第5話 恋織物

 ミーユの住んでいた村は北の寒い国だ。一年で雪がないのはたったの三カ月。だから、そんな場所だったから織物の技術が発達したのかもしれない。ミーユの記憶にある愛織物は、彼女の髪の毛の色と一緒の水色の銀色。

 まるで村の雪景色のようだ。目の色は、その布を織るために糸を染める時に使う「アイ草」と呼ばれる草を茹でて潰した時に出る汁のようだった。だからよくおばあさんが、「ミーナは愛織物のようだ」と言っていた。


 伝統の恋織物。これを着て結婚した花嫁は、幸せになると言う言い伝えがある。 織り人が少ないので高価な織物。クレイさんとバルンさんは私の指に付いている藍色のシミで、私が織り手と知っていた。

 私が最後の恋織物の織り手だ。貴重な存在。あの村がなくなって、商人達が今ある全ての恋織物を買い漁っているらしい。私の存在はその意味でも人に知れてはいけないと言われた。


 私はミーユの体は、恋織物の織り方を知っている。小さい時からこの恋織物がミーユの一番の興味事だった。呼吸のように愛織物を織っていることが自然なことで、なぜか私もたまに織り機に座りたくなる。

 あのパタンと言う音を聞きたい。織物をしていると気持ちが落ち着くのかもしれない。私は美奈なのにミーユ。憑依より転生なのかもしれない。私がクレイさんに織物をしたいと言ったら、龍騎士様が見つかって龍が誕生したら、織っていいと言われた。それまでは危ないらしい。


ーー龍騎士が早く見つかって欲しい。私を愛して欲しい。美奈を。私も愛したい。


 ミーユの恋の気持ちや美奈の恋愛のこともあるけれど、今の私は二人じゃない。ミーナで、龍騎士、未来の旦那さまに愛されたい。



 この国は王制の国だ。世界中の国々は全て王制で世界には十の国が存在する。私のいるこの国は北部にあり大きくもなく小さくもない中間の国だ。隣国のマヤセ国とも仲が良い。

 基本的に人々の敵は魔物だから、国同士の戦争はない。それぞれの国の龍騎士がいるので、人々が勝手に戦うことが出来ない。

 龍騎士にとって、龍姫と過ごす時間を争いに使いたくないと言う理由が一番らしい。どうも龍騎士と言う存在は、龍姫にべっとりな感じがする。私も誰かにそんな風に愛されるのかなと思って、ドキドキする。


 旅は田舎の田園風景を見ていて飽きなかった。ヨーロッパの田園風景。テレビでしか見たことがない景色だったので楽しかった。

 食事も生活習慣も中世ヨーロッパ。電気とかないけれど、生活習慣はかなり整っていて、現代社会に比べると不便だけどすぐに慣れた。着ている服はドレスだ。

 でも私は我侭を言ってミーユが村で着ていたような村娘のような恰好をしている。かしこまった貴族が着るドレスをクレイさんが用意してくれたけれど、私はあまり着たくない。私もオシャレが好きだけれど、あんな正装をしていたら息が苦しい。



「まあ庶民の恰好している方が、人攫いに会う確率が減るからそれでいいぞ」


 と、バロンさんが言ってくれて、やっとクレイさんが諦めてくれた。彼女はどうしても私を着せ替え人形にしたいらしい。


 王都は石作りの城壁で囲まれた綺麗な街だ。街は一ヶ月後にある王太子の結婚式の準備で、お祭りのように明るい。

 クレイさんが王太子と男爵令嬢の恋話をしてくれた。舞踏会で、王太子が男爵令嬢に一目ぼれをして求婚した。王太子は明るくて人懐っこい性格で国民にとても人気があるらしい。


「着いたよ」


 馬車が大きなゴシック型の教会の建物の前で停まり、従者の人が馬車のドアを開けてくれた。バロンさんが初めに下りて、クレイさんに手を差し伸べて馬車を出た。その後に私もバロンさんの手を借りて下りる。

 目の前の教会は大きくて綺麗だった。私はバロンさんの腕に自分の手を添えて教会の中へ入った。クレイさんは小さなバックを持って私達の後ろに付いてくる。私達の荷物は従者の人が部屋に持って行った。教会の中も綺麗。私はキョロキョロして歩いた。後ろにいるクレイさんも「まあ。綺麗」と感嘆の声を出している。

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