第13話 悪魔ごっこ⑤再会
「あったぞ! あそこがシェルターだ!」
見るとそこには銀色のドームで出来た建物がある。
しかし、その建物に入るための唯一のドアは今まさに閉じられようとしていた。
「急げ! 一度閉じると中からしか開けられない! 悪魔が近づいたんで中にいる連中が閉鎖のスイッチを押したんだろう!」
「これでも急いでるわよ!」
「ひいいいいいい!」
そうしてカイン、ジャック、お嬢様は全力疾走を行い、なんとか扉が閉まるギリギリで中に入ることが出来た。
あ、ちなみに僕は先に中で待機しておりました。
「ぜーぜー、これでなんとかなったわね……」
珍しくお嬢様にしては息も絶え絶えで大量の汗を流しながら、その場に座り込む。
そんなお嬢様に対し、カインは手を差し出す。
「お手をお貸ししましょうか。お嬢さん」
「結構よ」
無論、その手を軽く振り払うとお嬢様はそのまま立ち上がる。
「さてと、この中にはどんな連中が隠れて……」
そう言ってお嬢様が周りを見渡した瞬間であった。
「クレハちゃん!」
その聞き覚えのない声と共に誰かがお嬢様に近づく。
その人物の姿を見た瞬間、お嬢様の表情は珍しく動揺に変化したのを僕は見逃さなかった。
「やっぱりクレハちゃんだ!」
「!? う、み……」
そこにいたのは茶色い髪を片方の髪で結んだ愛らしい顔立ちの少女。
海、と呼ばれたその人物はお嬢様の方に笑顔で近づく。
「どうしてクレハちゃんがここにいるの?」
「あっ、それは……」
珍しく言いよどむお嬢様であったが、そんな彼女に更なる人物が声をかける。
「ここにいるってことはアンタも死んだのか?」
「……陸君」
そこから現れたのは茶色の髪をした男子高校生。
やや整った顔立ちをしているが、どこかやる気のない死んだような目に、気だるそうな雰囲気がそれを打ち消し、男の雰囲気を平凡な感じに落としていた。
男が姿を現すと海は「陸君!」と彼の名を呼んだ。
「……まあ、そんなところね。気づいたらこの地獄にいてね……」
「そうだったんだ。クレハちゃんも……」
お嬢様がそう答えると海は暗い表情をし、陸と呼ばれた少年は静かに目をつぶる。
一方でそんな彼らの会話を見ていたカインとジャックは状況を察してか、あるいは観察か、三人に声をかけることなく見ていた。
しかし、そんな二人に海が気づき彼らの方に視線を向ける。
「クレハちゃん。この人達は?」
「あ、彼らは……ここで知り合った……私の仲間で……」
「そうなんだ! よかった、クレハちゃんにもそういう仲間が出来たんだね」
そう言って微笑む海。
そこには一切の嫌味や悪意はなく、むしろ己のことのようにお嬢様の周りに人がいるのを喜んでいた。
「……海達はここでずっと二人なの? 他に仲間は?」
「それが……分からないの……気づいたら私と陸君は、この地獄にいて……」
「ああ。他にオレ達の知る仲間がいないか探したが見つからなかった。と言っても全部を探したわけじゃない。オレと海が目を覚ましたのはつい昨日だからな。このシェルターにもさっき避難したばかりだ」
「そう、だったの……」
お嬢様の問いにそう答える二人。
やがて顔を沈めていたお嬢様が何かを聞こうと二人に声をかける。
「その、二人は……どこまで記憶があるの? ここが地獄、っていうのは分かるのよね? それじゃあ……死んだ時の記憶は……?」
「え?」
お嬢様の問いに一瞬驚く海であったが、すぐに「あはは……」と力ない笑みを浮かべる。
「それが……私、ほとんど記憶になくって。死んだ直後のこと、というか死ぬ前の記憶かな。その日の記憶が抜け落ちてここに来たみたいなの……。だから、自分が死んだって実感がまるでなくって……」
「……そう。そう、よね……。あなたが私を“その名”で呼ぶなら、そうよね……」
「?」
お嬢様の呟きに海は不思議そうな顔をする。
やがて「ごめんなさい。少しこのシェルターを見たいから移動するわ。また後でね」と二人に別れを告げてお嬢様は移動する。
その際、海はお嬢様に声を掛けようとしたが、それより早くお嬢様は姿を消した。
そのさまは、まるで海や陸から逃げるかのように。
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