第9話 悪魔ごっこ①

『さぁて、地獄に集まりのプレイヤー諸君。まずはようこそと言っておくわ。現在、この地獄には千人のプレイヤーが集まっています。まあ、少し異物が混じっていますけれど、そんなの気にするほど大悪魔ちゃんは細かくないのです☆』


 どこからともなく聞こえるその声にこの場にいる全員が僅かに眉をひそめる。

 見れば、あのお嬢様ですら鬱屈そうな表情をしている。

 確かにこの声の持ち主はなにやら聞いているこちらの感情を逆撫でするようなそんな心を乱す魔力のようなものを持っているようだ。

 無論、実際にそんな力を使っているのかどうかは謎ですが。


『知ってのとおり、これからこの地獄で開催されるゲームは参加者が一人となるまで争うゲームです。すでにここにいる皆さんのほとんどは死人。だから今更死のうがどうなろうが大差ありませんよね?』


 また無茶苦茶な事を言う。

 確かにここが地獄として、ここにいる人間が死人の魂としても、その死人が死ねば一体どうなるのか、それがまったく説明されていない状態で平気もなにもありはしない。

 だが、この声の主はそんなことにお構いなく続ける。


『まあ、皆さんの中にはまた死ぬのはごめんだ。と思う方もいるでしょうが、この地獄で開催されるゲームに生き残った人にはあらゆる望みが叶う権利が与えられます。つまり、死んだあなたが現世に蘇ることもできるですー! これはすごーい! 一発逆転の大勝負! これに勝ち残らなきゃ嘘! 嘘! だよね♪』


「なんかこの声の主、性格悪そうね」


 珍しく紅刃お嬢様が顔を見ることなく相手をけなす。

 とはいえ、ここまで相手の説明を聞いている限り、お嬢様の予測は当たっている。というよりも、この声の主があの方ならば、それも当然か。


『さあ、それでは前置きはここまでにして早速第一回戦のゲームを発表しまーす!』


 デデン! と謎の効果音と共に天井に謎の文字が現れる。そこに刻まれた文字は――


「悪魔ごっこ?」


 悪魔ごっこ。その文字の下には謎の数『1200』と『死亡:0』『残り時間 12:00』と書かれている。


『はぁい! 第一回戦のゲームは『悪魔ごっこ』! ぱちぱちぱち~! ルールを説明します。現在、この地獄には千人を超すプレイヤーがいます。ですが、さすがに今の状態では数が多すぎます。なので、この一回戦ではその数を半分に減らしたいと思いまーす!』


 声は笑顔で、しかし内容はかなりの残酷さを持って声の主は続ける。


『まず、これからこの第一ゲームのフロアに133体の悪魔を下ろします。彼らは全員、人間を見ると攻撃し殺します。十二時間、彼ら悪魔に殺されずやり過ごすことそれが一回戦のゲームのルールでーす♪』


「この声の主、とんでもないこと言ってるわね」


 その説明に対し紅刃お嬢様は呆れたようにため息をつく。

 確かに、予想はしていたけれど、かなり無茶なゲームだ。ようは133体の殺戮マシーンから十二時間逃げ続けろというのだ。まさにデス・ゲーム。サバイバルというべき内容。


『ちなみに十二時間って言ったけれど、別に十二時間逃げ続けなくてもこのゲームは終了します。現在プレイヤーの数は千人ですが、この数が五百人になった時点でゲームは終了とします』


 声の主の説明に紅刃お嬢様を含むこの場の全員が「なるほど」と言った様子で頷く。

 確かに間引くことが第一ゲームの内容ならば、参加者が半分まで殺されれば十分ということか。

 つまり、このゲームの達成条件は二つ。

 十二時間殺されなように逃げ隠れること。

 もう一つは参加者の数が半分の五百人になるまで待つこと。

 まあ、どちらも逃げ隠れすることに変わりはない。


『ちなみに悪魔に対しての反撃はありです。悪魔は普通の方法では死にませんが、それでも一時的に殺すことは可能です。殺された悪魔は数分ほどその場から動きません。ですが、すぐに復活してまた活動しますので、足止めに悪魔を殺すのはありですよー♪』


 と声は楽しげに告げる。

 悪魔への反撃はあり。確かに、それは逃げるだけではなく戦うという選択肢もあり、参加者には希望も持てるだろう。

 ただし、悪魔相手に反撃が出来るのなら、だが。


『更にこのゲームに参加するのは悪魔だけではありません。死神も参加します』


「死神?」


 声の主が発したその名に僕は思わず背筋が凍る。

 し、死神か……個人的に死神は苦手だ。


『参加する死神の数は66体。ちなみに彼らは攻撃しません。ただあなた達の中に混ざるだけです』


 それに一体何の意味があるのか? 誰もが思った答えにしかし、声の主は答える。


『ですが、もし死神をあなた達が攻撃した場合、死神は問答無用でその攻撃した相手を殺します』


 なるほど。そういうことか声の主の説明に全員が理解する。

 つまり、もし先に攻撃した場合、その相手が悪魔ではなく死神だった場合、攻撃した人間は無条件で死ぬ。

 悪魔に攻撃される前にその先手を打とうとすれば、死神という厄介なジョーカーが混じっている。

 これはゲームのルールをかなり厄介にするだろう。


『では、最後の第一回戦のゲームのルールをまとめますので参考までにどうぞー☆』


『悪魔ごっこ』

・十二時間経過するか、参加者が500人になるまでゲームは続く。

・ゲーム中、悪魔が参加し、その悪魔は参加者を殺そうとする。

・悪魔は死なない(ただし殺せば少しの間動けなくなる)

・悪魔の姿は様々

・悪魔の中に死神が混じっている

・死神の姿も様々

・死神は攻撃しない

・ただし死神を攻撃した者は問答無用で殺される

・参加している悪魔の数は133体。死神の数は66体。


『それでは最後に天井にある『1200』という文字は現在のあなた達の数と悪魔、死神を足した数でーす。あ、あとその隣にある死亡の数と時間はそのままですねー。ちなみに死亡の数には殺された悪魔の数も入りますので注意してねー♪ ではでは、そんなわけで早速ゲーム開始でーす!』


 ゴーンという音がこのフロア、地獄に響き渡ったかと思うと声の主は消えた。

 そして、地獄におけるデス・ゲーム。その第一ゲームが幕を開けた。

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