第37話 恋の悲しい日々

 タケルイが失踪して、一ヶ月過ぎた。私には龍姫だからタケルイが生きているのが分かる。分かるけれど、彼が元気なのか、または病気なのかなど分からない。龍騎士がこんなに長く龍姫と離れていることは、サファイアもタケルイも衰弱してしまう。

 だから、一日一日、日が経つにつれ私は不安になってしまう。ダニーもそのことを知っているから、毎日タケルイを探しに行っている。

 タケルイの家族も、側近達も毎日不安そうに過ごしている。ダニーがタケルイがいなくなった理由を説明してくれた。王妃様がハンカチを目に当てて泣いた時に、私はいても立ってもいられなくなった。私はただ「ごめんなさい」と、謝るくらいしか出来なかった。王妃様は、「龍姫様のせいではありません」と言ってくれた。もちろん他の人達も私のせいではないと言ってくれる。

 国民にはタケルイは龍騎士の修行へ行っていると発表した。


 タケルイがいなくなった日から、私はただ「ぼー」と空を見て過ごした。空を見上げることができない時は全てのことを忘れるために、一心不乱で恋織物を織った。


 周りの人もタケルイのことを心配している。私に彼の安否を聞く。私だけが、彼の生存を知ることが出来るみたい。同じ龍騎士だけれどダニーには彼の位置や生存など分からない。私は龍姫としてタケルイと繋がっていることの意味を始めて理解した。



 この一ヶ月私は何度も熱を出した。その度にダニーが側に付いていてくれる。ベット住人になった私が退屈していると思っていろいろなことを話してくれる。この一ヶ月間でダニーのことをたくさん知ることが出来た。ダニーの話の中にユライとコリーとの幼い時の話が多くて、胸が苦しくなる。でもそんな気持ちをダニーには言えない。だから私はダニーの話を聞いて、悲しみ熱を出すと言う悪循環の日々を過ごした。


 今も私はベットに横になって、ダニーの幼い時の話を聞いていた。彼がユライとコリーのことを楽しく話すので私はムカとしてしまった。


「ダニーは、ユライさんとコリーさんととても仲がいいね」


 ツンケンとした声が出た。


「ええ。そうですね」


 ダニーがにっこりと笑って答えた。ダニーの頬に出来たエクボが少し憎たらしく感じる。


「なんでダニーは、コリーと結婚しなかたの?」


 今の私はどうかしている。


「っえ!? どう言うことですか? コリーと私は幼なじみですよ?」


 ダニーが不思議そうに私を見た。


「だってダニーもコリーさんも、もういい年でしょう? 普通結婚して子供がいていい年だよ? それに、コリーさんってダニーのこと好きみたいだし」


「そうですか。ミーナにも、コリーが私を好きと気づきましたか?」


 ダニーが少し考えた後に、低い声で言った。


「私にとって、コリーは妹です。私は、彼女と結婚相手として見ることが出来ません」


 私もダニーのコリーへの態度を見ていて、そんな感じがしていた。


「コリーは、今まで私と結婚出来ると思っていたようです。誰とも結婚していなかった私のせいでもありますが。だから、こうして龍騎士に選ばれて、ミーナと結婚出来てよかったと思っています。これで、コリーも私を忘れるのではありませんか。そして、ユライを見てくれるでしょう」


「や、やっぱりユライさんは、コリーさんのことが好きなの?」


「ええ。ミーナは、そのことにも気づいたのですね」


「うん」


 ユライの私への態度は異常だったんだ。コリーの幸せだけを考えている態度だった。


「ユライはずっとコリーのことを思っていました。私があの家族にならなかったら、コリーはユライを好きなっていたのではとよく思うのです」


 ダニーが寂しそうに言う。


「っえ!? あの家族にならなかったらって?」


「ああ、ミーナは知りませんか? 私とユライは、血が繋がった兄弟ではありません。私の母がユライの父と結婚して兄弟になったのですよ。私の父は母を妊娠させた後、どこかへ消えた酷い男です。母と結婚の約束をしたのに、消えてしまったらしいです。わ、私はそんな薄情な男の息子なのですよ」


「ダニーは、薄情なんかじゃない!」


 声をあげて訴える。


「ミーナ。ありがとう。でも、私は薄情な男です。だから、今まで結婚出来なかったのです。そしてミーナとだったら、私が父のような行動を起こした時に側にいてくれる人が二人いると思って安心して結婚出来ました。やはり私は、薄情な男です」


 ダニーが寂しそうに言った。


「ダニー、ダニーは薄情なんかじゃない。だから、だから、ダニーだけは、私からいなくならないで」


 私は泣いていた。泣いてダニーにお願いする。


「ミーナ、約束は出来ませんが、龍騎士と龍は、龍姫がいないと生きていけません。だから、私がミーナから離れることはないでしょう。それに、タケルイも、きっとすぐに戻ってきますよ」


 ダニーが私の涙を拭きながら言った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る