第12話 第一騎士と

「龍姫様、どうぞ私にあなたの名前を呼ぶことをお許し下さい。そして、私のこともタケルイと呼んで頂けないでしょうか?」


 今日もいつものように王太子と一緒に朝食を取っていた。龍騎士の儀式以来毎日王太子が私の住む屋敷へ来る。確かにここは、龍姫と龍騎士の住む所だけど。私も近くにいることを許したことは事実だし。

 でも、どうして朝一番に来て一緒に朝食を食べるのだろう。ううん、朝食だけじゃない。昼食も晩ご飯も一緒に食べる。一人で食べる食事より、誰か一緒に食べる方が楽しいけれど、相手は王太子。


 クレイさんやバロンさんも自分達は龍姫の使用人だから、一緒に食事が出来ないと断られた。だから王都に来てからはずっと一人で食事を取っていた。王太子は食事だけじゃなく、居間に一日中いる。居間はいつの間にか、王太子の執務室になった。彼の従者達や側近達の出入りが激しい。前は神官以外に会えなかったけど、一人龍騎士が決まったので安心したのかもしれない。


 私もまた二人目の龍騎士を見つけるために謁見をしないといけないけれど、周りは私の体を心配して延期にしてくれた。私と王太子が少しでも接近してくれたらいいと言う、皆の期待があるのかもしれないけど。龍騎士と龍姫が本当の夫婦になって欲しいと皆思っているみたい。クレイさんが何度もそんなことを言っている。


「ミーナと呼んでいいですか?」


 王太子がまた聞き返した。


「王太子様……」


 私にはどうしても呼び捨てなんて出来ない。また剛志と同じようになってしまうから。


「私は王太子ではありません。龍騎士です」


 そう、王太子は王太子としての身分を返した。そして今は「龍騎士」でもこの世界では龍騎士は、どの国の王様より偉い。王太子の身分を返した時に男爵令嬢との結婚も延期したらしい。別に王太子が男爵令嬢と結婚しても、私には関係ないわ。と自分に言い聞かせている。だから彼との距離を取らないと、また美奈のようになってしまう。


「それにこれから、後二人の龍騎士が加わります。私のことを龍騎士と呼ばれても困りますので、どうぞ名前を呼んで下さい」


 この世界には、名字は貴族しか持っていない。家名。もちろんミーユにも私にもない。でも、私の今の名前は「龍姫ミーナ」王太子は「龍騎士タケルイ=ヤイ」王太子の身分を返したけど王族なのは変わりない。


「わ、分かりました」


 私には生地になって反対する理由がなかった。


「どうですか? 今日こそは、一緒にサファイアに乗ってこの王都を見ませんか?」


 サファイアに出会ってから、王太子、ううん、タケルイは毎日サファイアに乗って出かけている。その度に私を誘ってくれた。私はまだ彼と接するのが怖くて、ここ一ヶ月毎日断っている。はじめは断る度に寂しそうな顔をしていたけれど、今は明るい顔で


「じゃあ、明日一緒に出かけましょうね」


と言う。龍騎士だから、龍がいるから彼は安全で、今までのように従者の人が後に付いて来ない。


 龍騎士は魔物が出た時に戦いへ行く。戦いはほとんど龍がしてくれるが、何分の時のために自分のみを守る訓練をする。タケルイも朝食後に剣の練習を将軍や側近達と毎朝庭でしている。


「城の訓練所でしたらいいのに」


 と思って、タケルイに言ったら、


「私がここで訓練をするのはイヤですか?」


と、聞き返された。そんなことを言われたら、


「ううん」


 と言うしかないのに。


「龍姫様を一人には出来ません。どうぞ暑苦しいけど、私といることに慣れて下さいね」


と、にっこりと人懐っこい顔で笑った。



 この一ヶ月間、どうしてこの王太子が国民に人気があるのか分かった。彼はとても人懐っこくて話やすい性格。剛志を思い出す。彼の周りにには人が寄ってくる。龍騎士だからかもしれないけれど、それだけじゃない気がする。

 今朝はミーユの夢を見て、気持ちよく起きれた。彼女がトニーとカイシ、家族と仲良く生活している夢。夢の最後に


「臆病になったら恋を逃すよ」


と、意地悪っぽい顔をしてミーユが言った。きちんと人と接しないといけないと起きた時に反省した。


「タケルイ様。私もサファイアに乗ってみたいです。そして、街を見たいです」


 食事が終わって、いつもの挨拶代わりになっている誘いに答えたら、


「ミーナ、ほ、本当に一緒に出かけてくれるのですか?」


 タケルイが狐に騙されたような顔をして聞く。


「は、はい」


「そ、そ、それはよかった。ちょっと待っていて下さいね。今すぐに用意をします。クレイ、どうぞミーナに暖かい服を着せて下さい。すぐに戻るので、待っていて下さい」


 タケルイが急いで部屋を出て行った。


「クスクス。もう龍騎士様ったら、ミーナ様の気持ちが変わると思って焦っちゃって。でも、よかったわ。ミーナ様が龍に乗ってくれるなんて。龍様もミーナ様に乗って欲しそうにしていたから、とても喜んでくれますよ」


 クレイさんが準備を手伝ってくれた。私も毎日タケルイに付き添ってもらい、サファイアに会いに行っている。サファイアはヤンチャで甘えん坊な性格。全ての龍がそうなのかと思い、バロンさんに聞いたらそうでもなかった。龍には、それぞれの性格があるらしい。

 龍はかねてどこにいるか分からない。龍騎士が呼ぶと、空に現れる不思議な生き物。龍が魔物を倒す力は龍騎士と龍姫からくるらしい。でも私が何かしたと言うこともないけれど……。

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