一章01「学園内を騒がせている部活」



「あ、あの……」

 聞きなれない女の子の声が聞こえると同時に背中にツンという感触を感じる。おそらく声をかけた人が指先で突ついている。その指を振り払うような形で振り返ると女の子が二人もいた。

 声をかけてきたであろう少女は指が離れてもすぐに肘の部分を掴んできた。しかもその指は震えていて、声も怯えきっている。

 どうしてそこまで触れたいのかは謎である。地面に視線を落としながらも、ちらちらとたまに上目づかいでこちらを見てくる。気弱そうな印象と裏腹に豊満な二つの果実にしばし目を奪われてしまう。枯色ブレザーの上からでも明らかに分かる大きさなんて早々お目にかかれない。

 拓巳の紳士的な心、いや、童貞たる精神がゆえに視線をそらすとその後ろに立っている金髪の少女と目があった。彼女は笑顔をずっと崩さず、気弱そうなこの子を見守る母親のような感じで佇んでいる。彼女の胸も大きいほうではあるが、それよりも明らかにスカート丈が短いほうに目が行く。短いのは彼女の脚が単純に長いだけであると気づくのに少し時間がかかった。

「あ、あの、あのあの」

 なかなか気弱な少女が次の言葉を口にしない。仕方ないと頬を指先で軽くかいつつ、助け舟を出してみることにした。

「えっと……君たちは?」

「その、わたし達は」

 瞬時に顔を真っ赤にした少女は視線をすぐに逸らした。

「まどろっこしいっ! えいっ」

 次の瞬間、しゃべろうとしていた巨乳の女の子の背中を脚の長い金髪の少女が力強く押す。笑顔をまったく崩さなかったこともあって突然の行動に何の対処も出来なかった。

「きゃっ!」

「うぉっ!」

 胸を突き出しながら少女が飛び込んでくる。条件反射で手を前に突きだした。だが、勢いを受け止めることはできない。そしてそのまま尻もちをつく形で後ろに倒れてしまう。

「いてぇ! ……あ、れ、これは」

 手のひらに広がるのは柔らかな感触。初めてと言える柔らかさに指を動かさずにいられないのは男の性。

「ひゃぅっ! あ、あの、ご、ごめんなさいごめんなさい!」

「あ、いや、その、こっちこそっ」

 慌てて手を離しながら臀部を引きずる形で少女と距離を置いた。彼女のほうもわずかに後ろへと下がるがヘタリこんでしまう。

「ご、ごめん、なさい。あ、あまり知らない男の人、と、くいじゃ、なくて」

 動揺が言葉から伝わってくるほどにパニック状態中の彼女をどうすればいいのかと思っている中でふと彼は気づく。

「これって……ラッキースケベってやつ、だよな」

 手のひらを見ながら、感触を思い出しつつ、ぽつりとつぶやく。これは拓巳にとってはありえないこと。

 胸を触るラッキースケベというトラブルが起きてしまった。それに普段ならぶつかられる時は謎の重力が働いて、拓巳に当たることがない。それなのにぶつかられた。

 今までが奇跡的にそうだっただけで、運が強かったわけではないということか。いや、そんなわけがないと拓巳の眉が寄ってしまう。とにかくありえない。

「幸のおっぱいはいかがでしたか?」

 二人の間に割り込むように笑顔を見せていた金髪の少女が立ちはだかる。

「お、おっぱっ、って……ものすごい顔をしてるけど」

 明らかに怒りを押し殺しているのがわかる。下唇を噛みしめて、目は笑ってるけど瞳の奥は笑ってない。こめかみがピクピクと動いている。怒っていることがこれを見てもわからない人はいないレベルであった。

「してますか。へ、平気だと思ってやりました。が、実際に私以外の人が幸のこの胸を揉んでいるところを見るとこう湧き上がってくるものが」

 気弱な少女は幸と書いて、サチというらしいことは拓巳にもわかった。

「うん、やっぱり私も揉む!」

「え、ちょ、ちょっとっ理紗ちゃっ、あっ」

 座り込んでいる巨乳の少女の後ろから抱きつく。彼女の両腕をホールドするように手を伸ばして金髪少女は豊満な果実を掴む。それと同時に激しく揉み始めたのだ。

 女の子が女の子に胸を揉まれている。想像していたのよりも目の前でこうして行われると迫力が違う。

「お、お願い……やめ、やめて、んっ……見られて、る」

「嫌よ嫌よも好きのうち、知ってる知ってる」

 本当に嫌がってるのでは、という声を上げないでいた。男の本音としてもう少し見ていたいだけの話である。

「……これもラッキースケベになるのか?」

 一瞬だけそんな疑問が湧いたが、この光景の前では吹き飛んでしまう。

「やんっ、んっ……り、さちゃん……」

 まだまだ続くかと思われた行為は金髪の少女が立ちあがることで終わった。胸から手を離した彼女はさきほどとはうって変わって満足そうな表情を浮かべていた。

「よしっ、欲求不満はこれで解消された。ありがとう」

「お礼なんて言わないでよ……」

 巨乳の少女は恥ずかしそうに自分の胸を両手で隠すようにして俯いた。女性相手ならば震えることなくしゃべれるようだ。

「とりあえずどちらさまか、だけでも聞いていいかな」

「そうですね。自己紹介がまだでした。私は櫻華理紗。この可愛いかわいい幸は幸です」

「お、おう」

 完全に主観の入った答えに対してこの反応以外できる人はあまりいない。それと理紗と名乗った金髪の少女の苗字にある可能性が浮かんでいたのも理由であった。

「芙蓉、幸です……」

 困っているのを察したのか、気弱な少女は小さく声を出した。

「これはご丁寧にどうも」

 いつまでも座っているわけにもいかないと尻の泥をはたきながら立ち上がった。座ったままの彼女はさきほどと違って触れてこようとはしてこない。

 そこであることに気づく。二人の胸元のリボンの色が赤だということに。

「一年生、というか新入生か」

 ネクタイやリボンの色が青なら二年生、緑なら三年生。学年ごとに色が決まっていて、来年の一年生は今の三年生の緑をつけることになる。

 もう少しで五月に入ろうしているこの時期に新入生が二年である彼に対して何の用事があるのか。いくら考えても拓巳の中には答えがない。

「そうです。私達、学園に入ったばかりのピチピチですよ。ちなみに幸は占いが得意なんです」

「え、あぁ、うん。そうなのか」

 なぜ本人からではなく、彼女のほうから情報を聞いているのかは謎だ。しかし、深く突っ込んではいけないことを彼の本能が叫んでいた。

「それに不幸体質なんですよ」

「不幸、たいしつ……?」

 拓巳もまたトラブルを回避する体質であるのは言うまでもない。だが、今はこうしてトラブルが起きてしまっている。

「り、理紗ちゃんっ! わ、わたしのことは、わたしで言うから、その、それ以上は」

「えっ? まだスリーサイズの話とか色々あ」

「ダメっ! それは絶対ダメっ!」

 気弱そうに見えた少女の力強い否定。当然と言えば当然の反応。胸を触るのはダメなのにサイズを教えるのは大丈夫。その理由を拓巳は密かに知りたいと思ったのは言うまでもない。

「まだ幸の魅力をこれっぽっちも語ってないよ?」

「いいっ、いいからっ」

 とても彼女には金髪少女の暴走を止めることが出来そうにないと感じ取る。拓巳は話題をそらす目的も含めて、さきほどから抱いていた疑念をぶつけてみた。

「おうかさん、だっけ? 君はその、もしかして、あれなの?」

「レズとかじゃないですよ」

「いや、そっちの話じゃなくて」

「ただ可愛いものは女の子であろうとなんだろうと好きというだけで。あ、幸はその中でも特別なんです。とくべ」

「そうじゃなくて。理事長の関係者か何かなのかな、とね」

「あー、娘です。まぁそんなことはどうでもいいじゃないですか」

「よくないから」

 学園の理事長の娘がわざわざやってきた。その事実に拓巳は一瞬身構えていた。しかし、その事実を少しも気にしないあたり、彼女の個人的な理由でやってきたのだと思い直す。

 突然退学を言い渡される。確かにそんなものはトラブル回避の体質を持つ拓巳どころか、普通の学生にも絶対にないことだ。しかし、男というのはついつい非現実的なことを憧れから考えてしまう生き物である。

「それで、俺に何か用事があってきた、ってことでいいのかな?」

「なければ来ませんね」

「だよな」

 通りかかったから話しかけました、というほどのイケメンではないから。それは彼自身も元からわかっている。

「最初は……その、あの、わたしだけが行く予定だったのです……が」

 おずおずと肘を曲げるだけの型で手を上げた。視線が一つも合わない。おそらく合わせたら何もしゃべれなくなりそうな気がした。

「幸を一人で行かせるのは心配なので」

 自分だけでも大丈夫だったのに、とチラチラと視線で金髪少女に訴える。はっきりと言えないあたり、彼女自身も不安を抱いていたということなのか。

「櫻華さんの気持ち、なんとなくわかる。一人にしておくのは心配だな」

「わかりますかっ」

「えぇっ……?」

 思わぬ二人の気投合に驚く幸。自覚はないらしく、おそらく彼女を見たら誰もが持ってしまうであろう保護欲を理解していない。守ってあげたい、という気持ちを持った者同士は同意せざるをえない。

「あ、そうだ。俺とえっと……芙蓉さんは会ったことないよね?」

「はい。日向さんとは……その、今日初めて、話します」

 初めてをもったいぶって言われるととてもエッチに聞こえてしまうが、ツッコミはいれない。

「そうだよね、良かった」

 とにかく記憶喪失で忘れているとか、小さいころに出会っていた、という可能性が消えて、その安堵がため息としてもれていた。と同時に当然この疑問が浮かぶ。

「ん? なんで俺の苗字を知って」

「それは、その……聞きましたから」

「えっ、誰に……あっ!」

 そこまで言って気づいてしまった。

「わたし達がその、『かがくぶ』であるといえば……逃げるかもしれない、と言われました」

 言われただけの幸は拓巳が逃げる理由をいまいち理解してないのが口調で伝わってくる。彼女たちの言う『かがくぶ』は科学部ではない。

「問答無用で逃亡することはない。けど、一気に二人と関わりたくなくなった」

「そんなに、嫌ですか?」

 視線が一向に合わない相手と会話をしているどころか、守るように理事長の娘が間に入っている状況は他人から見て大いに謎の光景だ。

 理紗が幸のために視界を遮っているのだけは拓巳も察することはできた。

「嫌、というわけじゃないけど」

 あらゆる手段で何度も誘われてきた部活だから、という事実を含まれる。それよりもちょっとした部へのトラウマのせいでそんな反応をしてしまった。

「そう、ですよね。うちの部は特殊な部活ですから」

 苦手意識が表情として出ていたのか、芙蓉幸の横顔は苦笑いを浮かべていた。彼女自身も自分の所属している部活が特殊であることを自覚しているようだ。

「あぁ、本当にな」


 拓巳の脳裏に浮かんだのはその部を作った人物のことだった。

 無駄な華を楽しく活かす部活、その略称で華楽部。この『かがくぶ』は学園内の生徒の悩みや問題を部員達の無駄な才能で解決するという活動目的が存在する。

「華の咲く場所を作った」

 特技とか特異体質を華に例えての表現だとその部長は語っていた。無駄と言われるスキルでも誰かの役に立つことができるはず、と立派な理想も付け加えて。

 その創設者の名は渡辺歩美。

 そして最初に勧誘した相手は日向拓巳だった。未だにどの部活に所属してないが、誘われたのは一年以上前の入学式の日。誘いを断ったのは面倒なことを押し付けられそうだから。しかし、断ってもあらゆる手段で勧誘をしてきた。入ってないのにそれだ。もし入ったらどんな気苦労を重ねなければならないのか。

 トラブルが避けていくのは拓巳だけで、周りにはトラブルがやってくる。つまりトラブルが起こりそうなところに飛び込めば、他人のトラブルに首を突っ込むことになる。

 誘った本人としてはトラブル避けのつもりで誘ったのかもしれないが、魔除けにされるほうはたまったものではない。

 実際、華楽部は学園内を色んな意味で騒がせている部活だ。

 あの部には本物の刀を所持して山籠もりに出かける現代の剣豪が所属しているらしい。

 ろくに授業も出ずに事件解決に入りまわる探偵がいるらしい。

 授業以外は部室にこもっているスーパーハッカーがいるらしい。

 触れると感電してしまう迷惑な体質の奴も在籍していたりするが拓巳としては思い浮かべたくない存在だ。ただ部長である渡辺歩美は噂ではなく、実績がきちんとある。

 天才的な味覚感覚の良さを持つ彼女はその舌で数々の料理の味を評価してきた。そして口にする的確なアドバイスは有名料理店のアドバイザーを頼まれたりするくらい重宝されているのだ。神の舌を持つ少女と雑誌に取り上げられたこともあるほど。

 たまに料理部の助っ人を頼まれる。その結果、料理部の部員がコンテストで入賞するほどの腕前に鍛えられたのは有名な話である。

 つまり、拓巳にとってあの部の噂はすべて事実として認識できている。それは渡辺歩美のせいでこの一年の間に全員と知り合ってしまったからだ。

 そんな華楽部に入りたくない理由の一つは入部すれば副部長をやらされることになるから。あと一つは――


「俺には華楽部に入るような特技というか、スキルなんてないぞ」

「料理がうまいと聞いてます」

「それだけで入るのもなぁ……」

 理事長の娘からそんなことを即答されて返答に困る。彼女が怒りから笑顔に戻っているのはこの状況に置いてどうなのかが拓巳には読めない。

「とにかく二人があゆ姉の差し金なのは理解した」

「部長さんの話してる時の、えっと雰囲気からも思ってましたけど、その、ただのお知り合いというわけでも……」

 がんばって話しかけてきてくれる幸になるべく優しい口調で返答をする拓巳。

「幼馴染、いや、昔馴染みといったほうがいいのかな」

 歩美との関係をどう説明すればいいかを迷って目が天井に向いてしまう。簡単に言えば、昔馴染みでいい。詳しく話す必要は今この場ではないと思い、そこで言葉を切った。

 彼女を幼馴染として言わなかったのはとある人物と同じ枠にしたくないという偏見からきていることも口にはしない。

「でも部長の家に毎日料理を作りに行くと聞きましたよ」

「恋人じゃねぇから」

「そんなつもりでは言ってないです」

 被害妄想が飛躍しすぎた結果の返答に金髪少女も少し引いてしまっていた。それと代わるように巨乳少女が追従する。

「作りに行ってることはその……否定はしない、のですね」

「事実だからな」

「そ、そうですか」

 幸は疑っていたわけではないが、そんな風に即答されてしまい、反応に困った。それに初対面の男性とこんなにも会話をするのは芙蓉幸とって初めての体験である。

「それにしても誰かにぶつかられたのはひさしぶりだな。初めてかもしれないが」

「そうなんですかっ! や、やっぱり運がいいというのは本当なんですねっ」

 目の色を変えて身体を乗り出してきた積極性に怯んで拓巳は幸から一歩下がった。あんなにも目を合わせなかった彼女がこんな反応を示したことに驚きを隠せない。

「運がいいといってもトラブル回避限定だぞ」

「そ、それでもっ」

 彼女はおもむろにタロットカードを取り出していた。しかしすぐにハッとなり、そんな場合じゃないとタロットを収めてしまう。

「占ってみたくなったのか?」

「ちょ、ちょっとだけ……」

 すぐにまた視線を外して俯いてしまった。意外な一面を見たなと苦笑する拓巳に静観していた金髪少女は勝ち誇ったように言葉をかけてきた。

「つまり幸の不幸体質にはあなたも勝てなかったわけですね」

「そういうことなのか?」

 確かにいつもなら誰かに押された人にぶつかられることはない。拓巳に降りかかるトラブルである以上、回避されるのが必然だから。

 あとなぜか付き添ってきているだけの金髪少女が自慢げにしているのかは触れないほうがいい。拓巳はそう直感した。彼女にとっての芙蓉幸の価値がもう少し見えない限りは深く言及を避けるべきだ。

「日向先輩、幸の不幸体質に勝てなかったので華楽部に入部してくれませんか? そもそもその体質だけで部に入る十分な理由だと想いますけど」

「お断りだ。先輩と呼ばれて嬉しかったけど、お断りだ」

「部活に所属してないと先輩なんて呼ばれることほとんどありませんからね」

 金髪少女のさりげない追撃。部活に入れば先輩と呼ばれる、と遠まわしに訴えてきた。

「呼ばれなくてもいいさ」

 彼がそんな言葉で揺らぐようなら一年以上も入部を拒否できていない。

「うー、案外チョロイかもって思ったのに」

「当てが外れて悪かったな」

 部長から必要最低限の情報しか聞いてない彼女達には日向拓巳という人物は攻めきれない。つまりは情報を持ってないからこその可能性にかけてみたということ。

「あの、入ってくれるのでしたら詳しく占いますから」

「気持ちはありがたいけど遠慮するよ」

「そ、そうですか。占いを信じる人ではありませんでしたか……」

「そういうわけじゃないんだけどね」

 はっきり言えば信じたくないという信条が日向拓巳である。そうなのだと思い込んだら、その結果に自分が引きずられてしまうものと考えているからだ。

「とにかく残念だけど華楽部は入らないから。諦めてくれ」

「は、はい……」

「そこで素直に返事しちゃダメだよ、幸」

「えっ、えぇ、だって日向さんがこう言ってるし」

「作戦を練り直すよ」

「元々作戦なんてなかったよ、ね? 当たって砕けろ精神、って部長さんも励ましくれたし」

 その励ましからも勧誘が成功すると思って送り出したわけでないのを拓巳は確信する。それならば何か他に試したいことがあったから二人を仕向けた可能性もありえる。

「戦略的撤退! それも必要なことだって副部長(仮)さんから言われたでしょ」

 そんなセリフを口にしながらすでに背中を向けて走り出していた。そのあまりの速さに芙蓉幸は反応が遅れてしまう。

「ちょ、ちょっと待って! す、すいません、それでは失礼します」

「あぁ、またね」

 軽く頭を下げてるあたり、礼儀正しい良い子の印象を受ける。そんな彼女が華楽部にいるのは不幸体質が相当なものということ。

「り、理紗ちゃーんっ」

 すでに見えなくなった金髪少女の後を慌てて走って追いかける幸。脚を踏み出すたびにわずかに揺れる胸に男子の誰もが視線を向けてしまう。

 そう思っていると、

「へぶっ!」

 盛大にヘッドスライディングをするようにすっころんだ。わずかに白い布地、神秘の三角ゾーンがチラリと見えてすぐにスカートに隠れる。

「!? い、今いまいまっ」

 すぐさま起き上がった彼女は恥ずかしそうにしながら廊下を進んで、階段を上っていってしまう。

「見えた、だと……」

 ぶつかられて胸を揉む、今の転んだ拍子のパンチラを目撃。いや、パンモロか。とにかく人生の中で日向拓巳に起こりえなかったことが今起きている。

「これは、一体どういうことだ。ラッキースケベが、見れている……!」

 嬉しさよりも驚きのほうが彼の心情を大きく占めていた。

「今まで奇跡的にそうなっていただけ、なのか?」

 しかし、今朝の登校途中に住宅街の二階から植木鉢が落ちてきたが、拓巳ではなく、少し後ろを歩いていた男子生徒の足元だった。

 タイミング悪ければ自分ということはあるが、実際に悪かった時は一度もない。

「……帰るか」

 冷静になった拓巳は考えることはやめて、大人しく帰宅することを選ぶ。

「不幸体質か」

 詳しく言わなかったのもあって拓巳はどういうものなのかが気になりつつも学園から離れていく。

単に本人に不幸なことが起きるとしても傍から見ればタダのドジっ娘。

「ラッキースケベを振りまくのも才能だな、うん」

 今はそういうことで無理矢理に納得しておくことにした拓巳であった。


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