かがくぶっ!~トラブル回避の運を持つ男と不幸な占い少女~
きーたん
プロローグ「トラブルに巻き込まれない男」
「あー、やっぱ見えないか」
女子生徒の悲鳴と感じ取った風からスカートがめくれていると察して周囲を見回した。だが、すでに深緋と黒のチェック柄のスカートの裾を押えた女子が焦っているだけ。拓巳は肝心の神秘の三角ゾーンは拝めなかった。一緒に歩いていた女友達が慰めていることから考えても、めくれた瞬間を見た人は存在する。
「目の前でそういうことが起きても見れないのは無慈悲すぎる……」
深くため息をついて残念がるのは彼も思春期男子であるからだ。ラッキースケベを体験するどころか、見ることすらできないことを理解している。しかし、納得できるかは別だ。
「エロ本とは見れるから困らないけどさ」
ラッキースケベが見れない。ただトラブルが見れないだけで、エロいものが見れないわけじゃない。
「でもそういうことじゃないんだよな」
男なら一度くらい胸の大きな可愛い女の子に抱きつかれるように押し倒されたいと考えるはず。現実にも起こることはほぼない。けど、可能性がゼロではない。しかし、日向拓巳の前では万に一つどころか永遠にゼロだと確定しているのだ。
「はぁ……」
これだけははっきりと言える。不幸なトラブルが起きないことが幸運ではない、と。
下駄箱で靴を履きかえて校庭を歩き始めてすぐに拓巳は風の悪戯の現場に遭遇した。これからも彼はこういう場面に遭遇するかもしれない。
「見れることはないだろうけどな」
もう一年と二週間になろうとする櫻華学園への登下校は今日も平穏なものだった。途中でトラブルが起こることはないから普通に行けば、普通に辿り着く。食パンを口に咥えた女の子とぶつかることもなければ、学園の塀をパンチラさせながら乗り越える女の子とも出会うことはない。
「ま、ありえないけどな」
そんなことが起きるほうが稀である。そういう妄想に期待すら抱けないのはお年頃の男子にとってそこはかとなく辛い。自分を虚しく励ました回数は数えきれないほど。
世の中には運のいい人が存在する。
櫻華学園に通う彼、日向拓巳がまさにそうだ。すれ違うだけの人や少し会話したくらいの知り合いからは彼はごく平凡に見え、運がいいと言われてもピンとこない。
それは本人も似たようなことを常々思っている。なぜなら自身にやってくるトラブルがなく、彼の横を通り過ぎていくだけの話だから。こちらからあえてトラブルに飛び込んでも命を落とすことはないどころか、奇跡的に無傷でやり過ごせてしまう。
彼はかつて紛争国や危険な地域を渡り歩いていたこともあった。当時は自分の運がいいことなど知らなかったが、今思えば運のおかげで生き残れたのだろう。
運の強さには種類がある。拓巳のそれは降りかかる不幸に限定される。つまり彼は『トラブル回避』の体質であったのだ。そういう運の強さを生まれた時から持っていた。
だから現在住んでいる平和な国では何事もなく日々を過ごしている。トラブルの降りかかる不幸な瞬間がないというのが彼の今の日常。その退屈とも言える時間は不幸であると感じるには十分だった。
そんな拓巳には得意なものがいくつかある。
サイコロの目を自在に出せる。
あらゆる手品を習得している。
クレーンゲームがうまい。
多くの変化球を投げることができる。
他にも色々できるが、簡単に言えば手先が器用なのだ。退屈を埋めるために磨いてしまった特技の数々。
しかしそれも披露しなければ寄ってくる人もいるわけもなく、平々凡々な日常を送っている。よく知る人からすればそれこそ異常である、と口にされるが彼にはピンとこない。
トラブルがやってこない。誰もがその事実を知れば一度は憧れたり、羨ましがったりするだろう。しかし、いいことばかりというわけではない。
ラッキースケベに遭遇できない。
さきほどのような「トラブル」はもってのほかだからだ。
彼自身にはトラブルが起こらない。だが、周りで起きることはもちろんある。しかし、他人のトラブルでも見ることができないこともある。
例えば、最近学園内で女子のブラジャーのホックが突然はずれる事件が多発して騒がせている。だが、すぐそばで起きたとしても慌てて胸を隠す女子しか見れず、胸どころかブラを見ることすらできない。
さらに通学路の近辺に胸を触らせようとする占い師が出没するとも耳にするが、その場面に出会うことは絶対にない。普通になら出会えるが、トラブルが絡むと出会えない。
そういう自身が得するようなラッキースケベも拓巳にとってはトラブルとして見なされる。遭遇できなければ、見ることもできない悲しい運命にあるのだ。
ただ学園内のたまに起こる謎の電子機器破壊現象に見舞われることがないのはラッキーであるといって間違いない。
もう一度確認するが日向拓巳がラッキースケベに、トラブルに襲われることはありえない。
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