第36話 恋の確認 2

『ガッタン』


「失礼!」


 今まで黙って朝食を取っていたタケルイが、いきなり席を立って部屋から出て行った。


「あっ、サファイアに会いに行く時間なの? ちょっと、待って。ダニー、ありがとう。とてもうれしい。また、後でね。タケルイ、待って」


 私は部屋の中を走ったらいけないと知っているけれど、先に早歩きで歩くタケルイに追いつくために走った。


「待って! タケルイ、待って!」


 私の言葉が聞こえているはずなのに、タケルイは歩く足をとめない。


 結局タケルイに追いついたのは、タケルイがサファイアに乗っている時だった。


「はあ、はあ、はあ。タケルイ」


 私は息を吐きながら、サファイアに乗っているタケルイに話かける。


「た、タケルイ、どうしたの? はあはあ、どこへ行くの?」


「散歩」


 いつもはもっと話すのに、今のタケルイの態度はかなり変だ。


「タケルイ、どうしたの? 私も一緒に行っていい?」


 なんかタケルイを一人にしたら、いけない気がして嫌な胸騒ぎがする。


「一人になりたいんだ」


 やっぱり今のタケルイは変だ。


「どうして一人になりたいって言うの?」


「もうほっといてくれよ。一人になりたいって言っているだろう。サファイア、行くぞ」


 タケルイが、私を無視しようとした。


「サファイア、ダメ!」


 タケルイの命令で空へ飛ぼうとしたサファイアが、『キュ~イ』と鳴いて、地面に寝た。


「オイ! サファイア、なんでミーナの命令を聞く! 私の命令を、聞かない!」


 サファイアは、タケルイの言葉を無視して寝ている。


「あはっははー、サファイアは可愛いね。いい子だね」


 私は、寝ているサファイアを撫でる。


「どうして、こいつは女に弱いんだよ!」


 タケルイはまだサファイアの上に乗ってふて腐れている。


「分かった。龍姫とちゃんと話すよ。話したら、私の言うことを聞くんだぞ」


『キュ~ン』


ーーあれ~? サファイア寝ていたよね? って、狸寝入り? って、龍だから、龍寝入り?


「あのさー、ごめんな」


 タケルイがサファイアからジャンプをして降りて、私の目の前に立って言った。


「っえ!? なんで謝るの?」


「いや。私って情けない奴だとつくづく思う」


「?」


「ダニーがミーナに贈り物をして、嫉妬してしまったんだ」


「!?」


 タケルイが左手で顔を被った後に、頭に手を当てて私と反対の方を見て言う。


「私はつくづくかいがいせいのない男と気づいた。私は、私は、恥ずかしながらミーナに贈り物をあげることが出来ないんだ! 後何年間かは、ミーナに宝石なんて買ってあげることなんて出来ないんだ! ちっくしょー」


 タケルイの王子様の話方が段々と崩れてきている。


「私は、国に、イヤ、両親に借金をしているんだ。私には、私が譲り受けた宝石が一つもないんだ」


ーーっえ!


「それって、まさか全部メリエッシ様に……」


「ああ、そうだよ! 私はどうかしていた! 周りの助言を全部無視して、全部メリエッシに渡したんだ! 彼女が、『お金がなくて、今度着ていくドレスがない』と言えば買ってあげた。

何かイベントがあるごとに、私は家宝を、私が譲り受けた家宝を全てメリエッシに渡したんだ!」


「う、嘘。そんなことってあるの? 普通、そんなに人から貰うものなの? ましては、好きな人から?」


 私の考えは、間違っているのかな? でも、明らかに以上だと思う。


「私もその時は、何も感じなかった。だが、婚約破棄の時に気づいた。周りの人達が言っていたことが、本当なんだってね」


 タケルイがイヤな顔をした。


「っえ、周り何て言っていたの?」


 普通、私はあまり人のことを聞かないようにしているけれど、どうしても気になって聞いてしまった。


「みんな言っていたさ。メリエッシは、私と結婚するのは金のためと。私は彼女が自分を愛していると思っていた。あんな金の亡者に騙されていたんだ。両親が金の亡者だったら、子供もそうなるって言うことになるって知らなかった。

 私は、てっきりメリエッシの父親のせいで彼女の家は、金銭的に苦しいと思っていたけど。彼女は二度と同じドレスを着たことがなかった。後で気づいたことだが」


「う、嘘。メリエッシ様、そんな人に見えなかった! そ、それは、タケルイがそう思いたいからよ! 借金を作ったのは、タケルイせいよ! 彼女のせいにしないで!」


私には、彼女が可愛そうな優しい人に見えた。他の令嬢にいじめられた可愛そうな人に。


「な、なんだよ! 私より彼女を信じるのかよ! ああ、別にいいけど。どうせ私は借金まみれだ。妻に、指輪の一つも買ってあげれない、ひどい夫だよ! もういいだろう! ダニーがもう一人の龍騎士でよかったな。ダニーは、私と違って、女に騙されてないし。それに、この国で裕福な奴だ! ダニーに、何でも買ってもらえば! もういいだろう。こんな貧乏な奴なんて、ほっとけよ。サファイア、行くぞ」


 タケルイが怒っている。私が怒らせた。


「タケルイ。ごめん。待って! サファイアも行かないでー」


 タケルイは、すでにサファイアの上に乗っている。サファイアも、今度は私の言葉を聞かない。


「ミーナ、僕は君に先に会いたかった。そしたら、この国で一番の宝石を君にあげれたのに。僕はミーナの頭に、この国の姫が着けるティアラを乗せれたのに。本当に、何も贈れなくて、ごめん。サファイア、行くぞ」


 サファイアが、地面から浮いた。


「タケルイ、待って。私は、宝石なんていらないの! ティアラなんて、いらないの! タケルイは、私にコスモスの花をくれたわー。髪にコスモスを着けてくれたわ。わ、私、うれしかったの! 待って。タケルイ、すぐに戻って来るでしょう? お願い、散歩したらすぐに戻って来るでしょう!? タケルイー、待ってー」


 タケルイとサファイアが、大空へ消えて行った。私には、タケルイが帰って来ない気がしたの。


「タケルイー」


 私は、思いっきり大きな声をあげた。


「タケルイ、タケルイ、あー」


 空を見ながら、私は地面に座りこんだ。空を見上げながら、泣いた……。



「ミーナ、どうしましたか?」


 

ダニーが私の方へ駆けて来て、私同様地面に座って私の顔に両手を添えて尋ねた。


「ダニー。ダニー、タケルイがー」


 私は泣きながら、やっと事情を言えた。ダニーはしばらく私が落ち着くまで、抱きしめてくれた。


「ミーナ、ミーナのせいじゃないよ。これは、タケルイの気持ちの問題だよ。だから、ミーナもタケルイが傷ついたことを自分のせいだと思わないことだ。きっと、すぐに戻って来るさ。頭を冷やしに、散歩をしているだけさ。なんだったら、私が探しに行きましょうか?」


 ダニーにタケルイを探しに行くように頼んだ。


「では、行って来ます。どうぞミーナも自分のせいだと思い悩まないで下さいね」


 ダニーがスカイに乗って空へ飛んで行った。




 その日の夕方、ダニーが戻って来た。ダニーは、タケルイがもうすでに龍屋敷に戻っていると思って帰って来た。


 でも、タケルイは、その日戻って来なかった。


 そして、次の日も、次の日も。一週間しても戻らなかった。

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