第24話 第二の龍

 今回の龍騎士は前回と同じだけど少し違った。前回は王族と上級階級の人達ばかりだった。今回は大人の中に子どもの姿もあった。その子ども達がダニーの弟達と妹達と後で知らされた。もちろんダニーの両親と親戚も出席をしている。儀式が終わった後に彼らと対面した。

 儀式のはじめは相変わらず私の登場は最後だった。私のエスコートはバロンさんだけれど、今回んはタケルイのわがままで彼になった。タケルイが私の第一龍騎士だから当たり前だけれど。バルンさんはタケルイをからかって中々私のエスコートを譲らなかった。


「仕方ない。若造に譲ってやる。ミーナを傷つけたらどうなるか分かっておるだろう?」


 バルンさんが、ドスの効いた声で言った。


「はい、分かっております」


 タケルイの声は真剣だった。


「っくっそー、これが娘を嫁に出す父親の気持ちなんだなー」


『バッシン』


 バロンさんが、『バシン』とタケルイの背中を叩いて言った。


「いっ」


 タケルイが前屈みになってヨロけた。「マジで叩いた。痛い」とタケルが呟いた。


「じゃあ、行くぞ」


 と、バロンさんが言って私の腕を掴み歩き出す。


「ちょ、ちょっとエスコートを私へ譲ったのではありませんでしたか?」


 バロンさんと私が歩き出したら、タケルイが慌てて後ろから追いかける。


「だから反対側でもエスコートしろ」


 とバロンさんが言って、私達は儀式の部屋へ歩いて行った。私達三人は廊下をほとんど占領して歩いた。私達の姿を見た使用人達は、壁にべっとりくっついた状態で、私達の様子を不思議そうに見ている。


「自分でエスコートするのつもりだったら、どうして私の背中を叩くのですか?」


 私の左側でタケルイが、私の右側にいるバロンさんを睨みながら言う。


「もちろん、可愛い娘を取られた父親としての役割をしただけだ」


 と、バロンさんはケロッと言った。


「ち、父親って、あなたは……」


「ん!? 若造私はミーナを保護をして引き取った親だ。父親だ。なあミーナ?」


ーーえっ? そこで私に振らないで!!


 バロンさんの顔が怖くて、叫んでしまった。


「う、うん。バロンさんとクレイさんは、私の両親で、です!」


「ほら、ミーナもそう言っている。いくら王子でも、龍騎士でも、ミーナの夫でも、私がミーナの父親と言うことを忘れずになあ」


「は、はい……」


 タケルイが渋々小さい声で答えた。その後、機嫌のいいバロンさんとなぜか落ち込んでいるタケルイと儀式をする部屋へ行った。この二人のおかげで今回はあまり緊張していなかった。

 儀式は前回と同じで相手がダニーだったから安心していた。でも、流石にキスをする時はドキドキしたけど。キスをした時にまたあの温かい光に包まれた。ダニーのキスは唇と唇が触れるか触れないかのキス。ダニーの匂いが私を包んで、一瞬に触れた唇が温かい。


『キュ~イ』


「龍様だー」


「おめでたい。万歳。龍騎士様、龍姫様。ありがとうございます」


 外から歓声が聞こえてくる。私達は外へ出た。もちろん私のエスコートでもめた。ダニーが私のエスコートをしようとした時に、バロンさんが透かさず私の右腕を掴んで放さない。もちろん脇で儀式を見ていたタケルイも、いつの間にか隣に来て私の左側にいた。


「ミーナ、行こう」


 あっけにそんな二人を見てどうしたらいいか分からないダニーを無視して、タケルイとバロンさんと外へ出。


ーーダニー、ごめん。


 ダニーに申し訳なく、彼に向けてペコッと軽く頭を下げる。私のすまなそうな顔を見て、彼が苦笑いをした。

 周りの人達も状況を掴めていないような感じだった。ダニーは神官長と私達の後を付いて来る。


 神殿の広場には、前回よりたくさんの人がいた。今回の儀式は、前に知らされていた。そして、今回の龍騎士が庶民出身と言うことで国民達の喜びがすごい。今日はどの店も休みでお祭り騒ぎだった、と後で聞いた。

『キュ~イ』空から、龍が私達を目がけて降りて来た。長い体格。竜と思うけどこの世界は龍。体が長い。これに乗るのは難しそうだけれど、なぜか龍騎士と龍姫は普通に乗れる。他の人も乗れるのかタケルイに聞いたけど、試したことがないので分からないと言われた。

『キュ~イ』龍が目の前に止まった。


「こ、これが、私の龍ですか!?」


 ダニーが感動して声がイチオクターブ上がっている。


「さ、触っていいですか?」


「もちろん。ダニーの龍だ。龍も龍騎士や龍姫に触られると嬉しがるから撫でてやれ」


 タケルイが言いダニーが恐る恐る龍に触れる。


『キュ~イ』龍がうれしそうに鳴いたので、ダニーが「あっはっはっはー」と、エクボの出来た頬っぺで笑った。ダニーが龍とじゃれている姿は、少年のよう。


「ミーナも触ってあげたら」


 タケルイが私を促したので、私もダニーの横に立って龍に触る。


「あなたの名前は、スカイ」


 私は龍を撫でながら口が勝手に開く。


「名前はスカイなのか。ミーナの髪の毛と同じ色をしているな。綺麗な水色の銀色だ」


 ダニーが龍を撫でて言った。


「お兄ちゃん、私にも触らせてー」


「りゅう、触りたいー」


「ちょ、ちょっとあなた達ー」


 人垣から、四人の小さな子供達がバタバタとダニーに駈け寄って、二人の女の子達が彼の長い足にしがみ付いた。


「お兄ちゃん、りゅう、さわりた~い」


 小学生くらいの、茶色の髪の毛をお下げににした女の子が言った。


「おにいちゃん」


 小さい女の子が、指を口から取ってダニーを見上げて言った。


「クリーとクネ。お母さんと一緒にいないといけないじゃないかー」


 ダニーが幼稚園生くらいの女の子を抱っこしながら言う。


「お兄ちゃん、龍かっこいいー」


「僕も乗ってみたい!」


「クシュとクリク。ちゃんとお母さんとお父さんの所にいないといけないぞ」


 ダニーが中学生くらいの男の子達に少し険しい声で言う。


「あっ、うん。でも、こいつらが走り出したから追いかけて来たんだ」


 一番年長の少年が、言葉を濁して言った。


「ダニーすまん。でもこいつらだって、式の間大人しく待ったんだ。許してあげてくれ」


 私達の前に痩せた眼鏡をかけた青年が言った。


「ユライ。そうだな。お前達、優しく龍を撫でるんだよ。決して龍に乗るんじゃないぞ」


 ダニーが子供達に注意をした。


「やったー」


「お兄ちゃん、ありがとう」


「行こう」


 子供達が龍を触りだした。スカイは、子供達にうれしそうに触られている。


「まあまあ、ダニーありがとうねえ」


 少し太った優しそうなおばさんが、中背のおじさんと一緒にユライと呼ばれた青年の隣に立って私達に話かける。


「龍姫様も、この度はまことにありがとうございます」


 おばさんがそう言うと、おじさんとユライと言う青年が頭を下げた。


「母さん……ミーナこっちが私の母で、その隣にいる人が私の父です。そして 弟です。それと龍を触っている子達も私の弟と妹です」


 「はっ、始めました。ミーナと言います。どうぞよろしくお願いします」


「まああ、龍姫様が私達に頭を下げるなんて。なんて可愛らしいお方なんでしょう」


 お母さんが、にっこり微笑みながら言った。


ーーダニーと同じで、エクボ出来ている~。ダニーのエクボって、お母さんからなんだ。


 でもお母さんはまあ綺麗な方だと思うけれど、ダニーの極上の綺麗さはない。それにダニーのお父さんは普通のおじさんで、ユライと言う青年はお父さんに似ている。きっとお父さんの若い時は、こんな顔をしていたんだとすぐに分かる。今、龍を触っている子供達も可愛いけれど、ダニーほど極上の美しさはない。


「初めまして、私は第一龍騎士のタケルイです。今後交流があるでしょうから、お見知りおき下さいませ」


 タケルイが私の横に立って言った。


「こ、これは、王太子様」


 ダニーのお母さん達が、タケルイを見て驚いてお辞儀をしようとした。


「私は王太子を退いた身ですのでお辞儀は結構です。なにより今は私とダニーは同じ地位です。彼の両親と兄弟。どうぞ私に気にせずに接してください」


 タケルイがあの王子様スマイルで言った。


「まあどうぞ息子をよろしくお願いします」


 ダニーのお母さん達が、私とタケルイに言って頭を下げた。ダニーのお母さんと彼は、しばらく龍と子供達を見ながら会話をしていた。


「では、また。近い内に、家の方へも遊びに来て下さいね」


 まだ龍を触っていたい子供達を引っ張ってお母さん達が人垣の元へ戻って行った。龍が降臨したから、それで儀式は終わりなのに、皆はなかなか帰らずに龍と私達を見ていた。


「ダニー、ちょっといい?」


 ユライがダニーに聞いて、二人は私達から少し離れて会話をした。初めは話し声が小さかったけど、段々と大きくなっていく。


「コリーは、どうするんだよ! あいつ、ずっとダニーのこと好きだったんだぞ!」


ーーえっ?


 ユライの怒鳴り声で二人の方を見てしまった。


「ミーナ、そろそろ部屋に戻りましょう。バロンさんは、もうさっさといなくなっているよ。あんなにエスコートとか言っていたのに、そのエスコートする相手を放っといてどっかへ行っているしなあ」


 タケルイが私の背に手を添えて、軽く押した。


「で、でも、ダニーが、」


「ダニーだって、家族水以来で話をすることあるだろうから、私達は先に行きましょう」


 タケルイの言葉に従ったけど、ユライの言葉が引っ掛かる。確かにダニーは好きな人はいないと言ったけど、だからって彼を思っている人はたくさんいる。

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