第11話 日常の中で
あれから三日後、アスカは高等部の学食に一人座って休憩していた。
臨時営業していた購買部で買った緑茶とあんみつを口にしながらふと窓の方を見る。
何気ないいつもの学校での風景なのだが、ある違和感が『見えて』いた。
「『見えて』しまうのも問題よね…」
アスカの視界には外壁部分から結界に似た壁が広がり、そこから先の見慣れた景色が途切れていた。
「ここ、いいか?」
「…あ」
声のした方を向くとそこには西牙が立っていた。他に席はあるのに自分のところに来て声をかけてきたことはどういうことかアスカはなんとなく理解し、席に着くよう促した。
しばらく無言が続き、西牙が一口缶コーヒーを飲むと口を開く。
「この間はいろいろとすまなかった」
そう言って頭を下げる。
「一応、母さんから簡単にだけどそっちの話も聞いた。ああいうのに詳しいってことも」
あの日の後、祖母の遺言書捜索がてら西牙と瑞希のもう一つの顔について話をしていた。
そのためアスカも今瑞希が話せることは全て聞かされている。
「こっちも腕輪の件は俺の行動が間違いで迷惑をかけて済まない」
瑞希から見つけ出した遺言書によるアスカへの相続並びに相続条件により手放せないことが証明され、西牙自身も説明内容の誤認であったということで注意を受けている。
「…まぁ、そっちの立場からしたらそうなるから仕方ないでしょ」
そう話しながらまた一口あんみつを口に運ぼうとして1度器に戻す。
「それに、あたしも技かけちゃったし…それはごめん」
「いや、あの時もそれは出来ないと言っていたから仕方ないだろ」
「それ以前に指南役の立場でアレはないでしょ」
「…言えてるな」
そう言いながら二人とも飲み物を口に運ぶ。
「あ、そうそう。母さんから連絡先交換しておくよう言われてるのよ」
思い出したかのようにアスカはスマートフォンを取り出す。
「こっちも昨日聞かされてる。一応、この関連に対して相談に乗ってくれってことかもな」
そう話しながら二人は連絡先を交換する。
「じゃ、改めてになるけど…不知火アスカ、これからよろしく」
「宮沖西牙だ」
「早速で悪いけど…あれどういうのか分かる?」
そう言って先ほどの校舎の外壁側を見る。
「ん?…ああ、あれか」
アスカの視線の先にある結界に似た壁に西牙も見る。
「これに関しては確実なことは言えないが、結界なのは間違いない。ただ、昔は今の皇居や政治の中心に関する場所を守るためのものだったらしい」
「…何らかの形で形骸化して残ってたり偶然その組み方になってるってこと?」
「おそらくな」
西牙もこの件に関しては自分たちの知る知識の中では複雑さ故に忘れ去られたものであること、アスカの推測通り何らかの形で偶然術が組まれたりすることもあるそうだ。
「ただ、一つ言えるのはこの学園自体はそれを知っている人間が作った可能性が高いんだ。高等部だけでなく大学院まで同じような結界の壁がある」
「こればっかりはそうした人間しか分からないってことね」
「見たくないなら元の風景を思い返すといい。それである程度はマシになる」
「完全にとはいかないんだ…」
「その人の持っている記憶によってその軽減度合いが違うと思ってくれればいい」
「…なるほどね。ちょっと試してみるわ」
そう言ってアスカは目を閉じ、元々見えていた風景を思い出す。そして目を開けると結界の壁はかなり薄まっていて元の景色が見えるようになった。
「確かにある程度残って見えてるわね」
「一応他にも方法はあるけど、用意する物もあるから必要なら言ってくれ」
「了解」
そう言って再びあんみつを食べ始めるアスカ。
それを横目に缶コーヒーの残りを一気に飲み干し席を立つ西牙。
それと入れ替わるようにアスカと同じように休憩しに来た生徒の団体が入ってくる。
「よほどのことが起きなきゃいいわね」
そう口にしながら見慣れた日常に身を置くアスカ。
彼女たちが非日常の世界に再び飛び込むのは近いようで遠いのかもしれない。
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