第5話

「なんだ、岩谷の爺さんのいたずらかと思ったのに……」

「なんじゃ?いたずらって?」


 神様は胡乱げに俺を見る。一拍おいて驚いた顔をした神様は


「ま、まさか妾を岩谷のおじいちゃんのいたずらじゃとか、そこらへんのホームレスが入り込んで生活しているとか、あまつさえ、ス、ストーカーかなんかとおもっているんじゃあるまいな?」


 神様は俺の心を読む特殊能力でも備わっているのか? と思うぐらい、俺の考えをズバリ言い当てる。つい俺は黙り込んでしまう。


「いいか、その全部ハズレじゃ。ましてや幻覚でも迷子でもないわっ。失礼な奴じゃ」


 ぷうっとほっぺを膨らます神様。


「見てみぃ、こんな短時間でここまで部屋を整える奴はおらんぞ」


 とほっぺを膨らませながら、顎で部屋を見ろと神様はジェスチャーする。その目線につられて俺は部屋を見回す。

 7つあったダンボールはきれいにたたまれ、中に入っていた俺の私物は以前からそこにあったかのように整然と部屋の各位置に配置されている。

 確かに岩谷さんちに行って、部屋まで戻ってくるまでに5分とかかっていない。その間に荷物をここまで整頓するのは、たぶん業者でも無理だ。


「お賽銭をこの箱にいれてくれれば掃除ぐらいはしてやってもよいが、料理はできん。ここから台所が遠くて無理じゃ」


 と、神様は神社にあるような賽銭箱の小型版を押入れの脇にちょこんと置く。うむ、これは決まりなのだ、と言いながら。

 はぁ、とよくわからないが俺は相槌を打っておく。まだこの状況に頭がついていっていない。


「ほれ、飯の時間が迫っておるぞ。はよ買いにいかんか。妾の分はスイーツで頼む。一度食してみたかったのじゃ」


 ***


 コンビニで牛丼とプリンを買ってきた。

 お茶を2つ淹れて、神様と俺の分をテーブルに置く。もちろんテーブルは押入れに横付けして、神様と向かい合わせに座る。


「おお――これがプリンというやつか。でかしたぞ!」


 プリンを目の前にしてテンションが上がりっぱなしの神様は、行くぞ! と小さな声でつぶやき、目を輝かせてプリンを口に運ぶ。そしてほおおおおと恍惚な表情になっている。

 それを見ながら俺も牛丼を平らげた。


「ふう、なんか落ち着いた」

「そうじゃな、ちょっと何か忙しかったのじゃ」


 ゆっくりと神様の話を聞く。

 神様がここに居始めたのはアパートが建ったのとおなじ頃。その間にいろいろな住人を見てきたらしい。今風な言葉を話すのは、住人やそこへ遊びに来た人、テレビなどから知識を得たらしい。

 でも、神様を見ることが出来たのは俺が初めてらしく、テンションがかなりあがっていたらしい。


「だから、うちのかーちゃんみたいな雰囲気なんだな――」

「む、それはたいがい失礼だぞ。神にしては妾はまだひよっこなのじゃからな」


 ふと神様の背景が気になった。

 どう見ても押入れじゃない。


「この中が気になったのか? お前は初めて妾のことが見えたんじゃから、特別に案内するぞ。特別じゃ」

「は、入ったら出れなくなるとかそういうのはないですよね?」

「当たり前じゃ。入るときには妾の許可がいるが、出るのは自由じゃぞ」


 やっぱりふふん、とした顔つきで神様は俺を手招きする。テーブルを脇に寄せて、俺は押入れの中に入ってみることにした。

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