第13話 ピクニック
「お待たせしました」
タケルイが龍騎士の服を着て部屋に入って来た。黒い騎士服に腰に王家の剣を携えてサファイアの色のマントを着ている。彼の金髪は後ろで束ねられて、二次元の王子様。
「どうしましたか?」
と、黒い丸い目が見惚れていた私の顔を上から覗く。
「き、綺麗だと思って」
ーー私は何を言っているの!!??
「っあ、っそ、そうですか? あ、ありがとう。私より、ミーナの方が、綺麗です!」
タケルイの顔が真っ赤になる。私は綺麗と言われて一瞬うれしくなったけれど、すぐに悲しくなった。外見を褒められるのは、美奈じゃない、ミーユだ。
「どうしましたか? 私はまたあなたを傷つけましたか?」
「い、いいえ。行きましょう」
私は彼の腕に手を添え、にっこり作り笑いをする。
居間から庭へ、フレンチドアから出る。庭にサファイアがすでにいて待っていた。私達が来ると『キューイ』と鳴く。私も一緒に乗ると知ったサファイアは、『キューン、キューン』と何度も鳴いて頭を上下に揺らす。
「大丈夫です。龍姫は龍に乗る乗り方を自然と知っているはずです。私に捕まって、体を預けて下さい」
落ちるなんて言う恐怖はないけれど……タケルイに体を預けるなんて。ドキドキして体温が上がる。私達が乗るとサファイアが空高く舞い上がり、風が顔に当たるけれど、それほどに強くない。
「私も龍のことを知らないはずなのに、自然と分かるのです」
龍姫って不思議。
「不思議ですね。不思議なことに私はあなたのことが気になって仕方ない」
「……」
私は一瞬心臓が跳ねたけど何も答えなかった。
「ここの景色、綺麗なんだ」
てっきり街へ降りると思っていたけれど、まだ龍姫の私は狙われているので危ないから、人ゴミの多い所へ行かない方がいいみたい。
「私はまだ狙われているの? どうして? だって、もう龍騎士がいるんだよ?」
「ミーナは三人の龍騎士を持つ特別な龍姫だが恋織物の織り手と言う情報が知れ渡った。そ、それに、私達は、その、まだ、契りを結んでいないので、龍の力も弱く……。いいえ、私はあなたを責めているのではありません。もしかすると、私の龍は、この先も力が弱く魔物の量も減ることはないかもしれません。
で、でも、ミーナには後二人の龍騎士がいます。だからその龍達の存在が魔物の存在を減らすように影響が出るのです。
だから、今私達の関係がよいものじゃないと知って、私達を殺めて新しい強い龍をこの国にと考えている浅はかな集団がいるようです」
私は……タケルイとセックスなんて出来ない……。というか、私は三人の男性とエッチをするの?
つい三人と、ううん、二人とエッチをすることを考えて体が暑くなった。タケルイと密着していて、鍛えられた筋肉とスパイスの匂いの混ざった男性の匂いで下半身がキュッとなった。
「それは極秘にするように神官長が言ったていたような……」
なるべく平静な声で相槌をうつ。
「確かに。でもどんなに極秘と言っても、そう言うことは自然と漏れるもんだ。だから龍騎士が全員揃って、ミーユが落ち着いたら、街へ連れて行ってあげるよ」
「う、うん。そうなんだ」
私は自分がどんなに特別な存在と言われても、あまりパッとしない。日本にいた時のように、一人で街へ遊びに行きたくなる。
クレイさんが商人に織物を織る道具を頼んでいるけれど、恋織物を織る道具は特別な物でまだ受け取っていない。この王都では、織る人がいないのでワザワザあの村の近くの道具を作る村で購入して持って来ないといけない。だから、毎日が暇で本を読んで過ごしている。
ーー街に行きたいな。
私のささやかな希望はなかなか叶えられない。でも本を読めてよかった。
不思議なことに私にはこの国の言葉が話せて、読むことが出来る。普通は女子は学問を習わないけれど、ミーユはトニーに教えてもらっていた。貴重な本を村長さんの所から借りて何度も読んでいた。ミーユは本がとても好きな子だった。
美奈も本は好きな方。確かにこの世界は日本のように本が多くないけど、私はこの世界の本が面白い。特に龍姫と龍騎士の話は楽しい。
「ここにブランケットを敷こう。ほら、クレイさんがお昼を用意してくれたんだ」
タケルイがブランケットに座った。
「きれい……もう秋なのね」
辺りが紅葉していて、綺麗。日本は春だったのにこの世界へ来たのは真夏。そして今は秋。
「ああ、秋だな。すぐに冬が来る。ミーナもあまり風にあたって、熱を出さないようにしないといけないぞ」
タケルイが私を見てからかい半分真剣に言う。
「私は元々、北の村から来たのよ」
「そうだったな。でもどうして、熱を頻繁に出すんだ?」
「きっと、きっと、いろいろなことが変わったから」
「そ、そうだな。私もいろんなことがあった。そして私も変わった。特に私は自分の気持ちに戸惑いがある……」
私のいろいろは美奈がミーナになったこと。でも、このことを誰かに言うこともない。言っても、「神のおぼしめし」と一言で纏められる気がする。それは、それで悲しくなると思う。タケルイの気持ちを聞かなかった。
タケルイが、私に聞いて欲しいことに気づいたけど聞かない。龍騎士と龍姫だからかもしれないけれど、私はなんとなくタケルイの気持ちが分かる。
「じゃじゃあ、まだ早いけど昼食を取ろう」
私達はクレイさんが用意してくれた食事を取った。ボリュームのすごいサンドイッチで、私用に半分にされている。飲み物はアルコールの少ないぶどう酒。この国の人はあまり生水を飲まない。ミーユの村人達は、雪解けの水を飲んでいたのに。
初め私が葡萄酒より水を頼んだ時は変な顔をされた。最近は私が水の方を好むと知って、私用に沸騰させて冷ました水をいつも用意してくれる。でも今はタケルイが注いでくれた葡萄酒を飲む。彼は私が水を好むと気付いていない。
『ごっほっ、ごっほっ』
葡萄酒が強くて蒸せる。
「ミーナ、大丈夫!?」
口に手を当てて咳をしていると、タケルイが私の背中を撫でた。彼が焦っている。
「う、うん。ごっほっ」
「確か水も用意していたと思う」
彼が急いで水を新しいコップに注いで、私の口に持ってくる。
「あ、あり、が、とう。だい、じょうぶ。一人で、飲める、ごっほっ」
「ああ、ゆっくりと飲むんだ。ごめん、ミーナがいつも水を飲んでいると知っていたけれど……まさか、葡萄酒を飲めなかったなんて。勝手に飲み物を決めて、ごめん」
「ううん、タケルイのせいじゃない」
「私はミーナには、ひどい男だよな……」
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