第45話 恋の冒険 1
『ユラユラ』
『ゆらゆら』
まさに私の体は、ユラユラでゆらゆら。~ゆらゆら~~ユラユラ~。
こんなに揺られていて気持ちいいかもしれないのに、段々と気分が悪くなる。って、思いながら目を開いた。
ーーまあ~、なんと綺麗な青い空。
確か私は海を見ていて眠くなったよねえ。そうなんだ、私って浜辺で寝てしまったんだ。
ーー太陽がテンテンって、ヤバい! 日焼けする! ミーユのスベスベお肌が日焼けしてしまう。
日焼けで顔の皮が剥けるなんて、イヤ。ましてはミーユは白人肌だから、日焼けの後真っ赤になって……その後は、ソバカスになってしまう。早く日陰に行かないと、と思って体を起こそうとして気づいた。
ーーう、うそー。
なんと私の体は、ロープでクルクル巻かれているの。手が前でくくられている。私は顔を動かして周りを見た。でも見るほどのものがない。私の周りは板で出来たボートだけ。私がボートの中で寝っ転がっているのが、分かるの。そして、舵を取っている人もいないの。
「ちょ、ちょっと、どうしてー。誰かー、助けてー」
私は頭が混乱して叫けんでいた。
「助けてー、ダニー」
もしかしたらダニーが助けてくれるかも。龍姫と龍騎士って、不思議な関係と言うから。
「おい、うるさいぞ」
ボートの外から、声がした!
ボートの外って、海だよね!? だって、ユラユラしているし。なっ、なんで声がするの!? そっ、それも知らないしゃがれた声だし。
「だっ、誰?」
恐々声をかける。
「ぎゃー」
私は命を一回捨ててしまった……。
ーー心臓がまた動き出したからよかったものを……
ボートから出てきた声の持ち主は、こなきジジイのようなかなり怖い顔だった。目は一体どこにあるのだろう?って、このこなきジジイは海に浮かんでいるの?
「それにしても、今度の流刑首がおなごとはのう。それもこんな綺麗な顔をして。こんな島へ送らず、女郎で働かしたらいいものを」
こなきジジイが訳の分からないことを言っている。
「流刑首? だ、誰が?」
「ここへ来る奴は、みんなそう言う。無実だーと叫び続ける奴も多い。それにしても、あんたは一体何の罪を犯したんだ? まあ精々男絡みだろう。女の流刑首は、大体そうじゃ」
「わ、私は、流刑首じゃないわ」
私は驚いて訴えた。
「はあ、ここ何年か流刑首を送ったことがなかったなあ。国もただ流刑首を島流しするより、鉱山で働かした方がいいと考え始めたと聞いたが。まさか、この年で、また流刑首を運ぶ仕事をするとは思わなんわ」
ーーわ、私は、あの島へ流されるの!?
「ちょ、ちょっとー! わ、私は、犯罪者じゃないわ! 私は、龍姫よ!」
普段は自分から『龍姫』と名乗ることがないけれど、今回はどうしても伝えないと!
「ふぁーふぁーふぁー。お主は、頭が弱いんじゃな。よっぽど痛い拷問を受けて、頭を痛めたんじゃな。そうじゃなあ、狂ったら、おなごの憧れる龍姫様でいたいよなあ~」
ーーこのこなきジジイは、私の話全然聞いていない!
「だ、だから、狂っていないって、私は、本当に龍姫なんだから!」
私は、どうにか座ろうとするけど、体が動かない。
「へいへい、龍姫様。着いたよ。まあ、着いたのは、島の近くだけどなあ。ここまでが、わしが送ってやれる場所じゃ」
「っえ!? ど、どう言うこと。島へ案内する仕事でしょう? そ、それより、どうしてあなたは、海から顔を出して話しているの?」
「ふぁーははっはふぁー。わしは別に海に立っていない。ワシは自分用の船におる。わしの船にお主の船を引っ張ってここまで来たんじゃ。だが、もう島の近くじゃあ。この島の周りは海の流れが激しいよって、近づいたら流れに巻き込まれて船が壊れる」
「こ、壊れるの?」
「それに、あの流れに巻き込まれたら、それこそ陸地へ戻ることなんて出来ない。と言うことで、お主とはここでお別れじゃ。まあ、くれぐれも波に巻き込まれて船が壊れないことを祈ることじゃなあ。無事に島へ着いたら、ええなあ。わしも今まで一体何人の流刑首が島へたどり着いたか知らんがなあ」
どこからこのこなきジジイに聞いたらいいか分からない。
「ホラ、この島からは誰も陸に来れないからなあ。もうおしゃべりは、これまでじゃあ。まあ、達者でなあ」
こなきジジイの顔が消えた。
「ちょっと、待って。待って。本当なの。私は龍姫なの。男爵に聞いたら分かるわ。私は、男爵の婚約者のメリエッシ様の友人よー」
私は必死に叫ぶ。返事は来ないと思っていたの。
「だからさっきから言っておるじゃないかあのう。その男爵様の奥方様が、わざわざ王都から、流刑首を運んで下さったと……」
ーーえっ、メリエッシが!? メリエッシが、私を……。
こなきジジイの声が、段々と薄れている。私の船とこなきジジイの船が離れているのが、分かる。
船が急に激しく動き始めた。
「ど、どうして……メリエッシ……」
涙が零れる。
「あなたは、そんなに私のことが嫌いだったの……」
確かにそうかもしれない。私は彼女の人生を奪ってしまった。で、でも、こんなに人を騙すなんて……。やっぱりタケルイが言っていたように、メリエッシは悪い人だったの……?
いくら私がそう思っても、もう誰も私の問いに答えてくれる人なんて、いない……。
「タケルイ、ごめん。私は、あなたを信じてあげれなかった」
「こんな私が人を愛する資格ないねえ」
「ましては、愛されるなんて……」
空にもしかしたらタケルイが聞いてくれるかもと思って語った。
でも私の声はタケルイにも、ダニーにも届かなかった。
波が荒く舟の揺れが激しくなる。時々水しぶきが私の顔へ飛んでくる。波が激しくなるにつれて、段々と気持ち悪くなり私は意識を手放した。
ーーああ、私は、また死ぬのね……今度は、もう『愛されたい』と願わない。
ーーだって、私は、もう愛を知った。タケルイとダニーを愛しているの。タケルイとダニーが私を愛していると言ってくれた。
ーー最初は、二人共ミーユの外見を好きだから私を好きになったかもしれないけれど。やっぱり、本当に誰かを愛する時は外見なんて見てないもの。その人の心に惹かれるもの。私もそうだった。だから、二人が私のことを「愛している」と言った時に、気付いたの。二人は本当の私、美奈を愛してくれていると。
ーー私は、この世界へ来れて、よかった。
「タケルイ、愛しているわ」
「ダニー、愛しているわ」
「もっと二人といたかった。置いていって、ごめんね」
「さようなら……」
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