25:親バレ

 「ひひっ……ふふふふっ……!」

 

 俺は居間で、独り気持ち悪い声を発した。

 

 ポテチを食いながら、スマホを見ているところだ。スマホには、この間、ゲームセンターで撮ったユウの動画が映し出されている。

 

 う~ん……いつ見ても可愛いな!

 

 動画で撮ると、その時は見えなかったところもじっくり見れるというのが、何より良い。小さなスマホ画面を、舐めるように観察してしまう。

 

 ちょっと気持ち悪いかな俺?

 

 ……でもぜんぶ、ユウが可愛すぎるから悪いんだ。あんな可愛い子と一緒に生活してたら、色々と溜まるものも溜まるよな……。健全な男子高校生なら、誰でもそうなるに決まってる。


 こうしてのんびりと動画を見返すのは、鬱屈したものを発散するちょうどいい機会だった。

 

 『あっ、お兄ちゃんっ♡ もう少しで上手くいくっ、いきそうだよぉ……❤』

 

 「うわ、こんなにお尻突き出してるよ……。エッロ……ははははっ!」

 

 家に誰も居ないのをいいことに、俺は調子に乗って独り言を口走る。

 

 『もうちょっと、もうちょっと……腕を、奥っ、おくにぃっ、奥までぇっ……❤ くぁっ、ぁ、ぁーっ……』

 

 「まじでエロいなぁ~……この声やばいわ」


 ユウの痴態に、俺は生唾を飲み込む。まるで、その手のいかがわしいビデオでも見ているみたいだ。

 

 そして、

 

 『もうちょっとでイケる……イケそうなのに……❤ おねがいっ、もう少し、もう少しぃっ……❤ ……あ、あああぁぁぁぁ~~~~っ……!?』

 

 「はぁ、はぁ……よし、イったな! あースッキリしたスッキリした!」 

 「タッちゃん、いったい何を見てるの……?」

 

 とつぜん、女性のか細い声がする。

 

 振り向くと、いつの間にか母がいた。

 

 「……っ!?」

 

 俺の心臓が急に動悸を打ちはじめる。

 

 エロい動画を見てる所を、母に見られてしまったみたいだ……。

 

 「う、うわああああああああああああっ!!」

 

 急いでスマホを隠し、立ち上がろうとする。

 

 けど焦りまくっていたので、すっ転んでしまった。椅子を倒しながら、床に尻餅をついてしまう。

 

 「いってええええ!」

 

 しかも、悪いことは重なるもので……

 

 転んだ拍子に、スマホの変なところに手が触れてしまったらしい。いきなり、動画が再生され、

 

 『はぁ、はぁっ……❤ おにいちゃんっ、ボク、うごくの、疲れてきちゃったよぉ……っ♡』

 

 と、色っぽい声が居間に鳴り響いた。

 

 ぶわっ……と、俺の額に汗がにじむ。

 

 「ちょっ、チョット待って! 母さん、これは違う、違うんだ! 何かの間違いで……そう、間違って、エロ動画を踏んじゃっただけなんだよ! 別にやましいことは何もっ! 信じて、お願い!」

 

 母は、にこっと菩薩のように笑った。けれど、ちょっと口の端が引きつっている……。

 

 「……いいのよ、タッちゃん。そんなに慌てなくて。男の子だもんね」

 「ああああああああっ!? ち、違う、その台詞はまだ勘違いしてるぅぅぅっ!」

 

 なまじユウの声が女性的でセクシーなだけに、「そういう動画」を見ていると思われてしまったらしい。

 

 「いや、本当にいいのよタッちゃん。気にしないで」

 

 こ、こりゃダメだ。母はまだドン引きしたような目をしていた……。


 「で、でも、そういうのは自分のお部屋で見たほうがいいかもね」

 「……は、はい、すいませんでした」

 

 説得を諦め、俺は頭を垂れた。あー、なんだよ、親に見られるなんて……めちゃくちゃ恥ずかしい。

 

 それに。バレてはいないみたいだけど、もしユウに「そういう感情」を抱いているって知られたら。

 

 か、勘当とかされるのかな? やだなぁ……。

 

 「母さん、なんでこんな帰ってくるの早かったん……?」

 「母さんのお友達が、車で送ってくれてね。おかげで大分早く帰って来れたの」

 「あ、そう……」


 余計なことをしてくれたやつのせいで、俺のメンタルが破壊されてしまったみたいだ。はぁ……。

 

 いたたまれなくなり、さっさと自分の部屋に行こうとすると、

 

 「あ、ところでタッちゃん」

 「何? 母さん」

 「今のビデオの声……すごくユウちゃんの声に似てた気がするんだけど、気のせいかな?」 

 「きっ……気のせい! 絶対気のせい!」

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