第19話 愛する恋織物 3
いきなり隣にいたタケルイに問われて、どう返事をしていいか分からずに戸惑う。
「失礼ながら申し上げます。どなたにも初恋の人はいます。龍姫様にいても不思議ではありません。そのような質問はあまりされない方が今後のためにもよろしいと思いますよ」
男性がタケルイに言った。私はその人の台詞のおかげで、ほっとする。私はミーユの初恋も、私の剛志への初恋のこともタケルイはもちろん誰にも話したくない。初恋、淡くて幸せな時間だったけれど悲しい恋だったから。私の剛志への恋は段々と薄くなっている。
ーーこれはこの世界へ来たせい? 美奈とミーユが合わさったから。それとも私が新しい恋を初めているせい? 私も初恋を綺麗な思い出にしたい……。
「ああ、そんなこと分かっている。ミーユ、、お昼でお腹空いているだろう。恋織物は今度私とサファイアに乗って隣国へ行って見てこよう。皆の者、今日はご苦労であった。お礼は父上の方から、あるだろう」
タケルイが立ち上がり、私の腕を掴み立った。
「っあ、この布。ありがとうございました」
私は慌てて、その恋織物を男の人へ渡した。
「いえ、こちらこそ、こうしてこの恋織物の名前を知ることが出来てうれしいです」
その人がにこっと笑顔を浮かべて私に言った。
ーーか、可愛い。
つい格好良い大人の男の人が、笑って頬っぺたにエクボが出来るのを見えて、キュンとしてた。ギャップ萌? 彼の顔に見惚れていたらタケルイがぐいっと腕を引っ張って、私は咄嗟にバランスを崩した。
「大丈夫ですか?」
その人が私の左腕を支えてくれた。
「は、はい」
彼の顔が近くて、ドキドキする。
「オイ、ミーナ!」「な、何だ」
「手が光っている!!」
私の腕を触っている彼の手が、光っていた。
「龍騎士様に選ばれたのですよ!」
神殿長の声で、周りがザワめく。
「オイ、嘘だろう……?」
タケルイが、戸惑った言葉を言った。
「俺が、龍騎士?」
「う、うそ!?」
私は驚いてその人を見つめていた。その人も驚いて自分の手を見ている。
「おめでとうございます。龍騎士様、このように降臨を大喜び申し上げます」
神官長が跪いて頭を下げると、周りも一斉に頭を下げた。
ーー降臨って、さっきから、ここにいるのに。
タケルイは、まだ彼を見ていた。
「名前は、なんと言ったか?」
彼が「ハッ」としてタケルイを見て答えた。
「あ、はい。クルイ商会の『ダニー』です。龍騎士様」
ダニーさんが答えた。
「お主も龍騎士だ。私のことは、タケルイと呼べ。私もお主のことをダニーと呼ぶ。ミーナ、行きましょう」
タケルイが私を引っ張る。
「あっ、私の名前はミーナです。どうぞミーナと呼んで下さい」
「ええ、私のこともダニーと呼んで下さい」
ダニーがまた、さっきと同じようにエクボのある笑顔で笑った。
「ミーナ、行くぞ!」
タケルイの引っ張る腕が痛い。
「い、痛い」
「大丈夫ですか?」
ダニーさんが、私を心配して声をかけた。
「ええ、大丈夫です」
「み、ミーナ、ご、ごめん」
タケルイが、どうすればいいのか途方にくれた顔に焦った顔をしている。
「うん、大丈夫だよ。タケルイは、そんなにお腹空いているの?」
きっと、こんなに急いでいるのはお腹が空いているのかもしれない。
「っち、ああ、早く昼食を取ろう」
タケルイが、今度は私の背中に手を置いた。
「うん。ダニー、今日はありがとうございました」
「ええ、ミーナ。すぐに会いに行きますね」
やっぱりダニーの笑顔が可愛い。
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