第9話ラビー

うさぎの形に刈り込まれた木の裏へ周り込むと、薄汚れてくたびれた茶色い着ぐるみのウサギが、へたりこんでいた。隣に隼太がしゃがんでいる。それを見た彩花が言った。

「…隼太、どうしたの?」

 隼太は分からないという様にジェスチャーで、両手を上げて肩をすくめて見せる。

 莉奈がウサギに話しかけた。

「私達、招待状を貰ったの。でも迎えに来た金魚さんから、『助けて下さい』って言われて…。何があったか話してくれる?」

 するとウサギは立ち上がりながら大きくジャンプした。空中で一回転してふわりと着地し、ぺこりと頭を下げた。

「お客さまでしたか。失礼致しました。私は案内人のウサギのラビーと申します。よろしく。」

 薄汚れたウサギは薄汚れた手を薄汚れたお腹で拭(ふ)き、莉奈達1人ひとりの手を握った。どうやら怪しい者では無いと慎士が判断した様で、握っていた剣が鉄の棒に戻る。

「お話するのは構わないのですが、奴等が戻って来るといけませんので、その、お客さまには失礼かもしれませんが、あちらにスタッフルームがございますので、そこでお話しましょう。」

 ウサギのラビーはそう言うと丘の陰にある木造の小屋へ向かって跳びはねて行く。

「なあ、勝手な意見だけどさ。遊園地って青空のイメージがあるんだよ。ま、一年間、晴れの日も曇りの日も、モチロン雨の日もあるさ。だけど、なんかな。」

 ラビーの後を着いて歩きながら、隼太の話を聞き、空を見上げる。つい先程、金魚の背から降り立ったときには無かった雨雲が、島の山の方からぐんぐんと広がって来ていた。

「コレ、一雨ひとあめ来そうだね。」

 4人は、ラビーを追いかけて走った。




 こじんまりとしたスタッフルームの中には、メルヘンな世界があった。

「ステキ!」

 莉奈は喜んだ。

「おおっ、スゲエ。」

 隼太が賛同する。が…。

「いや、甘すぎじゃない?」

「落ち着けない…。」

 彩花と慎士には不評だ。

 部屋は全体的に遊園地特有の色使いで、森の風景が描かれている。テーブルは大きな切り株。イスは花やキノコの形…。フェイクレザーかゴムで出来たイスの座り心地は悪くは無かったが、安定感には欠けていた。

 そこへラビーが紙コップとお茶菓子を人数分持って来た。

「木苺の紅茶とクッキーです。どうぞ。」

「えっと、ありがとう。」

 とりあえず、頂いた。クッキーは食べやすい様に一口サイズで、アーモンド・ピーナツ・胡桃が入っていて香ばしかった。紅茶は香りが良いので砂糖を入れなくても、クッキーに合っていて美味しかった。

「それで、何があったんだ?ラビー。」

 慎士が口火を切る。

「はい。それがですね…。」

 ラビーが話し始めた。




 莉奈達が招待され、ここへ来るのはもう随分前から知らされていたらしい。久し振りのお客様に、スタッフは遊具の点検や清掃に力が入った。そうして何処もかしこも完璧に仕上げ終わり、最後のミーティングをしていた昨夜、敵の襲来を受けたと言う。

「敵?」

「はい。」

「どんな奴ら?何処から来たんだ?」

 慎士が代表で話を進める。他の3人は球技の試合の様に左右に首を振った。

「黒い奴らです。何処から来たのかは分かりません。気づいたら暴れてました。正確な人数も分かりません。ただ、奴らのリーダーらしき人物が言ってました。山の上のお城に私達のオーナーが住んでいるのですが、次はそこへ向かうと。オーナーは大変優しい方で、少し病弱なのです。どうか、どうか、オーナーを助けて下さい!お願いします!」

 ラビーが頭を下げる。

「よし、任せておけ!」

 隼太が怒鳴りながら立ち上がった。

「で、とりあえず、どーすりゃ良いんだ?」

 そう言いながら、また座った。

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