第1話(西牙side)困った妹
和室に置かれたソファーの上で横になる少年―
そこにそろりそろりと一人の少女が入ってくる。抜き足差し足忍び足という古い言葉がぴったりな動きで西牙に近づく。
そしてそのままゆっくりと少女は顔を西牙に近づけていく。しかし次の瞬間、西牙の拳が少女の額に綺麗に叩き込まれた。
「あいた!」
情けない声とともに少女は額をさする。
「何をやっているんだ、まったく」
小さなため息とともに西牙はイヤホンを外してプレイヤーを止める。
「だって暇なんだもん」
そう少女は悪びれる様子もなく口にした。
「暇だからって、限度があるだろうが」
「仕方ないでしょ。友達は旅行だったり、使える小遣いももうそんなにないし…」
「だからってそういういたずらしようとする妹がどこにいる?」
「えー、いいじゃん。兄妹なんだし」
そう言い放つ妹―宮沖香奈に頭を抱える西牙。彼の妹は世間一般で言うブラコンというやつである。しかし、彼女の場合はその超えてはいけない一線すら超えかねないほどの悪いものだ。
「で?本当は何しに来たんだ?」
やる気のないようにとられる目で妹を見る。
「あはははは…課題手伝って!」
先ほどまでの調子はなりを潜め、香奈は西牙に頼み込む。
「ダメに決まっているだろ。毎年この時期になるといつもそう言うからな。今回は自分で何とかしろ」
そう言い放つと西牙はイヤホンをつけ直し、停止したプレイヤーの音楽を再生すると同時に再びソファーに寝転がる。こういう時香奈が一番堪える方法を西牙は兄らしく理解している。
流石にこうなるといくら頼んでも無理なのは香奈も理解している。諦めて部屋を後にしようとした時、西牙のスマートフォンの着信音が鳴り響く。
慣れた手つきでプレイヤーを停止しながら片方のイヤホンを外してスマートフォンの通話を開始する。
「もしもし?…はいはい」
話を聞きながら香奈の方を見ると何か感づいたらしく、西牙の方を見ている。
そのままジェスチャーで銃を撃つような形をとると、香奈はあわただしく部屋を出て行った。
「それで、妖かしが出たのはどこ?」
その台詞が彼を日常から非日常へと踏み入る合図だった。
「今からで問題ないんだよね?うん、分かった。はーい」
「お兄ちゃん」
そう言って慌ただしく戻ってきた香奈がホルスターに入った拳銃らしきものを投げ渡す。
「私もついて行った方がいい?」
そう言いながら香奈ももうひとつ用意していた自分用の拳銃のようなものの確認をしている。
「大丈夫だろ。今回は様子見だし、それとこれの確認だからな」
自身の武器の確認をし、ホルスターに戻す。
「まぁ、使うことにならないのが一番だけどな。それじゃあ行ってくる」
部屋を出ようとして何かを思い出したかのように香奈の方に向きかえる。
「…どうしたの?」
「課題終わってないのバレてたみたいだぞ。ちゃんとやっておけよ」
「あう…」
落ち込んだ香奈の表情を見てそのまま本当に部屋を後にする西牙。
相変わらず兄に頼りすぎる困った妹だ、と心の中で静かに呟いた。
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