第6話 龍姫の徴

 バロンさんが見習いの服を着た神官に何か小声で話をしたら、その人は頭を下げて早歩きで廊下へ出て行った。私達はしばらく銅像や壁画を見て待った。


「お待たせしました。こちらです」


 さっきの神官ともう一人の神官が私達の所へ来て、お辞儀をしてある部屋へ案内する。部屋は、迷路のような道を通ってやっと着いた。


「失礼します」


 私達が開かれた金の扉の部屋に入ると、その中には部屋いっぱいの神官がいた。私はびっくりして立ち止まる。

 そんな私に「大丈夫」と、バロンが励ましてくれた。私は後ろに付いて来たクレイさんを見ると彼女もにっこり微笑んでくれた。


「神官バロン。そちらにいる女性が、龍姫と言うのだな?」


 私達が入った時に神官達が両側に移った。奥の方から白髪の老人が優しい声で聞いた。


「はい、龍姫様でございます」


 バロンさんはかねて私とタメ口で話すのに今は丁寧語だ。他の人がいる所では尊敬語で話さないといけないと言った。私の存在は尊き人だと言われた時は距離を置かれたような気がして悲しくなった。


「龍姫様、どうぞこちらへ」


 神官が私を呼んだけれど怖くて、バロンさんの腕を力強く握った。


「ミーナ様。あちらで立たれるだけです。何も心配することなんてありません」


 彼から龍姫を認める儀式の説明を何度もされた。龍姫が神殿にある、龍像の前に立つとその龍姫の背中にある模様が、壁に描かれる。

 それが、私が龍姫の徴。たまに背中に刺青をして龍姫を名乗る人がいるらしい。この儀式は神官しか知らない。私は震える体で一歩一歩前に進んだ。

 老人の神官の前に着いた時にお辞儀をする。今はまだ龍姫と証明されていないので、身分は神官長の方が立場が上だ。


「ミーナです。よろしくお願いします」


「はい、ミーナ殿。こちらへ立って」


 私は神官が指差した所へ恐る恐る立った。

 急に体が金の温かい光に包まれる。とても幸せな安心した空間。ずっとそこにいたいと思ったけれど、その光が急に消えた。

 私はぽつりと一人、そこに立っている。私は周りまわりを見たら神官全員が床に躓いてお辞儀をしている。皆私に頭を下げている。バロンさんもクレイさんも、神官長も。


「ど、どうして」


 私は理由を知っていたけれど、たずねる。


「お待ちしておりました。どうぞ、しもべが頭を上げる話すことをお許し下さい」


 神官長がかしこまった声で返答する。


「し、しもべ? あ、あの。立ってください。私、お辞儀をされるような人じゃないの」


 目から涙が出てくる。それでも、神官長以外はお辞儀をしたまま。


「皆の者、立ち上がるのじゃ。この龍姫様は、皆にお辞儀をされて泣いておられる。ふぁあふぁ。今回の龍姫様はなんと優しい人なんじゃろうな。そして泣き虫じゃあ」


 神官長が胸元から布を出して私に渡す。私は涙を拭いた。神官長がにっこり笑いかけ周りの神官達も、にこにこして笑っている。


「あのー、失礼します。神官長」


 ある一人の神官が言った。


「どうして龍は龍玉を三つも持っているのですか? 今までの龍画は龍玉が一つしか持っていなかったはずです」


 発言を聞いた神官達がザワめく。私もその龍画を見るために壁に近づいた。私が進む道はすぐに開かれる。実は私はまだ自分の模様を見たことがない。自分の背中なんて見れない。水色の銀色の龍が三つの玉を持っている綺麗な絵。私はこの龍を知っている。


「こ、こんなことがあるのか? 龍玉が三つ。龍騎士が三人誕生するのか!?」


 神官長が叫ぶと周りがザワめき始める。


「龍姫様が三人の伴侶を持つのですか?」


 誰かが叫んだら、「そうじゃ」と、神官長が言うとさらに騒ぎ声が大きくなる。


「落ち着け。龍姫様がおられるのじゃよ!」


 周りが神官長の声で静まり返った。


ーー私は三人の人と結婚するの?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る