22:朝会は大騒ぎ

 ある日、学校で朝会があった。

 

 中等部と高等部、双方の生徒が集まっている。

 

 校長先生が何か話しているが、生徒の話し声で微妙にざわざわしていた。

 

 「ふわぁぁっ……眠いねー、タッちゃん」

 

 と、明日香は心底眠そうに欠伸していた。

 

 「なんだ、夜中に携帯でもいじってたのか?」

 

 特に、昨日の晩はメールも電話もしなかったはずだけど。

 

 「そうそう、そうなの。こないだのユウ君のかわいい姿を思い出して、ついいじっちゃって……ぜんぜん寝れなかったの!」

 「……あ、そう」

 

 ……なんだか怪しい発言をされたぞ。

 

 「あぁっ、ちょっとツッコんでよぉ、せっかくボケたのにーっ」

 「ツッコめるかそんなもん!」

 

 いかがわしい会話をしているせいで、周りのクラスメイトから「またこいつらか……」という目で見られている。あーあ……。

 

 「それにしても、校長先生、話長いよねー。もうちょっと面白い話し方とかすればいいのに」

 「面白いってどんな?」

 「うーん……ダースベ○ダーみたいに黒い兜かぶって、『コーホーコーホー』ってしゃべっちゃうとか!」

 「それ、面黒おもくろくなってるぞ……」

 

 などと下らないことを話していたら、校長先生は壇から下った。

 

 入れ替わりに、別の生徒――中等部の学生がマイクを握る。

 

 『ええっと……ほ、保険委員会から、お知らせですっ♡ 最近、校内でインフルエンザが流行っています。予防のために、かならずうがい手洗いを――』

 

 やたらに、愛想がよく色っぽい声。

 

 ……それは、ユウだった。

 

 そういえば、保険委員をやっていると聞いたことがある。

 

 耳をとろけさせるような甘い声がマイクで増幅され、全校生徒がいっせいに顔を上げた。

 

 何しろ、ユウはアナウンスの仕事も本職でやっているわけだし。しゃべり方もかなり上手い。

 

 おしゃべりも止んで、みんな一心に聞き入っていた。

 

 突然の静寂に、話しているユウ自身がいちばん戸惑っている。

 

 『え、えっと――あの……あれっ……? な、なんで、みんな急に黙っちゃったの? 校長先生が話してたときは、すごいうるさかったのに……?』

 

 という本音を、マイクで全校生徒に聞かせてしまう始末だ。とたんに、体育館がどっと笑いに包まれた。

 

 「あはははっ、ユウ君かわいい~~っ!」

 「ぷっ……そ、そうだな……!」

 

 『――えっと、あと、怪我などをした際は、クラスの保険委員さんに言って、遠慮なく保健室へきてくださいね♡ それでは、ボク……い、いえ! 保険委員会からは、以上です』

 

 ユウは焦って言い終え、ぺこりと頭を下げた。

 

 大した話をしたわけでもないけど、体育館全体が割れるような拍手につつまれた。


 ほどなく朝会が終わり、先に中学生が退出した。

 

 うーん……。

 

 今日の朝会で、ユウの知名度が一気に上がっちゃったのでは?

 

 どうしよう……。その辺のヤリチンorヤリマンにでも、目をつけられたら。

 

 と悩んでいたら、案の定――

 

 「ねぇねぇ、今の超可愛い子ってさ、和泉わいずみくんの弟だってホント!?」 


 などと、クラスの女子に話しかけられてしまった。

 

 途端に、女子も男子も、近くにいたやつが俺を包囲して、

 

 「おい、竜也たつや! お前超うらやましいぞ、あんな可愛いのが弟なんて! なんで教えてくれなかったんだよ! 名前はなんていうんだ!?」

 「ゆ、優斗ゆうと……だけど」

 「キャーっ、名前まで可愛いっ! ねぇ、和泉くん、紹介してくれない? それか連絡先!」

 「はぁっ?! お、お断りだ! 弟は俺の――」

 「おい竜也! もったいぶってないで、連絡先くらい教えてくれよ!」

 

 俺はもみくちゃにされて、集団リンチにされかけてしまう。み、みんな怖い……だって、目が血走ってるんだもん。


 「い、いやだーっ!」 

 「ほら、タッちゃん、こっち!」

 「あ、明日香!」

 

 明日香に手を引っ張られ、俺は包囲を脱出する。

 

 「助かった! はぁ、まったく、ミーハーなやつらめ。さ、教室に帰ろ――」

 

 俺は、言葉を詰まらせた。

 

 教室に帰るどころか、体育館から出ることもできない。中学生が人だかりになっていた。

  

 中学生の波は、保健室のほうへ続いていた。

 

 「え、何これ……?」

 「あ、分かった!ユウ君、『保健室にいつでも来てくださいね♡』って言ってたでしょ!? みんな、ユウ君に会いに行ってるんじゃない? 私も、寝不足で具合悪いから、ユウ君に治療してもらおっかなぁ……添い寝もしてもらって。うふふふっ♪」

 「こ、この色ボケどもがぁっ!」

 

 俺は思わず怒鳴った。

 

 アホなコトを言う明日香をよそに、ユウに電話をかけてみる。

 

 「もしもしっ、ユウ! お前、大丈夫か……?!」

 『あっ、お兄ちゃん……!』

 

 第一声から、ユウはものすごく不安そうだった。

 

 『あ、あのね。皆がついてきて……保健室から出られなくなっちゃってるの! 助けて!』

 「えええぇ~~っ!?」


 そんなバカな……。

 

 人が押し寄せて、部屋から出られなくなっちゃうなんて。ユウはどんだけ人気があるんだ……!?

 

 俺はけっきょく、教師と警察を召喚し、半日経ってようやくユウは保健室から解放されたのだが……それはまた、別のお話である。

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