第4話
ピンポーン。
岩谷さんちはアパートの隣にある一軒家だ。
ここもアパートと一緒で、なかなか古い建物である。築40年前後ぐらいの赤いトタン屋根の家である。
「はーい」
カラカラ、という軽快な音を立てて玄関が開き、そこから恰幅の良い40代のおばちゃんが顔を見せる。
「あの、203号室に新しく入った柏木と申しますが、その、入居の挨拶としてこれを……」
と必殺のお菓子をつい差し出してしまった。
それを見たおばちゃんは
「あらまあわざわざ……今、お父さんを呼びますので、少々お待ちくださいね」
と、俺のお菓子を受けとりながら奥へ行った。
しまったぁ、ついついテンパって岩谷の爺さんに渡すお菓子を娘に渡してしまったあああ。
だが、爺さんが出てくれば、あの押入れの中の得体の知れない人物について聞けそうだ。
「おお、柏木くんか。菓子、ありがとうなぁ。そう言えば、風呂はこっから3分歩いたところに銭湯があるから、そこを使用してくれよ」
と突っかけを履いてアパートとは逆の道を指す。
「一本道だから間違わないはずじゃ」
適当に俺は相槌を打ちながら、玄関から出てすぐにある道路をウロウロする爺さんのあとをついて回る。よし、今だ。
「あの、203号室なんですけど、なにかいたずらとか……」
話しながら、いやそんないたずらってあり得るのか? と思ってしまい、言葉が尻すぼみになってしまった。
俺を訝しげに見る岩谷の爺さん。
これは実際に見てもらったほうが早いと思い、
「あの、ちょっと部屋まで来ていただけますか?」
「ん? なにか使い方がわからんところでもあるんのかの」
「ええ、ちょっと気になるところがあって」
と岩谷の爺さんを部屋まで連れて行くことにした。
***
ガチャっ。と玄関のドアを開け、岩谷の爺さんと一緒に押入れの前まで行く。そして押入れのふすまを開ける。
「お、だいぶ早い挨拶じゃの。隣におるのは岩谷のおじいちゃんじゃな? 空室のときも毎日掃除しに来ていたので感謝しておる。お礼したいのじゃが、妾の姿はおじいちゃんには見えないのじゃ」
先ほどのように、神様は押入れの中から俺と岩谷の爺さんを向かい入れる。が、岩谷の爺さんは神様が見えないようで首をひねったあと、
「埃でもあったのかの――?」
と、押入れの中をぐるっと見回しているようだ。
一通り見て、異常がないことを確認した岩谷の爺さんは、
「少々古いし、使い勝手はあまり良くないかもじゃが、入居してくれたのも何かの縁じゃ、これからよろしくなぁ」
と丁寧に挨拶をしてくれた。
「いえいえ、こちらこそよろしくお願いします」
と、反射的に挨拶してしまう、だが俺は神様の姿が爺さんには見えていないことに愕然としていた。
「まあ、どこか壊れたりおかしなことがあったらわしに言いなさい。それじゃぁよろしくなぁ」
最初にここに案内したときのように、岩谷の爺さんは去ってしまった。部屋に残るのは神様と俺であった。
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