプレゼンで今日は帰らないし、母さんは基本出れないしなぁ」
「それに母さんの立場的にすぐは無理だろうし…」
そう言って二人とも考え込む。
「ご両親に連絡はつかないの?」
調書を書いていた警察官が訪ねる。
「…じつは、母は本庁勤務でして」
やむを得ずアスカは母の所属を話す。とはいってもそれはアスカ達家族なら分かる「警察官として」の表の所属。詳しくは聞いていないが職務の関係上あまり話さないよう釘は刺されていたが、このような事態になっては仕方ないだろう。
「ああ、そこの所属なら仕方ないね。こっちから呼びかけてみよう。あ、旧姓のままということもあるからそっちの方も聞いていい?」
「とりあえず母さんのに掛けてみる」
一応対応してくれた警察官は納得し、無線にアスカの話した情報を連絡を入れる。それと同時にレイジが電話を掛ける。ほどなくして。
「すぐに取ってくれるよ」
と話を聞いてレイジは一度通話を切る。少しするとレイジのスマートフォンに着信が入る。
それにこっちにというジェスチャーをするアスカ。
「もしもし」
『アスカ、大丈夫なの!?レイジは!?』
「あとで詳しく話すけど、うちの壁に車が激突してそれを回避するときにボンネットに飛び乗ったんだけど…加速で放り出されたから一度病院で頭打ってないかこれから運ばれるところ」
『はあ!?なんでうちの壁に車がぶつかるの!?いくら突き当たりでも今までないわよそんなこと!』
「そうなんだけど…とりあえずあたしは病院に行かなきゃだし、レイジも今帰ってきたところだから現場検証だっけ?それにも立ち会えないから最後の署名に保護者のもいるってことだから色々困っちゃって」
『あー、今日はお父さん泊まりと言っていたから仕方ないわね…レイジに家の電話の引き出しに保険証あるからそれ取りに行かせて。あ、後戸締まりしてついて行かせて。必要な手続きは後からこっちでするから。それからさっき無線連絡してくれた人に変わってもらえる?』
「うん」
そう話してアスカは警察官に事情を話してスマートフォンを渡す。そしてそのままレイジに母の指示通りに保険証と戸締まりを頼む。
「分かりました。では明日その時間に管轄の警察署へお願いします」
話が終わる頃にレイジが戻ってくる。
「戸締まりOK。それと頼まれてた保険証」
「別の日にまた調書の続きをするから後の詳しいことはご近所さんにも聞いたりするからちゃんと病院で診てもらってね」
「はい、ありがとうございます」
レイジにスマートフォンを返却されると同時に一応父にも連絡としてメールを入力し始める。それから程なく必要な対応を終えると二人を乗せた救急車は走り出した。
「はぁ…こんなツキのないのは初めてだわ」
動き出した車内でどっと疲れが出てきたアスカはゆっくりとそのまま横になる。
「レイジ、悪いけど後は任せた。ちょっと気を張りすぎて疲れたし、まだ体痛むから」
「そのまま眠ったままにならないでよ!?縁起でもないから」
「分かってる…ふぁ」
救急車に揺られながら疲労から来た眠気に身を委ねゆっくりとアスカは意識を手放した。
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