第12話 悪魔ごっこ④悪魔飛来
「とりあえず、これで全員片付いたかしら」
そう言って周りを見るお嬢様。そこで何かに気づいたのかあたりを探し始める。
「そういえば、あのジャックって男はどこ行ったの? 何人か逃げたあいつを追っていったはずでしょう?」
「あー、ジャックなら大丈夫だよ」
「はあ? 大丈夫ってアンタ、そんな無責任な……」
そう言って心配ないとばかりに笑うカインであったが、その彼の言うとおり、少し離れた場所に先ほどのジャックと名乗った青年が姿を現した。
「か、カイン様……! ご無事でしたか……! よ、よかったぁ……」
「おう、オレはいつでも無事だって知ってるだろう」
よろよろとカインに近づくジャックであったが、その前に紅刃お嬢様が立ちはだかる。
「ちょっと待ちさないよ。アンタ、さっきの連中はどうしたの?」
「え?」
思わぬ問いかけに驚くジャック。だが、静かに瓦礫の向こうを指差す。
そちらに向かったお嬢様はそこに転がる惨殺死体を見て、一瞬顔色を変える。
自らシリアルキラーのサイコパスを名乗る以上、こうした殺戮死体を見て、心が動揺するほど紅刃お嬢様の精神はヤワではない。
故に彼女が顔をしかめたのは別の理由。
それは倒れた男達の人数と、それを殺した手際の良さ。
死体はどれも致命傷となる部分のみを刺されており、そこを攻撃されればたとえ絶命しないとしても助かることはないであろう一切のためらいがない傷であった。
お嬢様自身、殺し屋としてこうした殺しの技や技術を獲得し、人並み以上にそれを使いこなしているという自信があった。
しかしジャックが殺した死体からは、それ以上の経験と技術が詰まっていた。
おそらく、これほど冷酷にかつ殺しに一切の感情を覚えない死体は初めてである。
人を殺す。
その所業一つに対し、人間は必ず何らかの感情を覚えるはず。
それは恐怖であったり、愉悦であったり、あるいは悲しみ。
生粋の殺人狂でも、ただの一般の人間であろうとも人を殺せば、そこには感情が生まれるはず。
だが、ジャックが殺した死体からはそうした感情が一切感じられなかった。
先ほどの彼も、まるで男達から逃げてきたような顔と感情であり、この男達を殺したことに対する愉悦も後悔も、慚愧すらも一切なかった。
あのカインですら、自らを殺そうとした男達に対し、哀れみや悲しみの感情があったにも関わらず。
(……あいつ、もしかしたらアタシ達の中で一番ヤバイ奴かもね……)
それを感じたのか紅刃お嬢様も初めてジャックを見る表情を変えた。
当のジャックはそれに気づいていないのか、必死にカインの心配をしていた。
「それでこれからどうするの? アタシ達なら大抵の相手ならこうして迎え撃てるってわかったし、なんだったらアタシ達で他の五百人を間引く? ついでに悪魔を殺しながら」
「あー、それなー」
そうして紅刃お嬢様がカインにそう提案すると、しかしカインは頭をかきながら首を横に振る。
「いや、それはやめておいたほうがいいだろう。現実的じゃない」
「どうしてよ? まさか怖いの?」
紅刃お嬢様の挑発にカインは「まあ、それもあるけれどね」と言って、
「さすがに君でもあれの相手は無理だろう」
そう言ってカインが指した方向。
そこにあったのは黒い影。否、巨大な何か。
それらは紅刃お嬢様達のいる地面に降りると、その姿を現す。
それは直径五メートルはある巨大な怪物。
全身を黒い皮膚で覆われ、目は爛々と血走り、口は三日月に裂け、背中には巨大な黒の翼を生やし、その両手は巨大な鳥の爪を思わせる鉤爪が生えていた異形の化け物。
もしも人々が空想上で想像する悪魔がいるとするならば、それは目の前のこれであろう。
それほど分かりやすい、怪物としての悪魔が姿を現した。
「ちょ、これってまさか……」
それにはさすがの紅刃お嬢様も後ろに下がる。
「そう、こいつがこの第一ステージのオレ達全員を間引く、殺戮に特化した――悪魔だ」
カインがそう告げると同時に目の前の悪魔が方向し、爪を振り下ろす。
それだけでお嬢様達がいた地面は切り裂かれ、そこに転がっていた死体もまるでチーズのように引き裂かれ、腕や足、胴体までもバラバラになる。
それはもはや人間などではどうしようもない理不尽な魔物そのものである。
「さすがにこんなのの相手なんて聞いてないわよ!?」
「だろうね。ってなわけで、ここは逃げようか! 紅刃嬢!」
「ひいいいいいいぃぃ!!」
カインのその言葉に頷くようにジャック、お嬢様、カイン達はすぐさま背を見せて走り出す。
それを追うように悪魔は飛び立つ。
しかも、その数は一体ではない。上空から更に新たな悪魔が姿を現し、合計三体となった怪物が紅刃お嬢様達を追跡する。
「ちょっと! これやばいわよ! 早くどこかの建物に避難しましょう!」
「賛成だ! この先に避難用シェルターがある! そこへ向かおう!」
「ちょっと! そういうのは早く言いなさいよ!」
「はは、悪い悪い。説明しようとしたらいきなりゲームが始まって今の連中の騒ぎで言いそびれたんだ。とにかくそこまで行けばなんとかなるさ」
「ったくもう! 人を地獄に連れてきておいて、ほんといい加減な男ね!」
「ひいいいいいいぃぃ! 誰かー! た、助けてくださいいいいいぃぃぃ!!」
騒ぎながら三人はシェルターを目指し走り抜ける。
すぐ上空には死を形とした悪魔達が迫りながら。
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