第2話:唐辛子を理解したきっかけ

辛い食べ物の代表といえばお馴染みのカレー。幼いころは甘口しか食べられなかった。あるとき家族で外食する機会があり、母と兄を含めて4人でカレー屋に向かった。有名な銀座のナイルカレーである。評判通り美味しかったと思うが、それを上回っていたのはあまりの辛さにのたうちまわるような苦しさを味わい、母と冷水を何杯もおかわりしてどうにか辛さをなだめようと奮闘した記憶である。なんでこんなところに来たんだ or 連れて来られたんだ、と幼心に思った。


カレーを辛くするもの、それは唐辛子に他ならない。唐辛子はとにかく辛いものだと思っていた。辛い料理をそこそこ食べられるようになっても、なんだか我慢大会にでも参加しているような、やせ我慢の延長な気がしていた。でも辛いだけじゃなかったんだな。

それを真に体感したのは去年の冬だった。喘息を発症した私は気道が狭まって息が苦しい状態が当たり前になり、薬も効いているのかわからない状態。何か気道を拡張できるものはないか、気を反らせるものはないかと日々模索していた。

そこで唐辛子に目がいった。はじめはお蕎麦に七味を一振り二振りとかけていたのだが何だか物足りなくなり、小山ができるくらい盛って食べていた。(ちなみに喘息に辛いものは禁忌である。)

食べてみると、のたうつような辛さはない。蕎麦は風味豊かになり、喉が刺激されて温まり、汗もかけて心地いいではないか…!

そこから段階は進んでいく。おやつにトルティーヤチップスを食べていたのだが、何かサルサみたいな刺激が欲しいなあと思った私。自家製辛口ソースを発明したのである。材料はケチャップ、レモン汁、そして大量の粉唐辛子(雑誌ではない方の生粋のペッパー)。そうしてチップスと一緒に食べてみたときに「唐辛子って味がある」と気づいたのだ。辛いだけじゃない、旨味みたいなもの。その旨味を味わっているとあまり辛さは気にならない。

味覚は甘味、酸味、塩味、苦味、うま味の5つとされており、辛味は位置づけられていない。唐辛子で美味しいと感じるのは5つのどれにも入らないと思うけれど、辛味を上回る何らかの味があるように思った。それは1話とも関連して、他の材料と合わせたときの複合的な味かもしれない。みんなが辛い辛いっていっているのも単に辛さのことを言っているのではないのかも。でもとにかく唐辛子って辛いだけじゃない、美味しいんだって思えてよかったなと感じた。辛いものを美味しいと食べられる私は、ようやく大人になったんだ。なったんだーー


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