第7話 虹の橋

「見えて来ましたっ!あそこです!」

 巨大金魚の背中で風圧に耐えつつ星空を楽しんでいると、不意に金魚が嬉しそうな声を出した。前方の海の中に小さな島が見える。

「えっ!?こんなことって…。」

 自分達が住んでいる県の近くに、こんな島があったことに驚いた。

「ここが、さっき言ってた島?」

 隼太が問いかけると、金魚が自慢気に答えた。

「そうです。チャイルドフット アイランドです!着陸準備に入ります、しっかりつかまってて下さいね。」

 そう言うと金魚は、口元のプロペラの動きをゆるやかにし、鳥の様な大きな翼を水平に保ち、トンボの様な羽を先程までとは逆に柔らかく下から上へと動かし、尾びれと一体化した巨大お祭り用のうちわは風を受け止めたり流したりと、莉奈達の思いから出現した、金魚には本来ない装備とも言えそうなそれらをたくみにあやつる。

 ゆっくりと島に近付きつつ、高度が下がっていくと、島の様子が良く見えて来た。

 それほど大きな島では無い。この島には砂浜が無いようだ。全方向が崖になっていて中央が低い、いわゆる盆地である。島の手前側はいろいろな建物や公園のような物が見えた。奥の方は森になっており、その中央に古城が突き出る様にそびえていた。島の外れの方に大きな池があり、金魚はそこへだんだんと近づいて行く…。



 金魚が池にそっと体の下半分だけ着水すると、池の端から虹色のキラキラと光る橋が金魚に乗った莉奈達の所へ伸びてきた。

「私がお送り出来るのはここまでです。どうぞお気を付けて!…この橋を通り抜けた所にあるゲートを抜けますと、係りの者がおりますので説明は彼に受けて下さい。」

 莉奈達が金魚から降りると、金魚の体が光り、プロペラ・翼・羽・うちわが消え、その体が縮み、普通よりちょっとだけ大きめな金魚になった。金魚はまるでバイバイをするかの様にヒレを動かすと、とぷんっと水の中に飛び込んで行った。


「乗せてくれて、ありがとうな!」

 隼太が大声を出す。慎士はスマホを取り出し、アンテナを確認すると首を横に振った。莉奈もスマホを見て気付いたことがある。

「…時間の表示がおかしいよ…?」

 皆が莉奈の携帯電話を覗くと88:88の文字が…。慌ててそれぞれ自分の携帯を確認する。

「ホントだ!こんな事って…。全員がそうなら、壊れたワケじゃないのよね?」

 彩花が顔をひきつらせる。

「それに向こうを出たのは夜になったばかりだったのに、ここは朝みたい。来るのにそんなに時間かかって無いのに…。」

 莉奈は気付いた事を話した。皆黙って聞いてくれる。と、隼太がうなり出す。

「うぉ〰っ、電波無えし…。はぁー、今夜のバラエティー番組迄に、帰れんのかなぁ?」

 半分ふざけて言う隼太の目が泳いでいる。

「ま、なるようになれ、だ。それより、この橋がいつまで出現してるか分からないから、移動した方が良くないか?」

 冷静に分析した慎士だった。言われた莉奈達はここが池の上で、魔法の様な不思議な橋の上だということを思い出した。

「そうね、取り合えず行ってみるしかないわね。」

 彩花の言葉にあきらめと決意がにじんでいた。

 そして、四人は岸へ向かって虹の橋の上を歩き出した。

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