押入れの中のかみさま

三上 ロカ

第1話

 俺、柏木享(とおる)。

 高校を卒業して大学進学のために上京し、一人暮らしをすることになった。

 そして、ここは割と安めなアパートの二階の一室。

 1K風呂なしトイレつき。


 ……割と安めじゃなくて、かなり安めだ。

 やっぱり下見をケチってネット情報だけで決めるんじゃなかった。そもそもうちのかーちゃんと一緒に見ながら部屋を決めるもんじゃない。


『あんたのために一年にいっぺんは百万円以上出費するのよー! だからやっすい部屋で我慢するのがトーゼンでしょ!』


 と勢いに押された感は否めない。


 と、改めて部屋を見渡す。

 薄い玄関ドアを開けてすぐにある、靴を三足も置けばいっぱいになってしまう玄関から立って部屋全部を見渡すと、年数なりの汚れはあるけど日当たりは良さそうで悪くはなかった。


「まあ、初めての一人暮らしだし、ちょうどいい部屋だよな――」


 埃やチリはひとつもない。俺が入居するということが決まって、大家の岩谷さんが掃除してくれたんだろう。岩谷さんは人の良さそうな老人である。


 靴を脱いで台所から部屋に入る。

 良くありそうな六畳間で、向かいに窓、左に押入れ。

 もちろん部屋の壁は昭和っぽい砂壁で、押入れの模様も激しく昭和っぽい柄。

 畳は青くて新しいにおいがする。

 陽のあたる窓を開けると、一畳ほどのベランダ。ここには洗濯機が置けるようになっていて、洗ってすぐに干せるという便利仕様になっている。


「さて、残りは押入れ」


 窓を閉めて、昭和風なふすまをガラッと開ける。


「やあ、はじめまして。わたしは――」

「は?」


 スターン!

 あまりにびっくりしすぎて、俺は勢いよくふすまを閉める。なにか押入れにそぐわない人物と背景が見えたようだが……。


 ふすまはシンと静まり返っている。

 もしも誰かが生活していたのなら、物音がしたり、ふすまが開きそうなもんだが、何もない。


 三分ほど待っても何もならないので、意を決してもう一度ふすまを開けてみる。

 さっきとは違い、おそるおそるになるのはしょうがないと思う。


 そろっと静かにふすまを少しづつ開ける。


 3センチ。

 何もない。


 5センチ。

 何か押入れが明るい?


 10センチ。

「おいこらぁ! 何のぞこーとしてるんだ!」

 女性というか、女の子の怒鳴り声が聞こえた。

 その怒鳴り声にビクッとして俺は再びふすまを閉めようとしたとき、中から小さな手が出てきて、ガッとふすまを掴み、そして完璧に押入れが開いた。


「ひぃっ!」


 つい情けない声を上げてしまった。

 その俺の声を聞いた押入れの中の人物……女の子はひとしきりケラケラと笑っていたが、何かに気づいたらしく、ゴ、ゴホン! と咳をし、息を整えて挨拶をしてきた。


「やあ、はじめまして。妾はここに封じられている神じゃ。よろしくな」

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