第38話 恋の悲しい日々 2
「ミーナ、もうそろそろ休みましょう。明日は長旅です。いくら龍でも、最低二時間かかるところです。それにしても、本当に遠いところですね。私も商隊でたくさんのところへいきましたが、明日行くところには、まだ行ったことがありません。あいにくメリエッシ様の嫁がれる場所はこの大陸の端で、寒い辺鄙な場所なので商人が行くことは少ないですね」
ダニーが、私のブランケットをかぶせ直して言った。
「そ、そんなに田舎なの? 私のいた場所とどっちが田舎なの?」
ミーユのいた村も伝説の村で存在をあまり知られてないと聞いた。
「ああ、恋織物の村ですねえ。確かにミーナがいた場所は田舎です。でも辺鄙なところとは違います。ミーナのいた場所は、ある一定の人達しか知られていない村なのです。
その村へ辿り着く人は、その村で生まれた者か、一部の商人だけです。この商人は国に管理されている者達です。少しでも不正があれば、国に罰せられます。ミーナの村人達は国にとって大切な人達で、恋織物の技術を持っている大切な人達です。だから本当に一部の人達にしか、その村の存在は知られていません。だから、田舎と言う訳ではありません」
そんな事実があったなんて知らなかった。ミーユも知らないで、よっぽどの田舎と思って暮らしていた。
「だから今回まさか魔物があの村へ現れと国は思っていなかったでしょう。もし思っていたとしても、この国には龍がいないので、どうすることも出来ませんでしたが」
確かにそうかもしれない。ミーユの記憶の中に魔物のことを知っているけれど、村が襲われたと言う記憶がない。ミーユの村から半日したところにある村が、襲われたことはあった。ミーユもその村へは一回しか行ったことがない。はじめて父に連れて行ってもらった時に、「決して恋織物のことを話したらいけない」と何度も注意された。
ううん、この時はとくにそう言われたのと、ミーユの村には村人が守らないといけない掟があった。それは、よそ者と恋織物について話さないと言うことだった。
「ど、どうしよう……」
私は急に不安になる。
「ミーナ、どうしましたか? どこか気分の悪いですか?」
ダニーが私の顔を注意深く観察する。
「ううん、気分はいいの。ただ思い出したの」
「何を思い出したのですか?」
「うん、村の掟で『決してよそ者に恋織物の話をしてはいけない』と言うこと。それなのに、私は……」
つい唇を噛んでしまった。
「ミーナ、唇をあまり噛むと血が出ますよ。どうぞお止め下さい」
ダニーは、細かいところをよく観察している。
「そんな掟があったのですか。でも、それはもう必要ありません。恋織物を作る織り手は、残念ながらミーナしか残っておりませんから……。今はミーナが龍姫として龍騎士を見つけると言う大切な時期ですので、国はミーナに何も言わないですが……きっと、落ち着いた時がきたら、ミーナに恋織物のことを聞いてくるでしょう」
ダニーが不安そうに言った。
「ミーナ。私はあなたが龍姫に選ばれてよかったと思っております」
「っえ?」
「確かにミーナが妻でよかったと思っています。しかし、それ以外で恋織物の織り手はとても貴重な存在。国自身織り手を守らないといけません。その織り手がたった一人しかいない状態です。ミーナに一体どれだけの価値があると思いますか? もし龍姫じゃなかったら、国はミーナを軟禁してでも外部から守ったでしょう。それも、ミーナが次の織り手を育てるまで、ミーナには自由がなかったでしょう。それほどこの国にとって、恋織物は貴重な収入元です。他の国やどの商人も恋織物の織り手を欲しがります。
たかが織物と言う人もいるでしょう。しかし、恋織物は優れた技術で神の織物と言われても不思議ではありません。
そう言う意味でも、龍姫だったらミーナはこうして龍騎士や龍に守られます。それ以外にも世界中の神殿に守られます。だから、私はミーナが龍姫でよかったと思っています」
私はダニーの優しさがうれしい。私が知らないことを教えてくれる。私も三人の龍騎士に出会い、国が落ち着いたら恋織物の技術を伝えたい。
まで国が恋織物を今までのように秘密伝統技術にするかなど分からないけれど、私はもっと多くの人が恋織物を作って欲しい。
「どうぞくれぐれも気をつけて下さいね。ミーナは龍姫と言う価値以上に織り手と言う価値がありますからね」
ダニーの目は真剣だった。
「はい。気をつけます」
「そう。よかった。じゃあ、明日は忙しいので、ミーナももうそろそろお休み。私はミーナが眠りにつくまでここにいるよ」
ダニーがそっと私の額にキスをした。
「お休み」
すぐ眠気が襲った。
その日ミーユとカイシの夢を見た。知らない人がミーユを攫おうとした時に、カイシが助けてくれた時の夢を。カイシとミーユ、二人の恋のエピソードが幸せな時間だった。
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