第2話

「へ?」


 今度こそ、自分なりにかなり情けない声を出したとは思う。


「なにを情けない声を出すのじゃ。神に会って初めての声がソレとは、どうしようもない奴じゃな」


 若干気が強そうな、12歳ぐらいの見た目の神様は呆れかえっていた。目の下の頬の一番高いところになにやら赤い紋様が描いてある。服装は巫女さん?のような和装。つやつやな黒髪を後ろで緩やかにまとめ、前髪はきれいに眉毛と目のあいだで切りそろえてある。


「なんじゃ? あまりの美少女っぷりに声も出ないか。だが妾はおさわり禁止じゃ」


 俺のぶしつけな目線を冗談で躱す。見た目の歳よりかなり余裕のあしらい加減が、俺のかーちゃんを彷彿とさせる。

 ん? 待てよ? ……いやいやいやいや、違うだろ!?


「あの、どうして押入れに?」


 そうそう、俺の聞きたいことはコレだよ。


「いやまあ、押入れの神だし、押入れにいるのが当たり前じゃろ?」


 そうじゃなくてぇ!

 いかん、ちょっと冷静に、聞きたいことをしっかり聞かねば。

 若干頭が痛くなってきたので、眉間を手で揉む。


「なにを難しいことを考えているのじゃ。日本には八百万の神がおるのじゃ。で、家の中の細かいところにも神はいる。わかりやすく言えば一時期歌にもなったトイレの神とか。そんなカテゴリーに妾は入っておる。分かるか?」


 うん、あれだ。

 俺はおかしくなったんだな。

 可愛い女の子の姿が見えて、さらにその子が神様だという妄想をし始めちゃったからな。


「妄想ならなにしてもいいんだよな――」


 と俺はつぶやく。

 その俺の姿を見て、女の子はため息をつく。


「信じておらんのもしょうがない。今まで神を見たことが無かったんじゃからな。でも妄想でも幻覚でもない。リアルじゃ。リ・ア・ル!」


 口を尖らせて女の子はリアルを強調してきた。

 てかなんで、今風な言葉を使うの? この神様。


「まあ、一番難度なのは見えた人に信じてもらうことじゃって姉様も言っておったしなぁ。こればっかりは時間をかける他あるまいな」


 そう言うと神様は腕組みしてウンウンと頷く仕草をした。


「そう言えば、もう日が傾いてきているが、部屋はそのままでよいのか?」


 腕時計で時間を確認すると4時をまわっている。

 う、今日は荷物を開けて挨拶周りする予定だったのに。


「ふふん、どうせ荷物ちょいっと並べて、隣近所に挨拶をして、コンビニあたりで飯でも買ってくるという予定だったのじゃろ? しょうがない、神だって信じてもらうために、特別に部屋は整えておいてやるか。特別じゃぞ?」


 やたら得意げに神様は言う。

 そして指先をちょいっと動かすと、玄関近くにあったダンボールがすすっと部屋に入ってくる。


「おお、なんだこれ!?」

「いちいちうるさい奴じゃ。ほれ、さっさと挨拶周りしてこんか」


 と、俺は見えない力で玄関先へぐいぐい押されてしまった。所在がないので、靴を履いて外に出ようとする。


「ほれ、挨拶周り用の菓子じゃ。箱から出しておいたぞ。それと部屋のことは任せておけい」


 と、俺の地元の菓子を渡されて、俺は外に出されてしまった。

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