第39話 恋の騙し合い
スカイに乗ってメリエッシの嫁ぐ男爵の領土へ行った。冬将軍の訪れで風が冷たいけれど、なぜかスカイに乗っている時は風に当たることがないし寒くない。スカイだけじゃない、サファイアに乗っている時も気温を感じない。私はダニーの前に座って、彼に寄り添っていたから快適な旅行だった。私は快適だったけれど、ダニーは違った。
私達が出発する前に、バロンさんがダニーにいろいろ父親としての注意事項と言う話をダニーを捕まえてしていた。「本当は嫁前の娘の旅行を許したくない!」と言っているバロンさんに、私は「????」な気持ちでいたけれど、もちろん余計なことを言わない。何か言ったら私まで「嫁入り前の娘の行動」とか言うややこしい話をさせられそうだしね。ダニーには悪いけれど知らんぷりした。ダニーは大人の男だから、バロンさんの小言も大丈夫だよね、と思うことにした。
でもバロンさんとの話が終わって戻って来たダニーを見ていて、やっぱりバロンさんが一番強烈な人と改めて認識。バロンさんだけは、敵に回したくない。ううん、バロンさんだけじゃなくクレイさんもヤバいかも。私は、バロンさんに注意されなかった分、クレイさんに散々された。
もうたったの三日間しかここを離れないのに~!と思ってしまう。
やっと、やっとのことで出発出来た。出発してから、ダニーと私は「はー」とため息をつくことがあったけれど、お互いに話さない。お互いに、かなり疲労中。
「ダニー、背中まだ痛い?」
「いいえ。もう大丈夫です。それにしても、バロンさんはいつもあんな感じなんですか?」
「う、うん。多分、タケルイの背中をバーンって打っていたし……」
「そ、そうですか……」
「なるべくバロンさんには逆らわない方がいいかも。それとクレイさんにも」
「そ、それがいいですね。まあ、お二人方も私達のことを気になさってのことです。どうです。そろそろお昼を取りませんか? 多分、道のりの中盤点ですよ。ここら辺は、森や山ばかりですし、私達の龍が降りても誰にも見つかりませんよ」
「う、うん。私もそろそろお腹空いてきました」
私達は小川の近くで降りた。スカイから降りた途端、肌寒く感じる。
「寒いねえ?」
私は着ていたコートを首までボタンをした。
「ええここは、完全に冬ですね。いつ雪が降ってもいいくらいです」
私達は急いでクレイさんが用意してくれたお昼を食べた。その時に、ダニーは私のコップに水を入れてくれる。ふとタケルイとピクニックした時を思い出す。
この旅行から帰った時に、タケルイが「お帰り」と言って私達を迎えてくれたらいいと思う。
残りの旅も順調だった。天気も寒いだけで晴れた空だったので快適だ。私は雲や景色を楽しんだ。
でもメリエッシの嫁ぐ男爵の領土へ入ってからは、景色を楽しむことが出来なかった。男爵の領土は、岩ばかりで荒れた土地だった。人の住んでいる家もぽつりぽつりあるぐらいで、ヨーロッパの田舎風景とは違った、寂しい風景だった。それが冬だからか分からないけど、ミーユの住んでいた村は冬でも綺麗だったのに。
「寂しいところ」
私がそう呟くと、ダニーも「そうですね。この世の終わりみたいなところですね」と言った。
男爵の屋敷は、海岸の丘にあると言っていたので海を目指した。ダニーは商人として、あっちこっちに旅をしているので方向感覚がよく、私達は迷わずにすぐにその館を見つけることが出来た。
男爵の屋敷は、石で出来た小さい屋敷。ダニーの家を見ていたから、そう思ったのかもしれないけれど違うと思う。屋敷の前に降りて、その屋敷が私の住んでいる龍屋敷よりかなり小さいと分かる。屋敷の周りには、庭がなく、花壇らしきものもなかった。辛うじて茶色の草がまばらまばらに育っている。
「ようこそ、我が屋敷へお出で下さった」
男爵が屋敷から出て私達を迎え出た。男爵の後ろに数人の人達がいる。
「ほら言った通りだぞ。私はかの龍姫様と龍騎士様の知り合いなんだぞ。こうして私の結婚式へ参加するために、わざわざ王都から来たのだぞ。私は、王太子の元婚約者と結婚する上に、こう龍姫様と龍騎士様と交友関係にある重役なんだぞ」
男爵は私達への挨拶もなしに、後ろにいる人達に自慢をしている。
「それにしても龍姫様は、お綺麗な方ですなあ」
「でも、着ている服装が地味ですわ」
「はじめまして、ここから五時間したところに領土があるカレリッテ準男爵です。こちらが私の娘です。どうですか? 龍騎士様。この子は、この辺では一番器量のいい娘です。どうぞ妾にどうですか?」
準男爵は、男爵の自慢を無視して私達に話かける。準男爵の隣にいる派手な母親と派手な娘も勝手なことを言っている。娘はダニーの容姿に見入りながら嫌らしい目でダニーを見ている。
「私達は、今長旅をしてきたところです。中へ入らないうちに、このような歓迎を受けるのでしたら、このまま帰らせていただきます」
ダニーが怒った声で言った。
「こ、これは失礼しました。龍姫様、龍騎士様、どうぞ中へ入って下さい。今すぐに温かい紅茶を用意します」
自分勝手な人達の後ろからメリエッシが出て来て、私達に謝って急いで中へ入るように促した。
「分かりました」
ダニーもメリエッシの言葉に、少しは機嫌がよくなったみたい。
屋敷の中も冷え冷えと寂しい気持ちになる場所だった。この国は、ヨーロッパのゴシック系のように壁にいろいろ飾る習慣があるのに、この屋敷の壁は石で何も飾っていない。普通、北国だったら、布を飾るところも多いのに。ミーユの家も恋織物をタペストリーにして、それぞれの家で飾っていた。そうすることで、部屋に温かさが出た。
でもこの屋敷は寂しい。あんないされた部屋の家具もボロボロだった。私は男爵がお金持ちと聞いていたので驚く。
「ちょっと待っていて下さい。今使用人にお茶を運ぶように言ってきますね」
メリエッシが部屋から慌てて出ていくのを見送った。
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