第8話

 大学は、レベルがそこそこである。


 研究者になるとか、先生と呼ばれる職業になりたいとかそういうものではなくて、単純に土木建築学科のあるところに行くことにしていた。うちのじいちゃんが大工なのも多いに関係している。


「おじいちゃんに義理立てしなくてもいいのよ」

 とかーちゃんには言われたのだが、共働きの両親に変わって、まめに面倒を見てくれたのがじいちゃんであり、作業場や現場に小さな頃はよく連れて行ってもらったものだ。


「そんなわけで、大学から近いここに住むようになったんだ」

「ほうほう、そうか――お主はやりたいことがあるのだな?」


 神様に俺のことを話している。

 何故なら神様のいる場所を見せてくれたから、俺のことも話しておきたかったのだ。

 とはいえ、俺はこれからどういう進路につきたいかとか、そんなに意識していなかったので、神様にやりたいことと言われたときに、はっきりと答えることが出来なかった。


「うーん、はっきりとやりたいことっていうのは決まってないかな。大工のあとを継ぐっていうことも考えているけど、今の時勢じゃキツいっていうし。大学の勉強も基本的なところをやっているんだろうけど、俺はついていくのが精一杯だよ」

「そうじゃな、なにやらえらい難しい顔をして参考書を読んでいたからな」


 ま、お主のやりたいようにやればいいのじゃ。


 と、神様はぽつりと言った。


 ***


「ちょっと、ここまで来るってルール違反よ!」


 明け方、男女の言い争う声が聞こえた。

 あああ、やっぱここってば治安が悪いのかなぁ。

 そう思いながら俺は布団をかぶりなおす。自分の地元ではこんな諍いなんて起こったことがない。


「ちょっといいか?」


 神様がそっと押入れを開ける。

 俺は布団に潜ったまま返事をする。


「こんな諍いは聞いたことがないのじゃ、ちょっと見てきてくれい」


 ええ――嫌だ!

 と思ったけど、やっぱりぐいぐいと不思議な力で外に出されてしまった。

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