第44話 恋の騙し合い 6
朝食には、男爵や客がいなくて静かだった。テーブルには、メリエッシとダニーと私が座る。メリエッシが私達へ紅茶を入れてくれた。他の給仕もメリエッシがしてくれた。使用人は部屋にいなかった。朝食の間は、何も会話がない。私は別にそれでもいいと思う。どうやらメリエッシもダニーもそう感じているみたい。きっと皆昨晩の夕食で疲れていて、話す気力がないのかも。
朝食後メリエッシと散歩に出かけた。今回はダニーはあんまり心配していないようで笑顔で私達を見送ってくれた。今朝は晴れやかな空で、景色が少しは明るくなっている感じがする。鳥達のさえずりを聞いているとさえこの地も悪くないと思える。風も穏やかでそこまで寒くない。
ーー明日もこんな天気だったらいいのに。
メリエッシの結婚式の日が、今朝のように晴れて欲しい。せめて天候だけでもメリエッシの結婚をいいものにして欲しいと思う。明日は結婚式の後に、王都へ戻る予定。だから、こうしてメリエッシと散歩をするのもいいかも。
昨日と同じ崖に立っている。相変わらずこの崖は高い。下を覗くと怖くて身震いがする。メリエッシは私の後ろへ立った。
「ねえ龍姫様。ここから落ちたら、どうなるのでしょうねえ」
私は「はっ」として、メリエッシを見る。なぜかメリエッシの顔を見ていて、緊張してきた。
「し、死ぬわ!」
メリエッシがニヤリとした顔をする。
ーーま、まさか!
私はどうやってメリエッシから、離れようか考える。後ろは海。前には、メリエッシ。横しかないの。でも、彼女に押されたら……。
ーーなんで、もっと警戒しなかったの!
今後悔しても遅い。
「死んだら、一体誰が悲しんでくれるかしら。タケルイ様は、悲しんでくれるかしら……」
ーータケルイ。
私は彼の言葉を信じなかった。私はタケルイよりメリエッシを信じた。
「も、もちろん」
「そう。そうだったらいいのに……」
メリエッシが下を向いた。
ーー今が逃げるチャンス。
「わたくしが死んだら、タケルイ様は悲しんで下さるといいですわ……そしたら、わたくしのこの世の生は、意味のあるものになるでしょうねえ……」
「……え!?」
ーーメリエッシが落ちて死んだ時の話をしていたの?
「龍姫様、そんなに崖の端に立っていたら、本当に落ちて死んでしまいますよ。どうぞそこから離れて下さい。海を見たいなら、浜辺で見られた方がいいですよ。特に今朝は天気もいいですので、青い綺麗な海が見れますよ。それでは、行きましょうか?」
メリエッシがなだらかな丘を歩き始めた。私も急いで彼女の後を追いかける。
その間私は自己嫌悪中だった。どうしてメリエッシが私を殺害しようなんて思ったのだろう。なんかさっきの会話を思い出して、自分が最悪な女と思う。メリエッシを疑って、そしてタケルイを疑った。私の方が、タケルイより何十倍も最悪。隣で歩いているメリエッシが、にこっと笑った。
「龍姫様、どうかしましたか?」
「い、いいえ」
私は嘘つきにもなったし……。
「そうですか? お顔色があまりよろしくありませんから。ホラ、見て下さい。この土地も案外捨てたものではありませんでしょう? きっとこの土地で、私は少しづつこの土地の良さを見つけていこうと思っているのです」
真っ直ぐした姿勢で、夜会を歩いているように綺麗なスタイルのメリエッシが綺麗に見える。
こんなデコボコした土を綺麗に歩けるなんて……。私はメリエッシが王妃様になった時の姿をすぐに想像した。彼女はきっと素敵な王妃様になったのに。本当に私がこの世界へ来たことが正しかったのだろうか……」。
ううん、分かっているの。この世界へ来たのは私のせいでも誰のせいでもないと。でも、メリエッシを、この優しい彼女のことを思うと、ついそう考えてしまう。
「龍姫様」
メリエッシが立ち止まったので、私も歩を止める。
「何ですか?」
メリエッシを見て言った。
「あ、あの……」
メリエッシが真っ赤な顔をして下を見て言った。
「あの……ごめんなさい。わ、わたくし、急にお花を摘みたくなりましたので、ここで失礼していいですか? 早く館へ戻りたいのです」
メリエッシが少しモジモジして言った。
ーーお花を摘む? って、この辺に花なんて咲いていないし……どうして館で花を摘むのだろう?
「……っあ! ああ、わ、分かりました」
ーートイレだー。何という可愛らしい言い方ー!
「そ、そうですか。わたくしからお散歩をお誘いしたのに、まことにすみません。どうぞごゆるりとお散歩を楽しみ下さいませ」
と、お辞儀をして優雅に、でも速歩きで館の方へ歩いて行った。私はボーと、メリエッシが消えるまで見ていた。
流石に散歩をしないでこのまま戻ったら、メリエッシが心を痛めると思ったので取りあえず昨日と同じ道を歩く。歩いて浜辺へ行った。
相変わらず浜辺は、しーんとして人一人いない。真っ白な砂浜に、今日は真っ青な海が綺麗。昨日は立って見たけど、私は浜辺にあった腰かけられる石に座った。この世界の海は、日本の海と同じ。ふと日本のことを思い出す。
少し感傷に浸っていたの。そしたら、段々と眠気がやってきた。
私はどうしても起きていることが出来ない。
ーーどうして、こんなに眠たいの?
確かに昨晩は、ダニーと一緒のベットで眠れなかったけれど、ちゃんと寝たよね。
ーー目を開けていられない。
私の体が段々と傾き、私は真っ白な浜辺で横になった。その後は、真っ暗な夢の中だった。
そして意識を手放した。
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