第8話 スイッチ

 7色に輝く虹の橋を渡る。…それは誰でも子供の頃に、1度はやってみたいと思ったことがあるのでは無いだろうか。だが、虹とは水滴に光が反射した物であって、固体ではないので…。

「常識で考えられない世界なのは、分かったけど。コレ、ふわふわで立ちづらいから恐いね。」

 彩花が莉奈に言う。

「そうだね。下がスケルトンなのも、ちょっと…。」

 下の池が透けて見える上に安定しない足触りで、女子二人は映画やアニメの様に軽やかに歩くことは断念した。

 ところが隼太は、ー。

「これ、すげぇぞ!念じるだけで前に進める!」

 そう言ってスライディングポーズで去って行った。

「…あいつの発想力がときどき羨ましくなるんだよ、俺。」

 慎士が腰に両手をあてて複雑そうに呟いた。それに彩花が返す。

「そうね。…でも覚えてない?中2のときの合唱祭!…何だったかなぁ?行き詰まったときがあったじゃない。そしたら、隼太が目からウロコなことを言ったのよ。それで上手くまとまった覚えがあるの。」

 莉奈は聞きながら、自分の中学生時代を思い出していた。

「中学って反抗期とか思春期とか…。部活に受験…、私が通ってた学校トコ荒れてるときがあって。教室がピリピリしているときもあったの。」

「そうなんだ。隼太アイツがムードメーカーだから、俺達の周りは割と何とかなってたな。石田さん、東中?あそこマンモス校だもんな。」

 人数が多い分、軋轢あつれきも増えるのだろう、と慎士がねぎらった。

「あっ、隼太、もう岸についたみたい。行こ。」

 彩花はそう言って莉奈の手を握った。目が気遣う様に微笑んでいた。莉奈はこの二人は優しいな、と思った。

「うん。」

 3人は隼太の所へ向かった。



 岸には大きくてカラフルな看板があった。『WELCOME TO THE CHILDHOOD ISLAND』の文字がかろうじて読み取れる。というのもその看板はかなりボロかったのだ。

 看板の脇に金色の大きな門があるが所々ところどころメッキはげ、歪んでおり、片方は取れかかっている。

「遊園地、かな?楽しく無さそうだけど。」

 彩花がポツリ呟く。

「金魚さん、『助けて下さい』って言ってたよね、何かあったのかな。」

「招かれざる客の来襲って感じだな。」

 慎士が歪んだ門の奥の敷地内を睨み、低い声で言った。

「…行ってみようぜ。ただ、慎士が先頭になってくれ。」

 隼太はそう言うと壊れた門から外れかかった棒状の一部を、両手と足を使って外し慎士に渡した。

 それを慎士が受け取ると、棒から金色の霧が吹き出し霧が消えると長い剣になった。

「オレ、なんか変な物渡したっけ?」

 呆気に取られた隼太に、慎士がキッパリと言い放つ。

「無問題だ。むしろ丁度良い!」

「慎士が長物持つと性格変わるの忘れてた!」

 隼太が焦って叫ぶ。びっくりした莉奈が彩花を見ると、苦笑いしている。

「まあ、気が大きくなるだけよ。でも、剣道歴長いらしいから、安心して後を着いて行けるわ。」

 隼太が重ねて言う。

「枯れ枝じゃ変身しなかったけどな。握り具合が関係してんのかな?…慎士スイッチが入ったし、行こうぜ。」

 こうして、慎士・莉奈・彩花・隼太の順で門の隙間を通り抜けた。

 中はガランとしていた。通路は広々としてなだらかな下り坂だ。両脇に花壇があるが、あまり花が無いと思ってよく見ると、荒らされた形跡がある。

 暫く歩いていると、先頭を歩いていた慎士が急に立ち止まり、右手で剣を持ち、左手を横へ伸ばして皆の行く手をはばむ。

「…誰かいる。」

 目を細め、左右をゆっくりと見回すしぐさは、確かに武道を長く続けて来た者のたたずまいである。

「そこだっ。」

 慎士が剣で方向を示した瞬間に、隼太が駆け出す。ウサギを模して刈り込まれた植木の後ろに回り込んで行く。

「うわあああっ!!」

 何者かの叫び声が、寂しげな園内に響いた。

「あ、なんだ。ウサギさんかあ。」

 隼太は基本的に生き物に優しい様だ…。どんなウサギなのか、莉奈達の所からは見えない。先程の声からはオッサンしか想像出来ないのだが。

 隼太の所へ3人も行くことにした。

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