第2話 異世界の少女 1
「ミーユ。本当に行ってしまうのか?」
私は変な夢を見ている。私の名前は「ミーユ」じゃない。私に話しかけるのはイケメン外国人。真っ直ぐで紫色の綺麗な髪で目が水色だった。
ーーきれー。
「うん、トニーには悪いけど私、どうしてもカイシと行く……」
ーーん?
私の口が勝手に動く。
「僕は許嫁だから君と結婚するわけじゃない。本当にミーユのことが好きなんだ。愛している。ミーユのカイシのへの気持ちは分かっている。けど、お願いだ。村に残って僕と結婚して欲しい」
目の前の青年が本当にミーユのことを愛している。彼の訴える声が、なぜか私の胸を刺して痛い。
ーーミーユって誰? どうしてこのイケメン、私に話かけているの?
「ごめんなさい。織り手の私が村人以外の人と結婚することは許されてないことを知っているでしょう? だから他国から来たカイシと、私が結ばれるには、私達が出て行くしかないの!」
私が頭を下げて叫んだ。
ーーま、まさか、私がミーユ? えっ!!?? そ、そんな!!
「ミーユがこの村を出て行ったら、村の恋織物を織れる人がたった六人しかいなくなってしまう。そうなったら僕達の村はますます貧しくなって村人は町へ働きへ行くことになる。この恋織物も村も消えてしまう。
ミーユだって、そんなの嫌だよな。なあ、今後のことをもっとゆっくり決めよう」
「ごめん。私、カイシを愛しているの。彼と結婚出来ないなら愛布を織ることなんて出来ない。愛の気持ちを詰めて織る布だから、私達の織る布は『恋織物』って呼ばれているの。だから花嫁さんが着るドレスに使われるの。そんな織物を、幸せでない私が織ることなんて出来ないわ」
「どうして僕と結婚して幸せじゃないと言えるんだよ。僕がミーユのことを愛しているって言っているだろう! 僕が幸せにしてやる。織物も織れる!」
私は二人の会話を分かったようで分かんないまま聞いていたら、青年が私に抱き付かれ、キスされそうになった。
「やばい」と思った時に悲鳴が聞こえた。
「キャー。魔物が村を襲っている。皆逃げて」
『カーン、カーン』
「キャー、たすけて~」
強く抱き締められていた体が解放された。
「ミーユは逃げろ!」
彼が離れる前に頬にキスをして、にっこり笑って言った。でも、その言葉は強い命令だった。
彼の触れた頬が熱く、自分に何が起こったか分からないまま、トニーの後ろ姿を見ていた。
逃げろと言われたけど、私は一体どこへ行けばいいのか分からずに、体が勝手にトニーと言う名前の青年の後を追う。村が見えた。すごい田舎の村だった。コンクリートの建物はなくて、時代劇にでてくる田舎だ。
私は景色を見ている暇はなかった。あっちこっち火が回っていて足がすくむ。風によって煙が舞い上がり喉がしびれて咳が出た。
「ごほごっほ」
息が出来ない。
「ミーユ!」
いきなり年をとった青い髪の女の人と白髪のおばあさんが、私の腕を引っ張った。
「ミーユ何をしているの! 早く逃げなさい!」
「お、お母さん。カイシはどこ?」
また口が勝手に動いた。
「あんなよそ者なんてどうでもいいの。早く逃げるのよ!」
私がお母さんと呼んだ女性が答えた。その後におばあちゃんが言った。老婆がおばあちゃんとなぜか知っている。
「ミーユ。カイシとお父さんと男共は、皆魔物と戦っておる。村の広場で最後に見たよ。さあ、我々女は足でまといだから逃げるよ」
私はお母さんと呼んだ女性の手を払いのけて走った。なぜか足が広場への道を知っている。
広場への道へ行く途中何人かの人とすれ違う。村の広場に、建物より大きい猪がいた。猪の口から何本もの牙が出ていて四本の足から長い爪が出ていて、村人達を刺している。
私の記憶に魔物の情報が勝手に流れてくる。魔物はあまり人里へやってこないのに、どうしてこの魔物が来てるのか分からない。
怯えて足が立ちすくむ。確かこの魔物の牙と爪には毒があり、刺されるとすぐに死んでしまう。
「カイシーいやー、嘘よ」
カイシの左肩に魔物の爪が刺さり、彼が倒れていく姿をスローモーションで見た。勝手に口から甲高い声が出る。魔物の存在を忘れカイシの元へ走る。愛しい彼しか見えない。
土の上に倒れて痛みに耐えるように肩を抑えているカイシが、私を見て微笑む。私は彼の横に跪いた。この空間には私達しかいない。
「カイシ。死んじゃイヤ、お願い。私あなたと生きて行くことに決めたの。この村を出て行くことにしたの。だから生きて。お願い、生きて。私を愛して……」
目から流れる涙を手で何度も拭くのに、次々涙が零れる。私はカイシを鮮明に見つめていたいから、何度も目をこする。
「み、ミーユ、あ、ありがとう。僕も、ミーユのこと、あい、している」
彼が息苦しそうに言って微笑む。苦しいのに、ミーユを安心させるために優しい笑顔を作る。自分が死ぬことより、愛するミーユを気遣っているカイシ。彼が肩を抑えていた右手を私の顔に持ってくる。手に血がついていた。カイシも自分の手に血がついているのに気が付き手を下ろした。
「わ、私もカイシのこと、愛しているわ」
私は彼に伝えたかった。彼が綺麗な笑顔を浮かべて目を閉じた。彼の目の色は綺麗な金色で髪は黒色。トニーは青年だけど彼はまだ幼い少年。ミーユの記憶で彼が十六歳と分かった。
「イヤー、逝かないでー」
まだ温もりのある体の上に自分の体を乗せる。
「ミーユ、危ない!」
トニーの叫び声が聞こえた後、私の背中に大きな体が覆い被さる。
「ああぁぁぁー」
トニーの悲鳴が重なり合う背中から聞こえる。
「トニー、ど、どうしたの?」
私は背中にいるトニーに振り向いて話そうとするけど、体がビクとも動かない。
「ミーユこのまま、で、いて、くれ。魔物が、消える、までこのまま、でいてくれ。ハア」
背中で話をするトニーが、息辛そう……。
「トニー、ま、まさか刺されたの!? 私を庇って刺されたの!」
「ミーユ。あ、い、し、て、い、る……」
トニーが掠れる声で言い、最後の息を吐いた。
私は背中でトニーの最後の心音を感じた。
「イヤあああああああああああぁぁぁぁー」
私はカイシとトニーに挟まれて倒れている。
ーーお願い。私も二人の所へ連れて行って。私は、もう生きていたくない……。
私は最後のミーユの願いを聞いた。私は、これが、ミーユが自分か夢か分からない……。
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