第15話 悪魔ごっこ⑦不信

「何事!?」


「あっ……く、クレハ、ちゃん……」


「海!? 一体何が……」


 慌てて叫び声が聞こえた場所へ向かうと、そこにあったのは床に倒れた見知らぬ男の死体。

 そして、その傍に蹲る海の姿。

 またお嬢様と同時に通路の奥から陸が現れ、更にそれに一歩遅れる形で別の通路から数人の男女達が姿を現す。


「おい! 今の叫び声はなんだ!」


「何か声がしたが……おい! あれ!?」


「いやあああああ! あれって死体じゃない!? どうして!? なんで人が死んでるの!?」


「おい、傍に女がいるぞ! ……まさか、あいつが!?」


 見ると現れた数人のグループが死体の傍にいる海を指し、それに海が困惑するように後ろに下がる。


「ち、違っ! わ、私じゃない! 私は何もしていない!」


 無論、それに海も必死で否定する。

 が、否定すればするほど、周りの疑惑や不信を買い、この場にいる全員が海を嫌疑の眼差しで見つめる。だが、


「待ちなさいよ。この子はこんなことをする子じゃないわ」


「クレハ、ちゃん……」


 それに待ったをかけたのは他ならないお嬢様であった。

 そして、それに続くように陸も海の傍に移動し、またカインやジャックも「やれやれ」といった様子だが、そのまま紅刃お嬢様の傍に移動し、大衆の目から海を守る。


「ふざけるな! 声が聞こえてオレ達がここに来たら死体のそばにいたのはそいつだけだったろう! なら、犯人はその女以外にいるもんか!」


 だが、現れたグループの中で一際ガタイのいい頭を金髪に染めた、いかに不良といった様子の男がそう叫ぶ。

 その男の顔を見るやいなや、お嬢様の隣にいた陸が僅かに顔を歪める。


「お前……桃山……」


 桃山。そう呼ばれた男は陸を見たあと、その後ろに隠れる海を見下すように声をかける。


「よお、久しぶりだな。陸、海。今日は他の取り巻き連中はいないのかぁ?」


「そういうお前こそ、他の取り巻きはどうした?」


「……チッ、あんな腰抜け連中知るか。この地獄に落ちるや否や、全員ビビって散り散りに逃げやがったよ」


 陸からの問いに桃山と呼ばれた男は明らかに不機嫌そうに吐き捨てる。

 それを見て、陸の隣にいたお嬢様が耳打ちする。


「陸君。あいつ、知り合いなの?」


「ああ、前に街でオレや真司に絡んできたことがある他校の生徒だ。と言ってもあいつを含む不良グループが一人の男子生徒をボコボコに蹴って、その有様をスマホで撮影して笑っていたんだ。で、それを見た真司がキレて突っかかって……ってのが因縁の始まりだ」


「なるほど、そういうわけね」


 つまるところ、どこかの高校に必ず一人や二人はいるクズということだ。

 おそらくはその学校においてある程度の権力を持ち、それゆえに好き放題にやっているのだろう。

 それを証明するように桃山と呼ばれた男の周囲には彼に従う取り巻き連中がいた。


「おい、お前らもそう思うだろう? あの女以外に誰があそこにいる男を殺せたよ?」


「た、確かにその通りだ……」


「参加者の人数を減らしてゲームを終わらせるためにお前が殺したんだろう!」


「いや、その女をかばっているあたり、お前ら全員怪しいぞ! このシェルターにいる人間を数減らしのために襲いに来たのか!?」


 桃山の一言がきっかけとなり、お嬢様達以外の全員がそう口々に叫ぶ。

 それを背に桃山はまるで場の空気を支配したように笑い、それを見ていたお嬢様の目が段々と冷酷に輝いていく。


「……これ、アタシの嫌いなパターンね。あいつらがその気ならマジでこのシェルターにいる連中皆殺しにしてやろうかしら……」


 そう言ってお嬢様が隠していたナイフを取り出そうとし、それに気付いたカインがお嬢様を止めようとするが、それより早く第三者が二つのグループの間に入る。


「まあまあ、待てよ。桃山。まだ彼女達がやったってわけじゃないだろう? ここで下手に喧嘩になってマジの殺し合いになったら、それこそオレ達全員の命が危険に晒されるだろう?」


「ッ、金太……」


 それは赤茶色の髪をした一見すると爽やかな美青年。

 嫌味な感じは一切なく、目の前の桃山と比べると温室育ちのお坊ちゃんという感じすら抱く。

 本来ならば、こうした人種は桃山のような典型的な不良とは相性がよくないと思われるが、その金太と呼ばれる男が桃山達の静止に入ると、なぜか彼ら全員の口が止まり、熱していた空気がどんどん冷えていくのが分かる。


「すまないね。そちらの皆さん、とは言えこの地獄でのこういう状況だ。ピリピリするのは仕方がない。こちらもこれ以上は追求しないから、お互いにこのシェルター内では出来るだけ干渉しないってルールで共存してもらえないかな?」


「……別に。そっちがそういうつもりなら、こっちはそれでもいいわよ」


 お嬢様の答えに男――金太は笑みを浮かべて頷き、そのまま隣にいる桃山に話しかける。


「というわけだ、桃山。ここは下手に彼らと衝突せず、穏便にこのシェルター内で隠れてやり過ごそうぜ。この第一ゲームのクリアの条件は人数が半分になるだけじゃなく、十二時間生き残ればそれでいいんだからさ」


「……分かった。お前が言うならそうするよ、金太」


 そう言って先程まで狂犬のように吠えていた桃山が、その金太と呼ばれる男の意見に素直に従う。

 それを見た陸が僅かに驚くような気配を見せるが、すぐにいつもの表情へと戻る。

 その後、金太と桃山のグループはこちらに一瞥を送ると、そのまま通路の奥へと向かい、その姿を消すのだった。

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